なぜか惹かれる言葉を集めておこう
著書『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』にも書いたのですが、なぜか惹かれる言葉、好きな言葉を集めておくと、いろいろな時に使えます。記事やメールのタイトルにしたり、比喩につかったり、あるいは、なぜか惹かれる言葉から逆に記事を書くこともあるでしょう。言葉から企画が生まれるということも実際に起こります。
私が最近、なぜか惹かれる言葉に加えたのは、「陽だまり」「お茶の時間」「寿命」。「陽だまり」って日当たりのいい場所のことですが、「日向(ひなた)」とは違って陽が“溜まる”って、まさに気分だなぁと思って。この冬は特に母と散歩に出て陽だまりを見つけては座って休んだので「陽だまり」がとても好きになりました。「お茶の時間」は、言葉が表す、そのもの自体がいいなぁと思います。コーヒーでも緑茶でも古今東西お茶って「そうだ、お茶を淹れよう」と思ってお湯を沸かす、そこから始まるその時間が、一種の区切り、心の切り替えなんですよね。お茶を飲みながら、しみじみ、この時間は大切だなぁ、と。「寿命」は、どうしていつから「寿」という字がついているのだろう、調べてみたいと気になっています。
『星の王子さま』を『星の王子さま』と翻訳した内藤濯(ないとうあろう)さんは、「「湯船」というのは何ともいい言葉じゃありませんか。お湯の船ですよ」とおっしゃっていたそうです。
村上春樹さんの好きな言葉もあります。
バイリンガルの友達は、「回転木馬」を挙げていました。英語の、Carouselを「回転木馬」と翻訳した人は素晴らしい!と。
先日、学習院秦々会さくらアカデミーで「ビジネスに役立つ「編集力」」という講座をもったのですが、その参加者からは、こんな言葉が出てきました。
しなやかさ
おかげさま
お値打ち
レジリエンス
夢の扉
椿一輪
日日是好日
偶然の連鎖
くつろぐ
大丈夫
なぜか惹かれるタイトル、好きなタイトルも集めておきましょう。たとえば、こんな感じ。
『愛について語るときに我々の語ること』(レイモンド・カーヴァー/村上春樹訳)
『ライ麦畑でつかまえて』(J・D・サリンジャー/野崎孝訳)
『世界の中心で愛を叫んだけもの』(ハーラン・エリスン/朝倉久志、伊藤典夫共訳)
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海)
『限りなく透明に近いブルー』(村上龍)
『桐島、部活やめるってよ』(朝井リョウ)
本だけでなく、映画のタイトルもあります。
『勝手にしやがれ』(ジャン=リュック・ゴダール監督・脚本)
『大人は判ってくれない』( フランソワ・トリュフォー監督・脚本)
『それでも恋するバルセロナ』(ウディ・アレン監督・脚本)
『死ぬまでにしたい10のこと』(イザベル・コイシェ監督・脚本)
『6才のボクが、大人になるまで。』(リチャード・リンクレイター監督・脚本)
『戦場のメリークリスマス』(大島渚監督・脚本)
歌のタイトルも商品パッケージのコピーもアリです。広告のキャッチコピーに惹かれたら必ずメモを残しましょう。ちょっと意識をするだけで、身の回りにはたくさんのいい言葉が見つかります。
なぜか惹かれるタイトル、好きなタイトルを集めておくと、自分がタイトルやコピーを書くときにパロディやオマージュとしても使えます。もとの言葉の構造やリズムを活かして使います。
基本的に言葉そのものには著作権はありません。言葉は誰のものでもなく、みんなのものですから、どの言葉をどう組み合わせてどんなタイミングで使うかが勝負です。何を見ても「ヤバい」というボキャ貧の人も、単純に知っている言葉の数が少ないというより、言葉の使い方に慣れていないということが多いと思います。上に挙げた言葉やタイトルもひとつひとつは誰もが知っている簡単な言葉です。それが、組み合わせの妙だったり、その作品にそう名付けるセンスだったりが、「おおー」と惹かれる言葉にするのです。言葉を選び、組み合わせ、タイミングよく使う、その感覚を養うためにも、なぜか惹かれる言葉やタイトルを集めておくことは役に立ちます。
さらに、できれば、その言葉に惹かれた理由も考えてみるといいです。集めた言葉を見ていると、自分の嗜好(や志向)が可視化されます。自分の嗜好(や志向)を知ることも、コンテンツづくりには欠かせない要素になります。言葉集めを何年か続けていると、選ぶ言葉も変化してきて、「若い頃は鼻息荒く勇ましい言葉ばかり選んでいたなあ」とか、「最近、癒し系の言葉ばかり惹かれる。疲れているのかなあ」などと思うことがあります。集めた言葉から、時代の変化だったり自分の成長だったりが垣間見えるのもおもしろいものです。
余談ですが、私は、雑誌編集者現役時代、なぜか惹かれる、雑誌、カタログ、広告、ビジュアルなども集めていました。マガジンハウスを退職する時に、ロッカーの奥から次々に出てくるものを眺めながら、「わー、ダサいー」「使えなーい」「古いなぁー」と処分したわけですが、中に(そうですね、20にひとつぐらい)「逆に新鮮!」というものがあるのです。30年前のビジュアルでも、いいものはいい! 古くなるものと「逆に新鮮!」なものの分かれ目はわからないのですが(ここ突き詰めたいです)、言葉にもビジュアルにも「寝かせごろ」、「一周回って今が旬」みたいなものがある気がします。時間があったら、大宅文庫にこもって、例えば70年代、80年代の雑誌の中から、「逆に新鮮!」「今が旬!」な言葉を発掘する作業をしてみたいと思っているのですが…。