ふじや食堂で朝食を。〈ふじや食堂_小川西町〉
そろそろ再開発が始まる小川駅のあの食堂のことが気になって、仕事の妻と学校の息子を見送る早く起きた土曜日に朝ごはんを食べに行こうと小平から小川だけど電車で下る。
高校3年間をこの駅の西口から校舎へ向かうで過ごした思い入れのある駅。代り映えのしない古びた階段を降りあの頃の通学路を歩くと、面影が残る店舗の閉店の張り紙にセンチな気持ちになる町並み。
雑多に店が並ぶ線路に沿う通りをどこまで再開発になるのかなと確かめながら、ゆっくりと進みぶつかる仲宿通りのファミマの先に、薄黄色のテントの下に掛る白の暖簾を見つけてほっとする。
5年くらい前に息子のサッカーの応援で小川西グランドに向かう途中に気が付くも、その醸す気配になんとなく躊躇するを勇気を出して暖簾をくぐってから、たまにごはんを食べに来ていた「ふじや食堂」。
久しぶりと暖簾をくぐる10時40分。一番乗り。たたきの床に並ぶテーブルの食堂然とした変わらないたたずまい。厨房の中のお母さんとたぶん娘さんがいらっしゃいと迎えてくれる。
厨房との壁にかかる黒板と短冊にお品書き。イナダ刺しからはじまる板書には、かきフライ380、あじフライ280、ロースかつ300、肉もやしイタメ220、…とおかずと一品とご飯のサイズにみそ汁とビールとコーラと並ぶ。
それぞれで頼む食堂。こういう食堂が好き。あれとこれとそれと悩む小さな楽しみのしあわせな時間。おかずは、あじか、肉もやしか、でも気分はハムエッグという響きだけでごはん一杯いけるハムエッグを主役とする。
みそ汁かとん汁は迷わずとん汁一択。マカロニサラダをどうするかで悩んで悩んで悩むもまだそんなに空いていないお腹の具合で後ろ髪をひかれつつも頼まないことにして、すいませーんとハムエッグと豚汁と小盛りのライスを注文する。
おいらの為におもむろに調理がはじまる厨房にいらっしゃいとお父さんが現れていつもの布陣に。柔らかに日が差し込むテレビのワイドショーが流れる一人のホールに、凛とした空気が淀む居心地の良さにただ浸りのんびりと待つ。
しばらくして湯気が立つとん汁とごはんをのせて運ばれるお盆。四角いハムが顔を出す二つの目玉が愛くるしく、山吹色の奈良漬けに生唾が出る。一緒にのる濃い色の緑茶にごはんを食べるぞの気持ちになる。
お盆の端に添えられる紙片に640。おかずと豚汁とごはんを合算したさりげなく置かれるお会計が書かれたこの紙の心遣いが嬉しくこの店が好きな理由の一つ。
いただきますと箸を割り目玉焼きを摘まむと、素の白身に大判のハムの塩気が交じり合う素朴な玉子。醤油だなと醤油を振り回す。
ちょっと触れただけで崩れる黄身の半熟具合にそわそわと箸を立て、トロリと流れる黄身を白身やキャベツで大切にすくいごはんにのせて頬張って、ほんのり沁みる醤油の加減にしあわせになる。
ズズと啜る大根と玉ねぎとごぼうとにんじんとにらと豆腐と豚が沈む、野菜と豚の甘みが染み出す味噌スープ。野菜のしゃっきりとした歯応えと豚のほどよい硬さを噛み締めておいしいと一息つく。
漬物、ごはん、ハムエッグ、とん汁と四角に食べてお茶を飲み満足する。
食べ終わる頃にやって来たおばちゃんズがお品書きを見てアラカルトねと楽しそう。私はあれ、私はこれに、私はやっぱりハムエッグに大きく頷く。それから瓶ビール1本にグラス3つに混ざりたいと心から思う。
640の紙を手渡してお会計をする時にいつからですかと聞いてみる。古いよとお母さん。40年ほど前にこの先の高校に通ってましたと話すとその頃にはやってたねと。
ごめんなさい、あの頃に通ったのは手前にあった中華の『豊楽』。
そのうちに肉豆腐とマカロニサラダでとりあえずビールと心に決めました。なんでまだまだ続いていてくださいと心の中でつぶやいてごちそうさまと日常に戻る。
(は)