日本のYouTubeユーザーを取り巻く環境と今後について
1 はじめに
私は、九州の宮崎県に住んでいます大谷憲史(Otani Norifumi)と申します。
YouTube Top Contributor Program に参加させていただいたのは2011年で、16年からTC、プログラムの変更に伴い、現在は、ゴールド プロダクト エキスパート(ゴールド PE)として活動させていただいております。
元小学校の教員で、これまでに情報系のNPOを設立し、いわゆるサイバー犯罪の防犯対策として、地元の警察への捜査協力も行ってまいりました。
現在は、パソコン講師、パソコンサポートをしながら、市民メディアとしての活動も展開しています。
今回、お話させていただくことは、元、いや今でも教育者だと思っている私が、現在の日本の状況、YouTubeを取り巻く環境から危惧していることで、今後、このような状況が続けばYouTubeが大きな目標としている『コミュニティの健全化』とはほど遠い状況になっていくのではないかと感じたからです。
この状況を変えていくためにはどうすればいいのか。
これは私だけではなく、この状況を好ましくないと感じている多くのYouTubeユーザーがいます。
どうぞ最後までお読みください。
どうぞよろしくお願いいたします。
2 日本の状況
今回お話しすることは、2018年5月18日、ある1本の動画の削除から始まりました。
日本政府は2016年6月、在日朝鮮人等のいわゆる本邦外出身者に対する差別的・攻撃的な言動等を規制する『ヘイトスピーチ解消法』を制定しました。
しかし、この法律には罰則規定がなく、在日朝鮮人等が多く住む地域では、相変わらずヘイトスピーチを含む集会、抗議行動が繰り返されています。
このような差別的・攻撃的な活動を繰り返しているのは、『ネット右翼』、通称『ネトウヨ』と呼ばれる右派系個人、右派系団体、極右団体等です。そして、そのようなネトウヨの活動に感化された一般市民です。
日本政府は、「本邦外出身者に対する特別な権利は与えていない」と、いわゆる『在日特権』は存在しないと公式に発表しています。彼らネトウヨは、存在しない在日特権があたかもあるかのように、『在日特権を許さない市民の会(在特会)』を組織し、組織的なヘイトスピーチ活動を展開しています。
在特会だけではなく、個人、様々な右派系団体、極右団体が、それぞれの立場から同じような活動を展開しています。
このような活動は、YouTubeに動画としてアップロードされ、あたかも本邦外出身者たちが日本国内において悪いことを行っているかのように扇動しています。
ネットユーザーが多く集まる匿名掲示板『5ちゃんねる』では、「父親が最近、YouTubeでネトウヨの動画にはまっている」といったような投稿が見られ、右翼活動家、団体だけではなく、広く一般市民にもネトウヨによる影響が浸透しつつあります。これはYouTubeに限ったことではなく、日本国内では右傾化が進行しています。
この右傾化が良いかどうかという政治的な議論はここではしませんが、この右傾化の流れが今の日本のYouTubeのコミュニティに大きな影響を与えていることは確かです。
2018年5月18日。
このような状況を良くないと考えたYouTubeユーザーが、YouTubeの動画レポート機能を使って動画の通報を行ったところ、そのチャンネルが削除されました。動画457本、チャンネル登録者19,046人のチャンネルでした。
このことが5ちゃんねるの掲示板に書かれたことをきっかけに、多くのユーザーが動画レポート機能を使って、ヘイトスピーチを含む動画に対する通報活動を始めました。
この活動は、『ネトウヨ春のBAN祭り』と呼ばれています。
通常は一過性の活動として『祭り』と呼ばれていますが、夏が過ぎて秋になっても、この活動は終わることなく、続けられています。
3 活動の状況
この通報活動はもちろん個人のボランティアによるものであり、自分の空き時間を利用して昼夜を問わずに行われています。
在特会等のように組織で活動しているというよりも、今の日本のYouTubeの状況を変えていきたいと考えている個人がメインで活動しています。
活動の状況は、匿名掲示板『5ちゃんねる』内のハングル板で報告され、スレッドは280を越えています。1つのスレッドには1000件の書き込みができるので、相当量の情報が交換されています。
・YouTubeのネトウヨ動画を報告しまくって潰そうぜ280
また、個人有志が開設した『【YouTube】BAN済チャンネル・通報対象一覧』というサイトでは、5月18日から現在までに削除された動画、チャンネルに関する情報が掲載されています。
それによると、この原稿を書いている10月14日現在、560,500本以上の動画が削除され、1,602以上のチャンネルが削除されたということです。YouTubeの情報とは若干の食い違いがあるかとは思いますが、確かに、YouTubeの『急上昇』タブから、韓国等に関するヘイトスピーチを含む動画が減ってきているように思います。そのことを実感しているユーザーも多いようです。
しかし、このような活動を行うなかで、
『このままの状況で活動していても良いのだろうか』
という疑問を持っています。
また、
『YouTubeの対応は果たしてこれで良いのだろうか』
という疑問も持っています。
それぞれについてお話をさせていただきます。
4 動画レポートに対する現状と要望
ここでは、
『YouTubeは、個別の案件に関してはコメントしない』
