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四角いゴーストが現れるモノクロの街角—フィルムカメラ散歩—
「今はどの家も、駐車場が必要ですからね。なので、ここらへんはみんな、家を後ろに下げちゃったんですよ。」
この市の、どの町のことも昔から良く知っているというUさんに、普段はあまり自分では行かない、静かな町を案内してもらった。
長いだらだら坂の道は、今はそれなりに幅は広いが、昔はもっと狭かったらしい。その頃は道のどちら側にも、古着屋や古道具屋が、ずらりと軒を連ねていたという。今、それらの店舗はほとんど家屋やマンションに変わり、玄関前に駐車場スペースを作っている所も多いため〈軒を連ねる〉という感じはなく、並びはガタ、ボコとしている。
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ああ、そうか。知らない者の目からだと、結構古びた家々が並んでいるように見えるから〈これが昔ながらの町並み〉と思い込んでしまうが、実はどんどん、町は表情を変えていってしまっているのだな。
それを念頭に置いておかないと、他の市から来た私などはすぐ「この町のレトロな雰囲気は、昔を今に伝えています」なんて人に言ってしまいそうだ。気をつけなきゃ。…そんなことを思っていた。
「ほら、見てください。そこに空き地があるでしょう?」
「はい。」
「そこはね、イッセンミセヤがあったんですよ。」
「イッセン…?」
「駄菓子屋です。イッセンって、一銭、二銭のね。一銭店屋さんって言ったんですよ。」
ミセヤさん。
私の育った町は、ここから2時間ほど離れた所にあるが、一銭店屋という言葉は聞いたことがない。
小さな個人商店には、その店の屋号や、あるいは店のご主人の苗字に「さん」をつけて、ダイガク軒さんとかエノキドさんとか呼んでいた。
でも、商店を「店屋さん」と言うのは懐かしい。お店屋さん、とはまた違うニュアンス。何と説明して良いかわからないが。「昨日さ、ミセヤさんに行ってきたんだ。それでさ、…」と喋っていた近所のおばちゃんたちの口ぶりが、耳の奥によみがえった。
そして、昔の駄菓子屋さんの店先も思い出した。小さなビニール袋に入った綿あめ。スーパーのものよりグッとミニサイズのかっぱえびせん。ちっちゃい箱に入った、丸いフーセンガム。「マンボ」という、太いストローのような筒に白い粉が入った、美味しいのか美味しくないのか良くわからないお菓子。タバコみたいなシガーチョコも、そんなにしょっちゅう買いはしないけれど、いつも心ひかれていたっけ......
「イシヅカさんって言ったんですよ。そこの店屋さん。」
その声でフッと我に返った。ボンヤリしていたのはほんの一瞬だったと思う。Uさんはまた歩き出すところだったので、急いでカメラを構え、空き地に向けてシャッターを切ったら、現像後のプリント画面には、真四角っぽいゴーストが大半を占めて写っていた。こんな形のゴーストが出るレンズってあるのだなぁ。思い出しかない空き地に四角いゴースト。意外に、似つかわしいかも知れない。
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