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アウトライナーで書く戯曲入門(たちくらようこ)
3月のある夜、「アウトライナーで書く戯曲入門」という催しに潜入してみました。先月、乗る場での稽古をレポートした亜人間都市の演劇公演『草、生える』中に出演俳優の間でもちあがった、畠山さんがアウトライナーを使って戯曲を作った方法を教えてもらおう、という企画です。
「アウトライナー」とは、箇条書きを整理するアプリ全般のことです。トピックを入れ子にしたり入れ替えたりがスムーズにできる、というもの。私は存在は知っていたもののその便利さがいまいちわからん、WORDじゃだめなん??というスタンスでした。
参加者は、畠山峻さん(円盤に乗る派、people太)と藏下右京さん(亜人間都市)と立蔵、みんな乗る場メンバーの俳優です。本日欠席の方が1名いらっしゃるのですが、その方も俳優です。つまり、だれも戯曲執筆の専門家ではありません。
畠山さんがアウトライナ―で作った戯曲「パンケーキ」は、昨年10月の乗る場の月一コンテンツで上演されています。非っ常におもしろかったです。配信2回見ちゃった。なんで?なんでそうなんの?どうやって思いつくの?!ipad画面越しに受ける衝撃としては最大級だったのではないでしょうか......
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そんな衝撃を携えて潜入したこの企画、アウトライナーアプリの画面をプロジェクターで映写しつつ、畠山さんが「パンケーキ」の制作方法をコンセプトから教えてくれます。畠山さんいつになく溌剌としている…
イントロダクション
畠山さんがこの会やってみよう!ってなったきっかけは、俳優が「自分は戯曲書けないから」て言うのに違和感を持ったこと。上手い下手を問わなければ誰でも書けるだろって。また、自分も書けるという気持ちがあった上で戯曲を読むと新しい目線で読めてよいとのこと、「カゲヤマくんの戯曲うまいんだなー」って思ったそうです。(劇作家の皆さん、俳優が戯曲を書けると自作の良さをより深く理解してもらえますよ!)。
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畠山式アウトライナー劇作術の手順をものすごくざっくりまとめると、
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
①気になったことをアウトライナーにひたすら書き綴る。
②いい感じに並べ替える。
③登場人物や環境の設定などを戯曲としていい感じなるように整える。
いきなり長文を書かなくていい、確かに気軽だ。
とはいえ、センスとかなんかの技量は必要でしょう…??と不安がよぎりかけるところに。「極論」と題された劇作の心得が提示されます。
台詞の方向性とか不合理とか自然さとか口語か文語かとかとりあえず気にするな!演技でどうにでもなるし文章はいつでも書き換えられる!カッコつければ台詞になるから!だから書いてみよう!!(要約)
すっごい、すっごい、励まされている…松岡修造ばりに励ましてくれる……
実践編
藏下さんが事前に用意してきた気になることメモをもとに戯曲をつくります!藏下さんは「戯曲を書いたことはあるけどダイアログにできなくて、詩になってしまった」そうで、ダイアログを書く、というのが目標。
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藏下さんの気になったことメモをプロジェクターで映してみんなで見ます。ブログを書いてる経験ゆえか文体がブログぽい。1日3エピソード×5行×1週間くらいの分量(多)。でも多さはぜんぜん苦痛ではなくて、エピソードもだけど言葉選びが面白くてするする読める。「オカモトは逃走しないししっかりと物を申してくる」て普通書かない。畠山コーチとたちくらは爆笑していますが本人は「いつもおんなじ文体になっちゃうなぁ」としょんぼりしています。
ブログを戯曲にするにあたり、コーチの指導の下最初にやったのは、まず日付けを消す。それから、句読点で改行して1文=1トピックにする。だいぶアウトライナー感が出ました。
が、さっそく行きづまりました….....ばらせない!!
