魁!金型部
今日から金型部門に配置される。
金型部門は工場の敷地内の
少し離れた特別なところにあった。
ビニール部門、ベテランの仕切りるリーダーと
パートの方。年配の方
成形部門、職人の男性とパートの方。
金型部門、ベテランリーダーと男子。
工業高校出身の方が揃う。
各部署、趣が変わって雰囲気も変わる。
「押忍!」と言わんばかりの男子校の匂い。
なかでも安全地帯の頃の玉置浩二そっくりな、
長身なリーダーが目立つ。ニコッと笑うが無口。
私たちの指導員らしい。
そこに熟練職人肌部長が指揮官がやってくる。
「金型は、玩具の肝。ここを疎かににすると
なにも生産されない。いいかい?少しでも金型に傷があったら、玩具は金型から外れないんだ。すこしもあってはならない!そのためのメンテナンス。
常に磨くこと。それが大切。今日から両名は
この金型を磨いてもらう。」
目の前に小さな凸のある、そして全体は大きな金型がそれぞれにあてがわれる。幕の内弁当くらいか。
この金型、
チョロQだ。
タカラの人気商品のひとつ。
プルバックという仕掛けで、後ろにギリギリと引いて手を離すと猛スピードで走る。後ろのエンブレムの隙間に10円を挟む。その重みでウィリーとなり、クルクルとその場でスピンする。
アメリカではワンペニーレーサーとか?で
売り出されたと新人研修で聞いた。
一見すると綺麗。しかし細かな傷があるという。
わからない・・・
金属製のヤスリを渡される。
それを言われるまま磨く。
ずっとずっと磨く。
よくわからない。
2時間ほどやって、チェック。
「うーーん、この角がまだ荒いな。」安全地帯。
(絶対年下だろう?)
もう1時間。
「まだまだ。午後も磨いてくださいね。」
お昼だ。
ナガレくんと食堂へ。
2人は、まだ来ない。
今日は成形かな?あの課長厳しかったから
遅れてるかも。
あ、腕が痛い。肩も。
何となくふたりとも無口。
どんぶりに山盛りの白飯を、わしわしと
いただく。
ポークピカタ。ミックスベジタブル。
(ピカタってなんだ?)
金型を磨く作業は、肩に力が入ってるのか
素人目には進みがわからないためか
今までで一番消耗してる。
「フランキーたちが疲れた顔してたのも
これなのね。」とナガレ。
おう!とその2人が来て、こちらは食べ終わるから
すれ違い。
「おつかれー。お先に。」
私たちは食堂をあとにする。
ダラダラと金型部門の方へ戻って行った。
そーーれ!
どりゃあ!
バスン!
ドドン!
りゃっ!
ドォン!
バレーボールを金型男子たちが
やってる。
さっきご飯食べてたよねー。
元気だなー。
安全地帯の玉置浩二似のお兄さん。
無口だったが、バレーボールで
元気はつらつ。動きがいい。
「元気だね」と
ナガレに言う。
「あーゆうのオレ、いい。体育会系」
2人は
その辺の芝生に寝転がる。
ほんとにあの本社。
駅から遠いと思った白いビルに
私たちは戻れるのだろうか?
(金型を下手に磨いたら、こいつは役に立たないから
早く本社戻そうとか・・・いやそうゆうことじゃないか。)くだらないことを、まどろみの中で思いながら、ナガレくんはほんとに明日でも辞めること考えてるのかな?と横目で見る。
午後も、そして明日も
終わりなき金型磨き。
正解のわからない自分磨き。
「金型ってさー何百万、何千万とするって
研修の講習会で言ってたな。」
らしい。
そう聞いていた。
そんな高価なもの、責任重大だ。
午後の就業の合図が響く。
モダンタイムスの再開。
お仕着せの作業着から、芝生の草を払いながら
起き上がる。
足は金型をはめられたように重い。
バレーやっていた男子たちは合図の前に
金型工場へもどってる。