どこかへたどり着くまで、選び続けよう。
お店に入ってから、
どれくらいの時間が経っただろう。
この喫茶店の自慢と書かれていた
焙煎のホットコーヒーは冷めてしまい、
さっきまで漂っていた美味しい香りも
すっかり消えてしまっていた。
例えば、
「来月からウルトラマンか仮面ライダーになれるけどどっちがいいか」
という選択肢を提示されたら、
あなたならどちらを選ぶだろう?
例えがちょっと突拍子もないのは置いといて・・。
僕は、まさに今、そんな状況を迎えていた。
2020年2月12日。
中国で流行しはじめた新型コロナウィルスは、
日本でも少しずつその感染者が増え始めた頃。
僕は、転職活動の真っ最中だった。
そして、とある会社への内定承諾の回答期日でもあった。
今日回答しなければいけないA社。
少し先まで待ってもらっているB社。
退職をしてから毎日つけていた日記と
にらめっこをしてみる。
A社に入ればこうなって、
B社に入ればこうなる。
どちらの未来も捨てがたい。
どちらの選択肢も見てみたい。
でも当然、どちらも!は選ぶことができない。
なぜ人は分身が出来ないんだろう?
いや、念じ続ければどうにかならないか…?
そんな妄想で現実逃避をしている間にも、
時間は刻一刻と過ぎていく。
・・・
この日、
今まで一度も入った事のなかった喫茶店を、
人生の第2章を迎える場所に選んでいた。
漫画やドラマだとこういう時、
自分の人生を決定づける
出逢いとか助言が突然舞い込んできて、
背中を押してくれたりする。
そして後々になって、
「あの時、運命的な出逢いがあったんですよね。」
なんて振り返ってみたりして。
しかし、待てと暮らせど何も起こらない。
むしろふと我にかえり、
この期に及んで神様か何かの力を借りようと
期待している自分に気づき呆れるだけだった。
さっきまで明るかった外はすっかり暗くなり、
隣の席のお客さんは、
少なくとも2組は入れ変わっていた。
「自分でちゃんと選べってことでしょ、分かってますよ・・!」
僕は期待していた何かに対して、
心の中で言い返した。
・・・
20時42分。
ようやく、担当者の方に連絡を入れた。
かれこれ半年以上にわたって、
声をかけ続けてもらっていたことが大きかったかもしれない。
結局、僕はA社を選ぶことにした。
選択の理由を「誰か」に委ねるべきではない
と思う一方で、
こういうご縁を大切にしていくのも
間違いではないと思っていた。
いや、正直に言うと、
正解を探しても見つかりっこなくて。
動いてみた先に、
また新たな選択を積み重ねていくしかない
と分かっていて。
「もう進んでみるしかないぞ!」と。
自分自身に対して観念していた部分もあった。
通話時間はわずか7分。
悩みに悩んだわりに、
最後はあっさりと終えてしまったが、
僕は一世一代の「選択」の瞬間を終えた。
・・・
さて、
その後の新生活はどうだったかというと。
コロナの感染が広がりはじめたことにより
入社後わずか3週間で会社に行けなくなった。
まったく持って予想外の展開だ。
新しい環境に慣れるどころか、
まずその環境にすら行けない。
「おれの人生、彩りありすぎでしょ・・。」
予想外の展開が起こりがちな人生だったが、
今回の予想外には我ながら笑ってしまった。
・・・
2020年12月31日。
あれから10ヶ月が経った。
僕は、あの日以来もう一度、
あのカフェに足を運んでいる。
大変な状況下ではあったが、
なんとか一年の終わりを迎えることができたとホッと一息つく。
選んだ選択肢の中で見えてきたこともあるし、
もう一方を選んでたらどうなっていただろう?
と、今でも想像をしてみたりもする。
僕は結局、
いまだにみっともないほどずっと迷っている。
でも、
そんな姿がとても自分らしい気もしている。
迷いながら、でもあれこれ試してみながら、
いつもやってきたんだよな。
そんな風に、
例のごとくホットコーヒーを飲みながら、
来年も相変わらず迷っているであろう自分の姿を思い浮かべている。
それでも、
この10ヶ月を歩いてこれた自分がいるから、
きっとなんとかなるだろう、とも思えている。
・・・
違ったら、また探しなおそう。
そうやって少しずつ積み上げていこう。
「まだまだ、ジタバタしながら、
足掻きますか。」
そして来年はもう少し、
選択することを楽しんで。
そんなことを思いながら、
今日もまたすっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干して、僕は席を後にした。
・・・
ー書き終えた今、思うことー
新しい会社に入り、
言葉と企画の講座に通うことを決め、
言葉を紡ぐ同志に出逢い。
そこで頑張る人たちの姿を見てきたから、
今回挑戦をしようと決意することができた。
たぶん、素通りをしていたはずの道。
自分の選択の結果ではあるけど、
出逢えた人たちに
連れて来てもらった場所でもありました。
出逢った人、一人ひとりの顔を思い浮かべて。
感謝を添えて、結びにします。