ということを了承したうえでお話をしたいと思います。
日本のYouTubeユーザー調べでは、これまでに560,500本以上の動画が削除されたことをお話しました。
しかし、私やユーザーが「これは削除されてもおかしくはない」という動画が、削除されずに放置されていたり、制限付き動画となったりしている状況をいくつも目にしています。
これはYouTube側の判断なので、お答えはいただけないかとは思います。
私やユーザーが目にしている状況とは、以下のようなものです。全て、ヘイトスピーチを含む動画を投稿しているチャンネル、動画に限定したものです。
・YouTubeから著作権侵害の通知を7つもらってもチャンネルが削除されないことを、そのチャンネル主が自身のブログで画像付きで紹介していた。YouTubeから、「著作権の通知から1週間の猶予期間があるので対応してほしい」というメールが届いた。その後、そのチャンネルは削除された。通常、著作権侵害に関しては、スリーストライク制であり、著作権侵害の通知を7つもらってもスリーストライク制が適用されないことがあるのだろうか。「著作権の通知から1週間の猶予期間」というのも、これまでに聞いたことはない。
・YouTubeヘルプでは、「アカウントを停止されたユーザーは、他の YouTube チャンネルの利用や、新しいチャンネルの所有や作成を禁止される場合があります。」とあるが、以前のヘルプでは、「場合があります」という表現ではなく、「禁止されます」であったと記憶する。「場合」がどのような場合なのか具体的には分からないが、アカウントが停止されても、新たにアカウントを取得し、ヘイトスピーチを含む動画を投稿するケースが見られる。これではいたちごっこで、いつまでたっても終わることはない。
・YouTubeでは、『制限付きモード』はデフォルトではオフになっている。動画レポート後、YouTubeの判断で「動画は制限されています」(制限付き動画)となっても、制限付きモードがオフであれば、制限付き動画を視聴することができ、どこに制限が付けられたのか分からない状態にある。もともとは、未成年者が性的コンテンツを視聴することを制限するためのものであったが、成人者でわざわざ制限付きモードをオンにするユーザーは少ない。デフォルトで制限付きモードをオンにするか、制限付きモードがオフでも別の機能によって制限付き動画を制限する必要があるのではないかと考える。
・YouTubeヘルプでは、「ライブ配信が制限されると、アカウントに対しても違反警告を受けることがあります。その場合、3か月間はライブ配信ができなくなります。アカウントのライブ配信を制限されている方が、別のチャンネルを使用して YouTube でライブ配信を行う行為は禁止されています。これは、アカウントへの制限が有効である限り適用されます。この制限に対する違反は利用規約の迂回とみなされ、アカウントが停止される場合があります」と書かれている。このペナルティにより、90日間YouTube Liveができなくなったチャンネルが、それを回避するために、別アカウント、または、ブランドアカウントでLive配信を行うことは、上記に書かれている『利用規約の迂回』に該当するのだが、それにもかかわらず、平然とLive配信を行っていた。このペナルティを受けたチャンネルは登録者数が31万人を超えていて、迂回でLive配信を行ったチャンネルも登録者が急激に増え、現在約39,000人である。5ちゃんねるの掲示板では、このチャンネルに対してYouTubeが忖度しているのではないか、との書き込みが見受けられた。これも個別案件なので回答は得られないかとは思うが、YouTubeヘルプ通りに動けない何かがあるのだろうか。もし、ヘルプと実際の現場での対応が違うのであれば、その整合性を図らなければならないのではないだろうか。
・上記で書いたチャンネルのことだが、これは悪質性が高いのではないかと考え、チャンネルを明記する。チャンネル『DHCテレビ』(A)は、別途同じ名前の『DHCテレビ』(B)というチャンネルを所有している。上記のようにYouTube Liveでペナルティを受け、チャンネルAで行っていたLiveを同じチャンネル名のBで行っていた。現在は、ペナルティが解除されたのか、元のチャンネルAでLive配信を行っている。が、10月1日から5日までのLiveのアーカイブが、AとBの2つのチャンネルに掲載されている。これは、10月10日にYouTubeが発表した『YouTubeパートナープログラム(YPP)』の『重複コンテンツ』に抵触するものではないかと考える。
・また、このDHCテレビは、いわゆるYouTubeのミッドロール動画広告ではなく、自社の製品を宣伝するための広告を配信する動画内に組み込んでいる。これ以外にも、通常の広告も付いている。アドセンス的にはどうなのか分からないが、最近、自社製品だけではなく他社製品の広告を動画に組み込んで投稿しているケースが見られる。ヘイトスピーチを含む動画は、右翼を中心に再生回数が稼げることを承知の上での行為である。規制すべきではないかと考える。
・日本のYouTubeでは、ヘイトスピーチを含む動画を制作する個人がいて、インターネット上で仕事を受けるサイトで募集していた。現在は私たちの通報により削除されている。いわゆる『テキストスクロール動画』で、音声はソフトウェアを使用している。動画やチャンネルが削除されると、新たにチャンネルを作成し、動画もタイトルを少し変更してアップロードを繰り返している。最近は、外国人の名前でチャンネルを開設しているケースが見受けられる。このような『テキストスクロール動画』は、規制すべきではないかと考える。
