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羊文学「光るとき」

羊文学の「光るとき」という新曲が出た。2021年9月26日現在、まだSpotifyなどに音源は出ていないようだが、アニメーション作品『平家物語』のOP曲に採用されており、その映像はYoutube上で公開されている。OP映像は曲の一部だけを使っているのだと思うが、そこで使われている部分から判断してとてもよい歌詞だと思う。特にサビの「何回だっていうよ/世界は美しいと」というところ。

過去10年位のポップカルチャーの文脈において「世界は美しい」というフレーズはしばしば「世界は残酷だ」というフレーズとセットで使われてきた。「光るとき」のサビ部分もまたこの文脈で受け取られるべきであることは、OP映像における歌詞と映像の対応関係によっても裏付けられる。OP映像では曲がサビに入るタイミングで、画面が主人公らしき女の子から合戦の場面へと切り替わり、一瞬だが地面に崩れ落ちた武者たちの遺体が映り込む。「光るとき」においてもまた、世界の美しさ、は残酷さと対になっているのだ。

世界は残酷だけど美しい、はいとも容易く、世界は残酷だから美しい、に転化する。それは自由競争がもっとも優れた仕組みとされる世界を生き抜くための処世術としては有効であるかもしれないが、本質的には世界の現在の在り様を自分にはどうしようもないものとして諦める受け身な態度だ。しかしボーカル(塩塚モエカ)が「何回だっていうよ/世界は美しいと/君がそれをあきらめないからだよ」と歌うとき、羊文学はポップカルチャーで(そしてもちろん、それ以外の領域でも)使い回されてきたこの「世界は美しい」というフレーズを鮮やかに反転してみせる。世界が美しいのは、世界の残酷さに逆らおうとする君がいるからだと。

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