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みんなのつぶやき 万能川柳 8本目


みんなのつぶやき 万能川柳 8本目 仲畑貴志・編

旧姓は運勢最高だったのに

最高運勢の姓だったからこそ今の旦那と結婚出来たのかも。でもそのせいで姓が変わり、最高の運勢ではなくなったというこのパラドックスをうまく川柳にまとめた。


蚊を追って変な踊りを踊ってる

ジェームズ・ブラウンが時に滑稽に見えるのは、彼がいたって真剣だからだ。別に聴衆を笑わせにかかっているわけじゃない。
部屋の中にいつの間にか紛れ込んだ一匹の虫を捕まえようとやっきになってるお父さんは、家族を守るためとはいえ、やはりどこか喜劇人めいている。
きっと何年も経ってから娘が、息子が、その風景に思い出し笑いをする。


服を買う時に着て行く服選ぶ

いつもより少し高価な服を買うのだろうか。そのような服を売っているお店に吊り合うような服を鏡の前で選んでいるのかもしれない。
ユニクロだったらそんなに気を使わなくて済むかもしれない。
それとも彼女はどこに行くにしても、それなりに服を選んでいるのだろうか。時間をかけて。


十代の歯ぐきとほめられたってなあ

作者はおそらく相応の年齢なのだろう。
歯医者さんで十代の歯ぐきと云われて悪い気はしないのだろうけれど、それはもの凄く微妙な気分になるのは確か。
嬉しいけれど、そんなに自慢話にもならない。


猫に手を貸したいくらい今はひま

まさに今日がそれだった自分。


「嫌気さす」枕詞になる政治

これは1998年に出版された本だが、政治の風景は今も全然変わらず。情けない。下手すると、もっと悪くなっているかもしれない。それは引いては、国民のレベルも下がっている証左。政治家を見ればその国の国民がわかるのだから。


こんな歌詞わざわざ歌にしなくても

これは1998年に出版された本だが、ジャパニーズポップスの世界は今もあまり変わらず。
くだらないとは云わないけれど、あまりに幼稚にすぎないか。不安になる。
あと、大勢で歌っていて、結局これは誰の声?ってのが多すぎる。
個性がありそうで全然ないのが悲しくなってくる。
まあ誰が歌おうがどっちみちわからないんだけれど。




というわけで、川柳というのは基本的に詠み人知らずの文化だと思うので、上記の作品はあえて作者の名前を記さないでおいた。
いままで短歌や俳句に気をとられていたけれども、川柳もなかなかするどくて愉しい文芸である。これは深く掘り下げたくなってくる。
朝日川柳の選者が云っていたけれども、

「毒」は耳かき1杯 止めどころを知る

と書いている。
以下、引用する。

ルーマニア出身の思想家のシオランという人が、皮肉とは「陰影に富んだ、軽い苦みのある無礼」であると言っています。続けて「少しでも深追いすると、皮肉は破綻する」と。多少の無礼はつきものとして、風刺や皮肉は「止めどころ」を知ることもまた大事なのでしょう。



「笑い」と「毒」は、同じコインの裏表なんだろう。
ことさら規制を入れることによって、毒は排除されるが同時に笑いも失われる。それでもって「おもしろくない」という文句が出てくる。
ぜんたい、過剰にナーバスになる結果、闇の中でまた病んで段々とくだらなくさせている事におそらく、自覚症状はあろう。
ひとは慣れてゆく生き物だからやがて、その闇からまた一条の光を見出し、たいしたおもしろくもないものにキャッキャ云って匍匐前進をしてゆくに違いない。


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