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解雇告ぐる日


解雇せし部下の送別会の夜をひとりオフィスに眼鏡など拭く

解雇告ぐる日 長尾幹也



また余計な事を口走ってしまったなあと悔やむ日がある。
その夜、いっそ舌を噛み切ってしまえばいいのにと呪わしく思うが、
罪は舌にあるのではなく、己のアタマとココロにあると気づく。
性根が腐っているんだからしょうがない。
”正直さ”の使い方が間違っている。

なるべく正直に吐露しようと、
人はうたを詠むのだろう。
ペンを持ち、何かを書くに違いない。

時には欺瞞、時には韜晦の念を持ち、
それに卓越した才を見せる人々。

僕はかぎりなく、そんな人々に憧憬の気持ちを抱く。
それらは素晴らしい料理を魅せるシェフの腕であり、息をのむほどの
圧倒的な建造物である。

市井の人々が一葉のはがきに書きつける自身の『心に抱えた何か』を
僕は毎週日曜日の新聞にめぐりあう。
感心する。実に多彩な人たちが歌や句を詠んでいる。
「ふ~む。」と唸ってしまうことも屡々(しばしば)だ。
自分には決して出来ないこの芸を今後も
口を開け涎を垂らしながら眺めるのだろう。



ところで寿司が食べたい。
でもカネがないのと、外に出るのが面倒なので
あきらめる夜。土曜日の。


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