あこがれのジェニー
笑いあり、小事件ありのリカチーム。
愉快な洒落のわかる方ばかりで
楽しかった。
結果、リカちゃん課でよかったと思う。
けれど隣のジェニーチームも気になっていた。
美人でお洒落な女性ばかり。。。
馬鹿で浅はかな若者は、素敵なお姉様に憧れる。
コピーをとってると久しぶりに
ナガレくんがやってきた。
彼もジェニーの資料コピーだった。
来週、恒例の【商品連絡会議】があるとかで
その準備。
工場研修で苦楽を共にした同期。
私はうれしくて笑顔で迎える。
「元気ー?」
彼は疲れていた。
「いやあーまいったよー。
ショーの音楽任されてさー。
ジェニーファッションショー。
おもちゃショーでやるやつ。」
えっ?!すごいね。
ファンションショーと言えばジェニーの晴れ舞台。
大抜擢だ。洋楽に強いところを見込まれたらしい。
その頃、世間ではジェニー人形は大人気。
入社前の前々年だか、
ジェニーは【バービー】であった。
タカラが正式に米国マテル社とライセンス契約し、
日本風に顔やスタイルをアレンジしたうえ
リカちゃんより大きなお姉さん人形として売り出したのだ。日本版バービーとして。
それはとても評判になっていた。
だが契約が切れる一瞬。なんとライバル会社が
米国マテル社と契約。あけっなく【バービー】の称号は使えなくなる。
幸い日本風にアレンジした顔やボディ。
タカラオリジナルで起こしていたため
それは使用してよい・・・となったわけだが
さあー名前どうする?となった。
そこで広告戦略として、雑誌メディアを使い
「この子に名前をつけて!」キャンペーンを実施。
これに応募殺到。
審査の結果【ジェニー】となる。
かくしてリカちゃんより、お姉さん。
17歳、ロサンゼルス生まれ。
ファッションモデルのジェニーは誕生したのである。
会社もライバルからバービーが正式リリースと
聞くや、予算を投じた。これでもかと投じた。
中野裕通、イッセー三宅、山本寛斎など
当代人気のファッションデザイナーにこぞって
ジェニーの服をデザインさせた。
そのスタイルはまず人間用に創作してもらい、
さらにそれを人形サイズにアレンジ。
人気デザイナーによる
ジェニーファッションを纏った
可愛いくチャーミングなモデルさんたちが、
同じ服を着せたジェニーを持って
ウォーキングするという
前代未聞のファッションショーを仕掛けた。
これがまた大いに話題になる。
ジェニーのテーマソング。
これまた当時人気のEPOさんに
歌っていただく。
ジェニー、ジェニー、ジェェニィッー🎵
耳に残る。
ジェニーは全体的に本物志向。
リカちゃんがプラスチックのカチューシャなら、
ジェニーは金属のティアラ。
プラモデルのようなランナーについて
一色成形の食べ物類がリカちゃんなら、
ジェニーはそれぞれ塗装されて、
色鮮やかに再現されたご馳走。
ナイロン染めという手法も使われてる。
・・・かつてのリカちゃんの小物は
そうだったらしく銀製品のお皿などあったが
今はジェニーに取られる。
リカちゃんは常にフエラムネのオマケのようであり、
ジェニーはシルバニアファミリーの小物のようであり・・・といえばおわかりいただけるだろうか?
また
実際の商品では
パーティードレスにラインストーンを
ほどこしたものなど、キラキラでゴージャス。
リカちゃんはワンピース、という
格差だった。
ジェニーにはお友だちもいて
エリーはタヌキ顔ながら
ソバージュで全身肌を焼いたお姉さんで
セクシーだった。
金髪、色白のジェニーと良い対比になり
絵になり
人気だった。
とにかく社内の雰囲気も
ジェニーがスター。
リカちゃんはかつてのスター。
予算はジェニーへ。
そのあおりをくったのが
かつての女王、リカちゃんなのだ。
考えてみたら人気デザイナーに
本物の服もデザインさせ、おそらくその
仲介は代理店であったろうから
大変な金額だったと推測する。
それだけ
バービーの件は痛恨の極み。
なんとしてでも!という思いがあったのだろう。
そんなジェニーにいるナガレくんを
少し羨ましくも思った。
ピンクのスタッフジャンパーを着て、
ファッションショーのため奔走してる。
いいなー、とさえ見ていた。
「おーいナガレー!なにやってんだ。
早く。ミーティングはじめるぞ。」
ナガレくんの顔色が変わり
「は、はい!」と
従順。あんなに社是や研修に文句を言ってた
彼らしくない態度。
どうやら相当しぼられてるらしい。
「ナガレって椎茸食べられないだよな。
今日からお前はシイタケって呼ぶよ。」
「勘弁してください。苦笑。」
へー椎茸苦手なんだ。飲み会でバレたのか?
彼もジェニーチームの歓迎会があったようだ。
ナガレくんを呼びにきたジェニー指導員の方が
ムッとしつつ笑いながら近づいてくる。
「あ、リカちゃん課に配属された
タケヤマと申します。よろしくお願いいたします。」
「オス!うん、聞いてるよ。
リカチーム始まって以来の好青年だって聞いてます。
よろしくお願いしますね。カキウチって言います。」
ジェニーの数少ない男性。カキウチさん。
私にも敬語をつかってくれる。
裏で話になってるなんて。
その頃の私はまったく自信がなかったので、
自分の態度や振る舞いが
正しいか否かわからずドギマギしていた。
正直うれしかった。
最初、ナガレくんに近づいて毒づいてて
怖いと思ったけど
配属時の態度が悪かったからそうなったのかな?
私には優しく接してくれた。
ジェニーチーム。
あのーー宝塚の方ですか?!という
派手なお顔でハーフ?を思わせる方、
昔の日本映画に出てくる女優さんのような美しい人、
眼鏡とボブヘアの知的なファッションデザイナーを
思わせるお洒落な方などたくさんの女性が
6、7人いた。そして男子はナガレくん入って
4人。リカチームの逆だった。
カキウチさんはジェニーチームでは
男性のリーダーだった。
兄貴的で気さくな方。
「いつか一緒に仕事できたらいいね。」
え?!ど新人の私と?
「あ、ありがとうございます。」
カキウチさんの言葉に驚きながら
頭を下げる。笑いながら去るカキウチさん。
となりの芝生はなんとやら。
「ナガレさー、わかってる?!」と
奥からきつい物言い。
ジェニーチームはピリッとしていた。