
得地弘基「一人で演じる/テキストという杖の使用法」稽古(たちくらようこ)
5月のある夜、得地弘基さんの「一人で演じる/テキストという杖の使用法」の稽古に伺いました。
「一人で〜」は、6月23~25日に開催される円盤に乗る場のおまつり「NEO表現まつり」の、得地さんのプログラムです。主宰する劇団「お布団」では劇作と演出を担当する得地さんが、「俳優とは、演じるとはどんな作業なのか?を考えたいと思い、一人で演劇をやってみます」という試み。「日頃親しんでいる小説などからテキストを選び、それを『杖』にすれば、パフォーマンスが出来るのではないか?」ということで、形式的には朗読と伺っているのですが、杖にするとはどういう・・・?
乗る場に着くと、部屋の真ん中に机と椅子をセッティングしおえた得地さんが、読む予定だった本をおうちに忘れて悔しがっていました、が、悔しがりながら、もう別の本を取り出しています。

これまでの稽古で古典から小説からいろんな本を朗読してみて、文体によって自分の声の音域が変わる!という発見があったそうです。ほうほう!
『心臓を貫かれて』その1
稽古の相方、演出協力で参加している青年団の俳優・田崎小春さんが到着して、ささっと稽古が始まります。
得地さんが朗読しているのは、村上春樹訳の『心臓を貫かれて』。アメリカのとある家族の自伝。

こないだ初めて読んだとのことですが、深みのあるいい声を生かしてよどみなくしゃべる得地さん。いきなりのハイクオリティ朗読、仕草もなんかアメリカン。
休憩
唐突に「疲れたので休憩」と得地さんが言って、休憩になりました。読みたいシーンがあったのだけどそこまでが思ったより長かったらしいです。

流れで始まる振り返り。田崎さん「得地くんと文章との距離の近さを感じる。内容は正直、入ってこない。スピードというか言葉が慣れてないからかな。」たしかに、キリスト教の用語が多いせいか、内容を受け取るのが難しい印象はありました。

俳優として活動することが多い田崎さんですが、今回は演出家の役割。田崎さん曰く、ソファーでゴロゴロしながら「これ読んでみて~」とか言う「貴族みたい」な仕事だそうです。
『心臓を貫かれて』その2
虐殺シーン読みますか?と得地さんが言いはじめて稽古再開、いよいよ読みたかったシーンに入ります。 開拓者のグループの対立がインディアンを巻き込んでの抗争となり、女性や子ども含め150人くらい死亡という事件の一部始終・・・これ史実か、実際あったのか、こわ・・・とか考えてしまうくらい、筆者は朗読を楽しんでおりました。
虐殺シーン読み終わり、田崎さんの感想は「途中ウトウトしたけど、さっきより言葉が入ってくる」。読み手のお気に入りシーンだからでしょうか、さっきのパートより起こっている出来事は複雑なのだけど、イメージしやすかったです。
休憩

チェーホフの短編小説
『タバコの害について』ってどういう話だっけ?という話題から、そういえばチェーホフの好きな短編があったんだった、と得地さんが青空文庫を物色しはじめました。「一番好きな訳じゃない」と不満を漏らしつつ、朗読します。
シベリアに追放され厳しい生活を送る、諦めきった老人と希望を捨てたくない若者。小説ですが、登場人物の台詞を中心に構成されています。

一気に読み終わり、聞いていた田崎さんの感想は「途中うとうとしたけど、ずっと読んでてほしい」。たしかに聞いてて気持ちいい、あと、話がよくわかる!
得地さんのこの本の好きポイントは「先生」と呼ばれる老人、くたびれきった哲学がたまらんとのこと。悟るまでにあったことを想像しちゃうな、でもこれ悟りなのか?若者もいつか諦めるんだろうか?今読んだ小説について話し続ける得地さんと田崎さん。ずっとしゃべれるこの話・・・
得地さん「チェーホフってやっぱり才能あるな。悔しいっすね・・」
巨匠に対する悔しがり方が大胆。

「得地くんが『先生』を悪役だと思っているのが面白い」という田崎さん。「かわいそう」とか「ドライ」とか他の見方もできそうだけど「悪いヤツ」と捉え、そして魅力を感じている得地さんの感覚、たしかに興味深いです。
ふと得地さんが「先生」を演じるときは不安がない、と口にしました。他のテキストを読むときは迷いや不安を感じるけど、「先生」の台詞の時は不安なく読める・・・これは・・・
「テキストを杖にしている!」
得地さんが杖にできるテキストを発見しました!
頼れる杖を発見したところで、本日の稽古はおしまい。得地さん、田崎さん、ありがとうございました。

後日談
稽古に伺った数日後、NEO表現まつりのサイトの、得地さんのプログラムの名前と解説がひそかに更新されました。読むテキストはあの短編に決定したようです。得地さん演じる悪役・先生を、どうぞお楽しみに。
★得地さんのプログラムは、サロン梅の湯にて、全4ステージ。
23日(金)16時、24日(土)16時と20時、25日(日)16時
いずれも他のプログラムとの対バンです。お得!
★得地さんが作・演出をつとめる公演も7月にあります!
お布団の新作演劇公演
『ザ・キャラクタリスティックス/シンダー・オブ・プロメテウス』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
印象的だったのが、俳優という仕事に対する得地さんの言葉。
稽古が進むにつれて、「俳優って大変だな・・・頭あがんないっす・・・」「何回もやっていると、自分で自分の演技がたるいなって感じ始める。更新していくのが大事なんだなって」と、演技の大変さ、難しさを体感していました。わたしは俳優なので、演出家に俳優って大変なんだぞ!ってことが伝わって、しめしめです。
あと、印象的だった演技の話。
青年団という劇団の俳優・山内健司さん(わたしの先輩でもあります)の、レンズの説明をする学芸員の演技について、「ほんとにこの人ガリレオ好きなんだなぁって」「キラッキラしてる」って話している得地さんが、山内さん演じる学芸員と同じくらい、楽しそうだったのでした。
あ、このひと、演技みるのが本当に、好きなんだなぁって思いました。こういう人が演出家なのは、なんというか、正しいな、って思います。
おまけ
得地さんが朗読する、『心臓を貫かれて』第二章のさわり
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?