文章同士のつながりがすごい強い。コーチ曰く「ブログにおいて理想的な状態でかかれている」のを「ぐじゃぐじゃにしなきゃいけない」という状況。たとえば歯医者さんのシーンの文はどれも「虫歯」「歯科衛生士」とか入っててここは歯科医院だと主張してきます。並べ替えるときも、「どれが大事なのかわからない」(藏下曰く)から、どの並びがいいのかわからない。
この状態に対する畠山コーチの教えは
言葉として強いやつ、一般的な表現なやつ、を抜き出せ!
他のシーンでも通用しそうなやつをピックアップする、例えば「素直にいいジャッジだと思った」!
別の文脈、別のグループのやつをもってくるといいよ!
抜き出したものを、他のグループに移動させてみよう。「Z世代」を含んだ一文と別のシーンにある「先輩が~と言って、なんて楽観的な人なんだ、と~」ていう一文を合わせてちょっと調整、「後輩が~~楽観的なやつなんだ。これがZ世代~」。新しいお話ができてきたー--!
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さらにさらに、戯曲としてのかたちを整えるために、役割と環境を設定します。話し手は誰?このエピソードの主人公は誰?ここはどういう国なのか?歯医者の人と池袋に行った人が別の人物になって、藏下さんの生活譚が複数の人の物語になっていきます。
ここで藏下さんから質問です!「他の人が読んだらおもしろくない文章なのでは?」。自分のリズムで書いちゃってるから他の人が読んだときに良いのかわからない、というお悩みです。コーチのお答えは「他の人に読んでもらうといいよ」というわけで不肖たちくらが読ませていただきました。ふむふむしている藏下さん。「へんなかんじする...」とのこと……
「あとは...足りてない行間を書いちゃう、かな……」
という流れから「フリーライティングやってみよう!」「まずは3分!」といってタイマーをセットする畠山コーチ、フリーライティングてそういうタイムトライアル的な??
そうほんとにタイムトライアルで、時間を決めてその間思いついたことを思いつくままァーとかェーとか含めて全部書き起こす、というやつです。
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3分間、藏下さんひたすら入力する、ほとんど止まらずに文字が生まれ続ける。その間、畠山さんは「いーねー」とか言ってずっと面白がってる。畠山さんがいいとこで「歯医者」とかキーワードを投げて、藏下さんは歯医者から思い起こしたことを書きつづる。
3分たってできあがった文字列は、冷静な論理性がどっかいって、ダジャレのような連想ゲームのような、山縣太一さんの戯曲にちょっと似た、でもやっぱ言葉の選択がすばらしいやつでした。
今日はここまで
並べ替えのヒントとフリーライティングのテキストをゲットしたところで時間いっぱい、藏下さんの戯曲執筆は次回に続きます。実は、面白すぎて勿体なくてこの記事で触れてないトピックがいっぱいあります。ぜったい面白いよこれ。
乗る場ではもう一つ、中村大地さんが、ガルシアマルケスのシナリオ教室ごっこという戯曲書いてみよう企画をやっています。こちらは何人かでモミモミする系なんですが、アウトライナー劇作法とも共通点あるなぁと思います。なんか共同企画したらいいんじゃないかな、で、参加者各位の戯曲が完成した暁には、盛大にお披露目していただきたいと願います。
藏下さんの「『草、生える』の通しのあとの畠山さんとぜんぜん違う……」ていうつぶやきが印象的でした(※通し=最初のシーンから最後までとめずに全部のやる稽古)。通しの後にしょぼーんとしている畠山さん、私も見たことがあります。というか俳優をしているときの畠山さんはけっこう しょぼーん っていう態度とる人だと思っています。でもなんだ、今日の迷える藏下さんに的確なアドバイスを与え励まし続ける溌溂としたコーチみたいなトレーナーみたいな畠山さんは!!だいぶキャラ違うじゃないか!!
勝手にびっくりしていたのですが、そもそも隠れキャラ、隠れスキルみたいなものは、そこそこ仲のいい俳優同士でもじっくり見せ合う機会あんまりないのかもしれません。稽古では稽古ばっかしちゃうし稽古に適した振る舞いをするから。専門じゃない隠れスキルをひそかに研鑽しあったり、ちょっと違う振る舞いをする場があるの、けっこういいなぁと思います。
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