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ロシアから逃げ遅れたビール会社の苦い決断

この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:ロシア撤退の企業意思決定の難しさ。戦略にとって長期的利益とは何か。カントリーリスク判断の重要性。

バドワイザーもロシア撤退

バドワイザーと言えば、アメリカン・ビールの王様、そんなイメージがあります。

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その世界のブランド、バドワイザーの親会社はアンハイザー・ブッシュ・インベブ社(Anheuser-Busch InBev SA)です。

同社はロシアを撤退するか否かで悩んだあげく、ロシアでのビールビジネスである合弁事業から、110億ドルの減損を計上し、撤退を決断しました。

遅いよ!

減損損失の計上は、景気後退による売上規模の縮小により、予想していた売上が確保できなくなったときに、企業が使う手です。

ビール製造のために、設置した機械設備等が、期待したような収益をあげられないと踏んで、減損損失を計上したのです。

と言うか、もうここではビジネスをしない、と決めたからです。

ウクライナ戦争が始まってすでに2ヶ月、インベブ社は当初は”様子見の姿勢(wait and see attitude)を決め込んでいました。

しかし、インベブ社は撤退のタイミングを逸したようです。

企業がロシアを撤退する理由

主に3つあります。

1.ロジスティックス上の理由
logistics物流ですね。大麦の産地ウクライナから原料を入れられない、経済制裁を受けているロシア経済は記録的なインフレに見舞われており、物流コストもかさみ、不足するドライバーの賃金、ビールの末端価格も上がっています。ペイするのは難しい状況です。

2.モラル上の理由
ロシアに残る決断は、当然ながら、ウクライナへの敵対行為であり、同国からのロシア撤退のプレッシャーは強くあります。西側諸国の価値観からは、ロシアに残ることは、モラル的にも大きな問題です。

3.安全上の理由
撤退を決めたはいいが、社員一同が無事に離脱できるでしょうか。愛国心に駆られた暴徒がいないとも限りませんし、あとでまた述べますが、ロシア政府が同国の労働法をたてに、心身を拘束しかねない、そういうリスクも考えなくてはなりません。

4.ステークホルダー(利害関係者)からのプレッシャー
利害関係者とは、株主、消費者、業者、銀行、そして世間一般など、文字通り企業と利益を共有する存在のことです。

株主の判断も「早く出ろ」なのは、ロシアよりのイメージが株価にマイナスであることを、実感しているからでしょう。

消費者、つまり少なくとも西側のバドワイザー愛飲者は、親ロシアのイメージを嫌っているわけです。

アメリカと同盟国がロシアのほっぺたを叩いているなかで、企業がロシアと普通にビジネスをすることは、ますます難しくなっています。

国際的な支払い、原材料の輸入、スタッフへの給料の支払い、これらが非常に厄介になっているのです。

ロシア政府の恐ろしい復讐

モスクワは、ビジネスをストップしている外資系企業に対して、再開せよとのプレッシャーをかけてきています。

ドイツの自動車部品メーカー、コンチネンタルAG社(Continental AG。日本のイエローハットみたいな感じです)は、3月に操業停止していましたが、再開を余儀なくされています。

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なぜならば、ロシア当局が「市場の要求に答えなければ、厳しい刑事上のペナルティを科す」と同社に通告してきたからです。

当局は、国外脱出を明言している企業への圧力を強めており、ロシアの労働法(Russian labor laws)を必ず適用してやる、と息巻いているんです。

戦争が始まった直後、外国メディアが悪口を言ったら投獄、というメチャクチャな法改正を行ったロシア政府です。

国を脱出し、ものを作らなくなった者は、懲役10年、なんてことになったら・・・。

いや、現にロシアの国会は、国外脱出企業の固定資産を没収、強制国有化に動いているばかりか、国外脱出すれば”西側の共犯”として刑事罰を与える法律を通そうとしているのです。

その意味で、インベブの決断は遅きに失したのです。

企業はカントリーリスクをもっと考えないと

しかし、スケベ心というと語弊がありますが、ここまでズルズル決断を伸ばしたのは、カネが理由でした。

2019年には、ロシアはグローバルのビール売上の4%を占めています。

ロシアは、ここ数年世界でビールの売上が、最も急速に上がっている国で、インベブは、最も人気のあるブルーワーです。

ロシア人は、でも、ビールのひとりあたり、年間消費量は、北米やヨーロッパに比べるとまだまだ少ないのです。

つまり、ロシアこそ、バドワイザーの長期戦略からすると、もっともターゲットにすべき国なのです。

今回のインベブの意思決定から学ぶものがあるとすると、企業は海外進出にあたって、カントリーリスクを、事前にしっかりと把握すること、だと思うんです。

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誰もが予想しなかったウクライナ侵攻、ですが、この可能性に気づくべきだったのは、何も歴史家や政治家だけじゃありません。

早く脱出すれば、逮捕され牢屋に入れられることはなかった。

そんな後悔を企業はしてはなりません。

そのためにも、グローバルビジネス、異文化コミュニケーションといった勉強はますます企業人に必要になるでしょう。

今日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

では、また明日お目にかかるのを楽しみにしています。
 
                             野呂 一郎
               清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー








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