焼肉を食べたい夜。〈炭火焼肉凱旋門_花小金井〉
土曜日の夕方。
妻:「豚肉あるから生姜焼きにしようと思ってるんだけど」
俺:「塩胡椒だけで焼いたのがいい」
妻:「やっぱりそっち」
俺:「大学の近くにあった定食屋の豚肉を塩胡椒で炒めた焼肉定食に別売の小鉢のマカロニサダとしらすおろしを付けてがいまだに心のベスト10第一位の定食なんだよ」
妻:「もう耳にタコ出来るくらい聞いた」
なんて会話をしていたら、焼肉食べに行こうかと妻、久しぶりに『安楽亭』にと。すっとその誘いに心が入る。そういえば焼肉を食べてない。
そうしようと部活の息子にLINEを送り帰りを待つことにする。そして、どうせなら『安楽亭』ではなくあそこに行かないかと伺いを立ててみる。
あそこは東京街道と新青梅街道に挟まれた小金井街道沿いにある『炭火焼肉凱旋門』。
このまちに越して来た頃にFC東京の選手のサインが並ぶ店内の写真を何かで見かけて気になると訪れてみたら、気さくで話が弾むご主人の立ち振る舞いとおいしいお肉らに魅了され好きになる。
妻も良いねと話にのり、今かと待つ息子がやっと20時前に帰って来て家族で空腹。急いで電話をかけて席が空いているを確認して、勇んでチャリを漕ぎ吹きすさぶ北風に立ち向かうもめっちゃ寒い。いや、ほんと寒い。凍える寸前の1月の夜。
なんとか辿り着きチャリを止めて小走りで店内に転がり込むと炭火が燃える温かさに心が融ける。お母さんに案内されるテーブルに座り差し出される温かいおしぼりがほんとに温かくかじかむ手が生き返る。
古さを感じない丁寧にされている店内で、眞露のボトルとアイスペールを並べてご満悦なじいちゃんとその一族と、ファミリーセットを頬張る小さい子供とお父さんとお母さんに、がっつり肉を焼く若い男子2人組の和やかで楽し気な宴な雰囲気に巻き込まれてもう楽しい気分。
いいお値段のお肉はたしかにいいお値段。だけど手頃な値段のお肉や海鮮に野菜と刺しにキムチとスープにクッパの方が多いと思う。あれとこれ、これとあれとあれも食べたいとみんなで悩み「すいませーん」。
気持ちは大きく上タン塩と上ハラミと上カルビを2人前と上レバー1人前をお願いする。それとにんにくオイル焼きにチャンジャとキムチとユッケジャンスープに息子の大ライスと生ビールとオレンジジュース。
アルミ容器のごま油に浸かるにんにくを網の上にのせて乾杯と始める宴。
頬張るチャンジャのコリコリとしたこくある辛みと白菜のキムチの瑞々しくほんのりとした辛みにビールがすすむ。
届く肉に最近友達と食べ放題の焼肉を食べに行った息子が「透けてない」とテンションを上げているのを笑い流してタンから焼く。トングでつかみ網に乗せてさっと炙って炙って炙りレモンのタレに付けてがぶり。
ほどよい噛み心地と淡白な旨み。うん、これがタンと悦に入る。
胡麻が散りタレが掛かるハラミとカルビは赤に白と白に赤のそれぞれのコントラストが眩しく見惚れてしまう。
ハラミを肉の焼き方の指南通りに中央に置かず周辺に並べ大切に焼く奉行。薄っすら焼き色がつくタイミングでタレに浸し口に運ぶ。むぎゅと弾力ある噛みしめて肉なほどよくあぶらと赤身が交じる肉肉しいホルモン。ハラミに目覚めたのは大人になってから。出会えて良かったとただ感謝。
縦横無尽にさしが入るほんのり桃色の厚切りのカルビに浮き立つ心。網に載せるとあぶらが落ちて炎があがる。大切に場所をずらしながら焼き過ぎないように炙り焼き上げ、噛みしめると口の中でとろける肉。至福でしかないと夢見心地に。
たっぷりとタレに浸した肉を米にまぶして頬張る息子。おいしそう。正統な米の扱いだと思う。気持ちよく平らげておかわりと差し出す茶碗。
大人はおかわりでメガハイボール。とてもでかいのが来てびっくりするもこういうのが我が家の好み。
そろそろ良いんじゃねとごま油を吸いきつね色に染まるにんにくをはふはふと頬張るとほくほくでいい塩気。無くてはならないバイプレーヤーだねなんて話す。
そしてヌラヌラとテカるレバーをやさしく炙り、塩の入るごま油に泳がせて頬張ると臭みなくふわふわで引き締まるなめらかな舌触りの甘みすら感じる味わいに昇天する。
これもう一度食べたいとレバーラバーの妻が興奮し、注文するも今日は売り切れ、残念。たしかにこれは売り切れるなレバーでした。
箸休めで啜るたっぷりと具が入るユッケジャンスープのこく深い辛旨に発汗しハイボールを流し込む。
締めで冷麺頼んでいい?と息子。さすが若人、よく食べられるねとからかい笑う。
運ばれる冷麺は澄んだスープのきゅうり、肉、ゆで卵とのる上品な盛り付けの王道の冷麺顔。 一口もらうとあっさりとやさしい汁にぱっつんの弾ける透き通るような麺。うん、おいしい。
大人はユッケで締めることにする。卵黄にユッケとタレをまぶしてとろっとろのを頬張ると甘みが広がるやさしいコラボ。ほっぺが落ちると口に出る。
すべて平らげておいしかったと満足しみんな笑顔で楽しむ余韻。
気持ち良くお会計~なんてほろ酔いでお願いして届く重厚な黒いホルダーに挟まる明細の金額を見てふと我に返る。
ぐっと気を持ち直しカードを渡しておいしかったですと笑顔で伝える。
外に出てこの寒さもしあわせ。店の前の赤いコカ・コーラのベンチもあの頃のままな気がする。やっぱり久しぶりに来て良かった。働いてまた来よう。
ごちそうさまでした。
(は)