「週4日労働」でなにがどう変わった? 仏スタートアップの実験【ポッドキャスト番組『グローバル・インサイト』文字起こし】
海外のトレンド、若者の間で生まれる新しい価値観を、各国で暮らす編集者・ライターがお届けするポッドキャスト番組『グローバル・インサイト』。この番組ではリスナーからの反響が大きかった人気エピソードの文字起こしをnoteで配信しています。
今回は『「週4日労働」でなにがどう変わった? 仏スタートアップの実験』の回を文字起こししました。
世界各国の企業で導入されつつある「週4日労働制」。日本でも話題になっていますが、もともと労働時間が日本より短い欧州諸国の企業も、この新しい働き方に強い関心を寄せています。
フランスでは人材スタートアップ「Welcome to The Jungle」が週4日労働制を社内で実験的に実施。そのポジティブな結果をふまえ、他社にも同様の実験の実施と、その結果の共有を促す呼びかけを行っています(出演:大津陽子、岡徳之 / 写真:Tim van der Kuip on Unsplash)。
「週4日勤務」の効能
大津 コロナで観光業はどこも大打撃を受けていますね。
岡 そうですね。欧州は完全に第二波も来ていますし。
大津 私の住んでいるエストニアでは、全従業員解雇したホテルも出てきました。ニュージーランドとか、ある程度コントロールに成功している国は、なんとか観光業を国内旅行でサポートしようと、首相が週休3日の導入推進を提案しているらしいですね。
岡 そうなんですか? 毎週3連休でどんどん旅行してもらおうってことですね。
大津 そうですね。もともと「週4日勤務」って、ここ数年導入企業増えてますよね。欧州でも、フランスの人材スタートアップが今年、週4日勤務の社内実験を行って、良い結果だったということで、他の企業にも同じような実験を呼びかけてるそうです。
岡 へえ、他の企業にまで?
大津 はい。「Welcome to The Jungle」という、テクノロジー企業向けの人材採用プラットフォームを開発するスタートアップです。採用活動のサポートをするわけなので、多くの企業と関わるんですね。その結果、「現代において、私たちは本当に週5日働く必要があるのか?」と、疑問を覚えたそうで。
岡 たしかに、仕事を効率化できるテクノロジーもどんどん生まれてますし、働き方に関する価値観も変わってきてますからね。
大津 それでWelcome to The Jungleは、世界各地に160人くらい社員がいる、割と大きな規模のスタートアップなんですが、まずは135人のフランス人社員を対象に自社で実験をしてみたと。
岡 実験後に週4日勤務に移行したってことは、それで業務に影響が出なかったってことですよね?
大津 Welcome to The Jungleいわく、むしろ、業務にプライオリティをつけるスキルが向上したり、無駄な会議が大幅に減ったりして、生産性の向上が得られたと。
岡 なるほど。日本マイクロソフトが去年やった同じような社内実験でも、それはたしか言われていました。あと、心身の健康面でもポジティブな報告があったような。
大津 Welcome to The Jungleの実験でも、いわゆる「ウェルビーイングの向上」があったそうです。社員のモチベーション向上、ワーク・ライフバランスの改善によるストレスの減少、バーンアウトの減少、社員満足度の向上とかですね。
岡 生産性とウェルビーイングの向上ですか。やっぱりそのあたりが、最近欧州やアメリカで、週休3日の企業がだんだんと増えてきている理由なんですかね。
大津 そうでしょうね。もっとも、だからどの企業もみんな週4日勤務にしようっていう単純な話ではないんでしょうけど。
岡 うーん、職種とか業種によって向き不向きもありそうですし。
大津 Welcome to The Jungleの実験でも、最終的には社内全体が週4日勤務に馴染んだそうですが、エンジニアリングチームと比べて、マーケティングチームは時間がかかったそうです。短期的にはパフォーマンスが下がったりもしたそうなので、どのくらいの期間で成果を測るのか、も結果に影響しますね。
岡 数年とかより長期で見るとまた違ってくるのかもしれないですよね。というのも、効率重視でどんどん仕事をまわしていくと、トレーニングとか、社員同士のちょっとした交流とか、緊急度は低いけど重要度の高いことから削られていきそうな気がします。
大津 早期に導入した企業から、そのあたりも今後、なにか知見が提供されていくのかもしれないですね。
労働時間はどんどん短くなっていく?
岡 それにしても、今の週休2日だって考えてみたら、自分たちが子どものころには新しい働き方でしたけど、すっかり普通になりましたよね。働き方って変わるもんですね。
大津 バケーションを大切にして、あんまり残業しないイメージの欧州でも、19世紀は週6日・1日10~12時間労働だったらしいですからね。だんだん労働時間って短くなっていくんですかね。
岡 今の子どもたちが大きくなるころには、「えー!昔は週5日も働くのが普通だったの?」みたいになるかもしれないですね。
大津 日本で最初に週休2日を導入したのは1965年のパナソニックだったそうなんですが、その当時から、理由の一つに「生産性の向上」が挙げられていたそうなんですよ。
岡 なるほど。労働時間を適切に短縮すると生産性の向上が得られるっていうのは、当時からすでに認識されていたってことですよね。
大津 そうですね。メールもなかったし、FAXも普及していなかったころなのにすごいですよね。だって、昔は海外にメッセージ一つ送るのにもすごく時間かかっていたそうですよ。
岡 時代とともにいろんな業務が効率化されていっているわけですね。同じ量の業務をより少ない日数でこなせるようになっていくのも自然なことなのかもしれませんね。
大津 その分、よく分からない会議とかが増えたりすると、労働時間は変わらないのかもしれませんが(苦笑)。そのあたりを検証していこうっていう呼びかけをWelcome to The Jungleはしたいのかもしれませんね。
編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。