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コラム:ロシア公文書館利用ガイド(ニューズ・レターNo.82、2021年8月号)

 新型コロナ感染が日本国内で見つかってから約一年半、いまだに感染拡大が止まらない。例年なら夏休み中は資料調査で海外へ足を運んでいるときでもあるが、まだまだ海外渡航は厳しい状況にある。もとより海外の資料館、公文書館の利用ガイドの類を出発前にながめるのは楽しい。実際に足を運べなくても、行く先々への旅の気分は味わえるし、未知なる資料との出会いにイマジネーションを巡らせることもできるからである。
 筆者の場合、ロシアでの資料調査が目下の主たる課題である。これまでも、富田武(1995) 「モスクワ・アルヒーフ事情」『窓』第3号、島田顕(2002)「モスクワのコミンテルン史料 ―スペイン内戦関連文書の現状―」『大原社会問題研究所雑誌』第525号などでロシアの公文書館事情が紹介されてきたが、近年では見目典隆(2017)「現地報告モスクワ最新文献調査ガイド」『東方キリスト教世界研究』第1号、が刊行されていたことを知り、拝読する機会があった(京都大学学術情報リポジトリからダウンロードが可能)。
 著者はこれまでのモスクワでの資料調査経験からこのガイドをまとめている。はじめてモスクワの文書館・図書館を利用しようとする人を主たる読者に想定しており、研究環境のみならず食事やトイレといった事情についても記載した、至れり尽くせりなガイドである。ただ、ロシアでは資料調査の環境は水もので条件はよく変わるので、事前準備が特に重要なことはいうまでもない。
 コロナ2年目の2021年夏、海外調査が見込めない中、ロシアの公文書館の「フォンド(文書庫)」「オーピシ(目録)」「ジェーラ(ファイル)」の情報をネットで検索してみた。米国公文書館との対比でいえば、フォンドが「RG(レコードグループ)」、オーピシが「Box(箱)」に相当するイメージである。ファインディングエイドもなきに等しいから、ひたすら公文書館サイトで検索するのみである。
 ネット検索の結果、わかったことは、サイト上で検索できるのは、オーピシ止まりのものばかりだということで、現物の公文書(ジェーラ)は現地でなければ調べられないということであった。アメリカ、日本の公文書館では、ネットでのデジタルアーカイブの公開が進展している面もあるが、ロシアの場合、公文書(マイクロフィルム)を閲覧するなら、やはりまだ現地に赴かなければならないというのが筆者の作業実感である。ただし、ロシア国内にはいくつもの公文書館が存在し、それぞれ公開ポリシーも異なるので、ネットなどで十分に確認されたい。
 この夏のインターネットを用いた資料調査も実に中途半端なものであったが、公文書館利用ガイドをながめながら、またロシア公文書館の公開姿勢、デジタル化の進展に期待しながらも、いち早く平常モードに戻ってほしいと願う今年の夏休みであった。
(『Intelligence』購読会員ニューズ・レターNo.82)

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