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亜人間都市『草、生える』稽古(立蔵葉子)

 前回お話したとおり、乗る場の利用で一番多いのは演劇の公演に向けての稽古です。というわけで、乗る場で行われている稽古のなかから、亜人間都市さんの稽古にお邪魔してきました。

 亜人間都市は、作・演出家の黒木洋平さんと俳優の藏下右京さん2人の劇団で、稽古している作品『草、生える』には藏下さん+4名の俳優さんが出演しています。今回のレポでは特に俳優・畠山峻さんに注目したいと思います!(なぜならその日の出番が多かったから!)※みなさんの発言は、厳密な引用ではなくて、立蔵による要約です。ご了承くださいませ。

稽古前風景、演出家と舞台監督の打ちあわせ 

 シーンの稽古の前にみんなで準備運動。毎回、今日稽古に来るまでにあったことを、一人づつみんなの前で話しているそう。

 トップバッターの畠山さんが「起きて、駅までラジオ聞いて、電車に乗って、音楽を聴いたけど今日これじゃないなって感じで、でも宇多田の2曲目は良かった。向こうのおじさんがなんか言ってるのが嫌なんだけど、嫌がってる自分良くないなって反省した」って話をして、みんなで感想を言い合う。

今日の出来事を話す

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    わたしは内容の面白さとか、声がソフトに内省的になってることが気になったのですが「草、生える」チームの注目ポイントが全然違った……これじゃなかった曲のときはスワイプで、宇多田の2曲目では手のひらを下にプッシュしてる、とか、台詞に対応する動きをすんごい細かさで見ている。続くみなさんのお話に対しても動きに関するコメントが明らかに、異様に、多い。なぜ。

 いよいよシーンの稽古です。
 黒木さんから演技全体について、言葉が通じない人と話しているつもりで、と演出がつく。例えば台詞を言うときに「文法を軽視する」、名詞や動詞をはっきり、助詞や接続詞に頼らない。
 というのを踏まえて、畠山さんは掃除機に「おなかへった?」と話しかける。「おなか」で自分のおなかを触り、「へった?」で掃除機を指差す。

のちに掃除機は藏下さんの代役であったと判明
畠山さんの希望によりほどなく降板します

 黒木さんから、形が変わるとつながってない感じがするから、掃除機に向ける手を、指差す形じゃなくておなかをさする形のままにして、とのオーダー。言葉が通じないひととコミュニケーションとる動きっていうとジェスチャーみたいなのを想像しちゃうけど、どうやらそうじゃないらしい、繊細で感覚的な動きが、振り付けられていく。畠山さんの、振りがついた右手以外のパーツ、顔とか姿勢とかも徐々に変わっていって、いつのまにか、言葉を聞きとらなくても「なんか作業しろって言ってる」くらいのことはわかる動きになっている。

掃除機に変わり代役を務める加賀田さん
隙をみて謎に動く太田さんと百瀬さん

 ちょい休憩してから他のシーンの稽古。
 「草」という台詞のときに、さっきのシーンでやった「草」の動きをしてほしい、という演出オーダー。「人が増える」の手首をくるっと回して指先を下に向けたやつが「草」です。

「人が増える」

 畠山さんが右手を「草」の形にして台詞を言う。「草」の形は台詞に応じてちょっとづつ変形し、意味を変えていく。そこに生えてる「草」が、ひっくりかえって「人が増える」、また下向きになって「人が減る」、移動して「この街を去る」、ぽーんぽーんと移動して「ふらふらさまよう」、元の位置に戻り静止して「ここに戻るしかない」。
 動き、台詞、意識が判然としないかたちで連動している。
 わたしには、台詞の内容の過剰な重みを落ち着かない動きで散らしているようにも、言葉に載せきれなかった無意識がだだもれているようにも見えました。

 本日の稽古はここまで、というところで、ふと、稽古の最初にやってた今日の出来事を話すやつのことを思い出しました。自分しか知らないことを話し、他の人はその人がしている動きを観察して指摘するって、これ稽古と同じことしてない??はっ!!だからコメントが動きのことばっかりでしかもすごい精密だったのかーーー!!
 でもたぶん、準備運動が作品に直結していることも、目がモーションキャプチャー化していることも、皆さんあんまり、自覚してない、ですよね……
     大事なことをしてるのに、してる本人はまったく気づいてないことってあるよねぇ、なんてことを思いながら、帰り支度する皆さんを眺めていました。

 以上、亜人間都市『草、生える』稽古レポートでした。公演詳細はこちら、全貌は見ていませんが、稽古がとても面白かったので、きっと公演も面白いと思います。 

亜人間都市『草、生える』
2022年 2月 26日(土)〜28日(月) 早稲田小劇場どらま館
[出演] 太田ナツキ、加賀田玲、藏下右京(亜人間都市)、百瀬葉、畠山峻(円盤に乗る派、PEOPLE太)
[作・演出] 黒木洋平(亜人間都市)
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 記事を書きながら、いい稽古場の条件をなんとなく考えていました。広さ、防音、冷暖房等々の設備が整っていて、ジプシーしなくてよくて、できればお財布にやさしくて、とかいろいろありますが(※公民館などをハシゴして稽古を行うことをさす「稽古場ジプシー」という小劇場スラングがあります。大荷物での移動、予約の手間、毎回部屋の仕様が違うなど多くの困難が伴います)、安心感、みたいのもあるんじゃないでしょうか。
    なじみの道の先にあって、稽古をしていることが誰の迷惑にもならなくて、なんなら応援してる気配がする、とか。さらに煮詰まった頃に楽しい人とか物がやってくる、とか。
 乗る場が、ここで稽古しているみなさんにとって安心できる場所であったらいいな。あわよくば、他のメンバーとすれ違うぶん、稽古に参加してる人で独り占めしてるよりも楽しい場所だったらいいな、とぼんやり思っています。

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