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畠山峻|火をおこす

焚き火をしたいと思った。焚き火を通して色んな人と会ってみたい。一人でもやりたい。BBQはやっぱりしたい。照明の代わりに火を使っての公演なんかもいいんじゃないか?四方を松明で囲んだ一人芝居なんて最高だろう?演劇と火の歴史についてはどうなんだろうか?昼公演は日の光があるけど昔の人は夜はどうしてたんだろう?やっぱり火が照明だったのかな?っていうか、もうあれだな、おれは、演劇とか関係なく火が起こしたいんだな。合法的に何かを燃やしたい。でかいものをいつかもやしたい。とかなんとかそんなことを考えていたらやたらとテンションがあがってきてしまい、いてもたってもいられず、すぐに家を飛び出し近所のホームセンターで初歩的な道具を購入。友人と予定を合わせて焚き火をすることにしました。

当日

当日昼ごろ朝霞台駅改札でAくんと落ち合う。18歳の時に出会っているからAくんとはもう十四、五年の付き合いだ。定期的に会って遊んだり飲んだり、おすすめのカルチャーの情報交換をしている。お互い彼女ができないなあ。来年できるよ。という話をもう10年近くし続けて、律儀に記録を更新し続けている。

A君とは年に一回くらいBBQを開いたり参加したりしていて、そのときいつも彼は率先して火おこしを引き受けてくれる。火を起こしたあとは肉を焼き、たらふく食らい、場を盛り上げている。焚き火をやりたいなあと漠然と考えたぼくがまず協力してもらい教えを乞いたいなと思っていたのが彼だった。この話を持ちかけた時にはほぼ2つ返事でOKしてくれた。ありがたい。

朝霞台駅の階段を降りて大きな広場に出る。前日の天気予報はあまり良い感じではなかったのだけれど、こうしてひらけた場所で空を見上げてみると雲の少ない青く良い空だな。駅近くにあったローソンに寄って、お互い一本づつクリアアサヒ(500ml)を買う。

店をでてビルの隙間を抜けて歩いていくと、大きな交差点に出る。そこをまっすぐと渡り、目的地である黒目川にむけて歩いて行く。4.5分くらいで着くはずだ。歩きながら話すのは、互いの最近の暮らしについて。クレジットカードの審査、Wi-Fiの契約、ゼノブレイド、エウレカセブン。A君は少し前にニンテンドースイッチを手に入れたのだけれど家にWi-Fiがないから色々と不便があり、しょぼいキャラのムービーを飛ばすこともWi-Fiがないとできないらしい。

左手に見える消防署の前で、大きな梯子を使って隊員さんたちが訓練をしている。車庫の前には三台ほど消防車が整列していて、端の車の側面に巻きついたホースの先が重たく地面に触れている。威勢のいい声の掛け合いが静かな通りによく響く。

黒目川に着いた。川沿いの歩道にはポツポツと人がいる。ランナー、犬の散歩、ベビーカーの親子連れ。この川を上流に歩いていくとぼくの家の近所にたどり着く。結構な距離だけど歩くのに無理な距離ではないし、だからこそランナーがこんなにたくさんいるんだろう。

川沿いの歩道を焚き火の出来そうな場所を探しながら歩いていく。川の斜面には腰くらいの高さの雑草がたっぷりと生い茂っていて、所々に階段が設置してある。そこから川の近くに降りれるようだけど、ほとんど道らしい道は整備されてないようで、結局はどこから降りても草をかき分けることになるんだなと思った。10分ほど歩き、川沿いに砂利が敷き詰められた八畳くらいのスペースを発見する。

近くの階段から降りて草むらをかき分けて進む。ユスリカがいっぱい飛んでる。水場だからな。所々沼っぽく滑る地面を気をつけながら進み、目星をつけた砂利のスペースに陣取り荷物を広げていく。

ビニールシートを広げて椅子を設置。クリアアサヒを取り出して乾杯!
焚き火の始まりだ!

準備

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今回使用する焚き火台は、ソト(SOTO) ミニ焚き火台 ヘキサ ST-942。近所のホームセンタードイトで購入した。キャンプ用品コーナーを物色しながらどれにするかすごく迷っていたのだけど、焚き火を趣味としてやっていこうと思ったときに、出来るだけ小さいものからはじめて大きなものにしていくのがよい気がして、この焚き火台を選ぶことにした。扱いやすそうだしお財布にも優しい(2000円弱)。持ち運びもしやすい。焚き火台としてちゃんと使用するのはこの日が初めてだ。ただ、組み立てるのは家で何度もしていた。けっこう慣れるまでコツがいるのだ。前日はワクワクして眠れなかった。いい年こいても新しい何かを手にするのは本当に嬉しいものだ。

小枝でも充分に火を起こせる。と説明にも書いてあったので薪は特に用意してこなかった。燃えそうな感じの枝とかを2人でいくらか集めていく。雑草をかき分けて探していくと色んなものが落ちている。ミルキーの缶、ゴムボース。あと泥の中から財布が出てきた。現金は入ってなかった。どこからか流れ着いたのかな。スポーツクラブのカードとかいろいろ入っていた。

10分程度周りを散策して、いい感じに枝も集まってきたので焚き火をはじめる。まずはAくんにお手本を見せてもらう。

焚き火(1回目)

まずは着火材として、もしゃもしゃした根っこのようなものに火をつけて、そのあとから豪快に枝を入れていく。ぽんぽん放り込んでいく。

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すぐに火がついた。勢いはなかなかのものだ。ただ、勢いはあるけど長続きはしなかった。取ってきた枝を使い果たして、燃え尽きてしまった。大体7.8分くらいかな?取り敢えず、大きさ的に火は起こしやすいということと、持続にはかなりの量の枝が必要なことがわかった。

ビニール袋を持って再び枝集め開始。枝を探してたらまた泥の中から財布が見つかった。そしてやっぱり現金は入ってなかった。そういえば去年この付近に台風が近づいていたことを思い出した。

その日は地域に川の氾濫警報が出ていて、身の危険を感じた僕は生まれて初めて避難所に向かった。家のむやみに背の高い掃き出し窓が風圧で割れてしまう気がしたからだ。避難所は普段はコンサートや講演会が開催されている市営の施設で、ホール内にいっぱいに毛布が敷き詰められていてその隙間を子どもたちが走り回って遊んでいる。

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