・5ちゃんねるの掲示板では、ヘイトスピーチを含む動画でもチャンネル登録者が多く、それなりの収益が見込まれるチャンネルは、YouTubeが優遇しているのではないか、と言われている。日本的に言えば、『忖度している』のではないかということである。収益的にもさほどYouTubeに貢献できていないチャンネルは、利用規約、コミュニティガイドライン、ポリシーに従って削除されたり、ペナルティを受けたりしているのに、大手チャンネル、有名YouTuberは大目に見てもらっているのではないかという、不公平感が存在している。これは、ヘイトスピーチを含む動画だけではなく、他の有名YouTubeの動画でも言えることである。
・YouTubeの根幹である利用規約、コミュニティガイドライン、ポリシーが厳格に適用されているのだろうか、という懸念がある。YouTubeではケースバイケースで対応することもあるが、上記でも述べてきたように、明らかに利用規約等と実際の対応に整合性があるのかどうか、疑わしいものも存在する。10月10日に、YPPのポリシーが変更され、いわゆる『重複コンテンツ』に関する取り扱いが発表された。これがすべてのチャンネルに公平に適用されることを願う。
ここは一般化するカタチで書いています。
まだ、追加する予定です。
皆様から、追加して欲しいことがございましたら、このnoteのコメントにお書きください。内容的にコメント欄に書けないようであれば、メールでお願いいたします。
cmm@cam.bbiq.jp
以上、私たちがヘイトスピーチを含む動画に対する動画レポートを行っているなかで気づいたことです。
YouTubeの担当者から具体的なお返事をいただくことはないかとは思いますが、YouTubeにおける日本の現状をご理解いただけますと幸いです。
5 Creators for Changeへの参加
YouTubeの公式プログラムの1つに『Creators for Change』があります。
・Creators for Change
このプログラムはご存知のように、YouTube チャンネルを通じて社会問題を取り上げ、認知や寛容性、共感を促進しているクリエイターをサポートする、グローバルな取り組みです。
ヘイトスピーチに限定すれば、オーストラリア、フランス、ドイツが取り組んでいます。
すでにこれまでに述べてきましたが、日本でもこの『Creators for Change』に参加し、ヘイトスピーチをなくす活動を展開すべきではないでしょうか。
私は57歳のおじさんですが、この取り組みは、声をあげて社会を変えていこうとする若い世代を中心に展開されているもので、中高年の私たちも何らかの形でサポートすることができるのではないかと考えます。
現在私は、自分のYouTubeチャンネルにおいて、ハッシュタグ『#aozora』を付けて、『YouTubeからヘイト動画をなくそう!』という活動を行っています。
『aozora』とは、日本のロックバンド、『ザ・ブルーハーツ』の名曲の1つ、『青空』から付けました。
この曲は、アメリカの公民権運動の母、ローザ・パークス氏の実話を元にしたもので、このローザ氏の行動が、キング牧師による公民権運動につながったと聞いています。
この曲の歌詞に、『生まれたところや皮膚や目の色で、いったいこの僕の何が分かると言うのだろう』という部分があります。
その通りです。
前述したように、日本でも、生まれたところや皮膚や目の色で差別されることはあります。日本が置かれている環境だけではなく、無意識に差別してしまう人間の弱い心もあります。そういったことを克服、乗り越えていかなければ、社会は変わることはできないと思います。
動画の持つ力、発信力はすごいものがあり、ヘイトスピーチに対抗していこうとするキャンペーンは、日本において必要なものではないかと思います。
ご存知のように、2020年、日本で『東京オリンピック&パラリンピック』が開催されます。その準備が着々と進んでいますが、私たち日本人の心の中はどうでしょうか?
心からおもてなしをしようと考えている日本人がいる反面、それでもヘイトスピーチを行う日本人もいます。
私たち『日本人の精神』が問われることになるのではないかと思います。
東京オリンピック&パラリンピックまで2年を切った現在、どこまでできるのかという課題もありますが、何らかのアクションを起こす必要はあるかと思います。
ぜひ、日本でも『Creators for Change』に取り組みたいと考えます。
ご検討をどうぞよろしくお願いいたします。
6 さいごに
長々と書いてきましたが、私たちはYouTubeのコミュニティが健全化に向かうことを願っています。
抵抗勢力は、『右翼vs.左翼』の枠でしか考えず、あれこれと攻撃をしかけてきますが、私たちは組織で通報活動を行っているわけではなく、ヘイトスピーチが蔓延るYouTubeの現状から行っているだけのことです。
YouTubeに投稿された最初の動画『Me at the zoo』、私は好きです。この動画にYouTubeの原点があると思います。動画を投稿する喜び、楽しみをもう一度取り戻す必要があるんではないでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。
これからもYouTubeに関する様々な情報を発信していきたいと思います。サポートをどうぞよろしくお願いいたします。