孤独を解消するスウェーデンの実験的アパート、コロナで注目される老人と若者の共同生活【ポッドキャスト番組『グローバル・インサイト』文字起こし】
海外のトレンド、若者の間で生まれる新しい価値観を、各国で暮らす編集者・ライターがお届けするポッドキャスト番組『グローバル・インサイト』。この番組ではリスナーからの反響が大きかった人気エピソードの文字起こしをnoteで配信しています。
今回は『孤独を解消するスウェーデンの実験的アパート、コロナで注目される老人と若者の共同生活』の回を文字起こししました。
新型コロナウイルスがヨーロッパを再び席巻しています。一部の国や地域ではすでにロックダウンに入っており、レストランやカフェは閉鎖。夜の外出時間も制限される事態となっています。
ヨーロッパは暗く、寒い季節に突入しており、ただでさえ閉塞感や孤独感が強まる時期。今回のロックダウンは、春先よりも人々の心理に深刻な影響を与える可能性があります。
そんな中、約1年前から始まったスウェーデンの実験的な共同アパートが注目されています(出演:山本直子、岡徳之)。
山本 ヨーロッパでは今、「コロナ第二波」が来て大変ですよね。
岡 そうですね・・・。フランスとかベルギーとか、重症化した患者さんでICUがだいぶ埋まってきてしまっているそうですよね。
山本 はい・・・。私たちが住んでいるオランダも、最近新しい規制が発表されました。
岡 レストラン、カフェはもちろん、映画館、美術館、そして学校も閉鎖になってしまいましたね。
山本 家に招待してもいいお客さんの数も2人までですね。
岡 仕事を含めて、外出も必要最小限に抑えろ、と。
山本 ただ、寒くて暗い冬、春先のロックダウンよりもなんか閉塞感強いですよね。
岡 そうですね、一人暮らしの人とか、孤独感も強まりそうですね・・・。
山本 はい。特に一人暮らしのお年寄りに関しては、孤独感の問題が大きいんですよね。
岡 でもそれってコロナ以前から問題視はされていましたよね。
山本 そうなんですよ。日本を含めて、先進国では一人暮らしのお年寄りが増えていますからね。その中でも、スウェーデンは特に一人暮らしの老人が多いらしくて、すでにこの問題に対処しようと、面白い実験が試みられているんですよ。
スウェーデンの実験的アパート「Sällbo」
岡 どんな実験なんでしょうか?
山本 スウェーデン南部のヘルシンボルグという小さな町に「Sällbo(セルボ)」という名前の共同アパートを作ったんですね。ここでは、老人と若者が半々ぐらいずつ住んでいるんです。
岡 ほお、共同アパート。同居するわけじゃなくて、みんな個別の部屋に住んでいるけど、コミュニティスペースがある、みたいな感じでしょうか?
山本 まさにそんな感じです。老人ホームを改装して作られたらしいんですが、4フロア51室ありまして、2020年9月時点で72人が入居していて、このうち過半数は70歳以上、残りは18~25歳の若者で構成されているそうです
岡 すごい。老人とZ世代が共同生活をするんですね。
山本 そうなんです。入居する際には面接があって、経歴とか、性格、宗教、価値観などで偏りがないよう配慮されています。
岡 いろんな人を入れようと。
山本 はい。それから、入居する際の契約書には、1週間に最低2時間、アパートの住民たちと交流することが明記されているそうです。
岡 へえ。Z世代もお年寄りと交流することが入居の条件になっているんですね。どんな若者が入居しているんですか?
山本 半分ぐらいは海外から亡命してきた若者なんですよ。2015年ぐらいからスウェーデンでは難民問題も大きくなっていて、彼らに住宅を提供して、彼らをスウェーデン社会に馴染ませることが各自治体の緊急課題となっていたんですね。だから、この共同アパートは、老人の孤独問題とともに、この難民問題の解決策としても注目されています。
岡 なるほど。で、残りの半分の若者はスウェーデンで生まれ育った人なんですか?
山本 そうです。だから、彼らが老人たちと、難民の若者との間に入って、橋渡し的な役割も果たしているそうです。
岡 へえ、うまく行けば2つの問題を同時に解決して、一石二鳥ですね。
山本 そうですね。
共同アパートで生まれる交流と生きがい
岡 それで、うまく行ってるんですか?
山本 この共同アパートは2019年11月にオープンして、今ちょうど1年ぐらい経ったところなんですが、今のところすごくうまく行っているらしいです。
岡 ほお。
山本 例えば、お年寄りが移民の若者たちに英語を教えたり、車の運転の仕方を教えたりしているそうです。一方で、若者たちは新しいテクノロジーやソーシャルネットワークの使い方を老人たちに教えたり、アプリのインストールやオンラインでの情報収集を手伝ったりしているそうです。
岡 ああ、いいですね。みんなが得意なところを持ち寄って、助け合って生活しているんですね。
山本 これすごくいいですよね。うちの日本の母も一人暮らしなんですけど、アプリの使い方が分からなくて、「近くに教えてくれる若い人いたらな」っていつも言ってます。
岡 そうですよね。そういうちょっとしたことが、すごく助かるんですよね。逆にお年寄りも自分がだれかを助けたり、若者と交流できたりするのは、すごく生きがいになりそうですよね。
山本 はい。こういう助け合いのほかには、土曜夜のムービーナイトとか、カード遊びとか、ガーデニングとか、みんなで楽しむアクティビティも結構あるみたいですよ。
岡 そういうのができる共同スペースみたいなのも充実しているんですか?
山本 そうなんですよ。大きな共同キッチンのほかに、ヨガルームとか、図書室とか、アート・クラフト・スタジオなど、共同スペースは500平米以上あるんだそうです。
岡 おお、広いですね!
山本 1階の大きなラウンジにはテーブルサッカーとかピアノも設置されていて、コロナが流行る前には、誕生会やパーティもしょっちゅう開かれていたそうです。
岡 楽しそうですね。老人だけの共同アパートとか介護アパートってすでに結構ありますけど、こうやって世代とか文化的背景とかが混ざっている「多様な集まり」というのがポイントですね。
山本 そうですね。老人だけが固まって社会から隔離されるのではなくて、多様な社会の一員になるという感じで。
コロナ禍でも機能、若者の孤独も解消
岡 でも、多様だからこそ起こる「いざこざ」もありそうですけどね。
山本 多少はあるみたいです。でも、このアパート専用に「いざこざ解決係」みたいなファシリテーターを市が用意したらしいんですが、実際にこのファシリテーターが出る幕はほとんどなかったそうです。
岡 へえ、みんな和気あいあいとやっているんだ。でもコロナが広がっている中では、若者から老人へのウイルス感染とかも懸念されますよね・・・。
山本 そうでなんですよね。でも、これまでのところ感染者は出ていないようです。老人たちは自らを部屋に隔離したり、若者たちに買い物を代行してもらったりしながら、過ごしているようです。
岡 若者と老人との共存は、コロナの状況下でもうまく機能しているんですね。
山本 はい。
岡 老人だけじゃなくて、若者にも孤独問題って広がっていますから、こういう共同アパートはロックダウンの時にもいいかもしれませんね。
山本 はい。実際にこのスウェーデンの共同アパートは世界中から注目を集めていて、コロナ以前にはカナダ、アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、韓国などから視察団が訪れました。
岡 やっぱり注目度高いですね。
山本 スウェーデン国内でも、すでに3都市が同様のコンセプト導入を計画しているそうですよ。
岡 これから世界中でこういうアパートは増えていくのかもしれませんね。
編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。
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