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南禅寺の記憶・・哲学の道で17才ノデキゴト 第三章 春の文化祭のクライマックス
哲学の道の木々に新芽が芽吹き、南禅寺の境内にも春の訪れが感じられるようになった。アキラたちの高校では文化祭当日を迎え、生徒たちの興奮と期待が校内に満ちていた。
アキラはバンドメンバーとともに、ステージ横の控室で最終準備をしていた。ギターのチューニングを確認しながら、どこか浮かない顔をしている。
「おい、アキラ!緊張してるのか?」
タカシが笑いながら肩を叩く。
「いや…そういうわけじゃないけど。」
「嘘つけ。優香ちゃんのことだろ?」
タカシの言葉に、アキラはハッとして視線をそらした。
「まぁ、あいつなら大丈夫だって。ちゃんと来るよ。」
「…そうだといいけど。」
優香の迷い
そのころ、優香は哲学の道を一人で歩いていた。南禅寺から続く道は静かで、桜の花が風に舞っている。
「…行くべきなのかな。」
文化祭に向かうか、それともそのまま東京行きを決めるべきか。彼女の心は揺れていた。
ポケットの中でスマートフォンが振動する。アキラからのメッセージだった。
「優香さん、待ってるから。」
短い一文に、優香は心が揺さぶられた。
文化祭ステージの幕開け
バンドの出番が近づき、アキラたちはステージに向かっていた。観客席は生徒たちで埋まり、期待と興奮が入り混じった空気が漂っている。
「始めるぞ。」
アキラがギターを構え、メンバー全員が準備を整える。だが、優香の姿はまだ見えない。
「大丈夫か?」
タカシが小声で尋ねる。アキラは小さく頷いたが、内心は不安でいっぱいだった。
その瞬間、控室のドアが開き、息を切らした優香が飛び込んできた。
「ごめんなさい、遅くなって!」
アキラは目を見開き、安心したように微笑んだ。
「よかった。間に合ったな。」
優香がステージ衣装に着替える間、アキラはギターの弦を軽く弾きながら気持ちを落ち着けた。
ステージのクライマックス
ライトが照らされ、バンドの演奏が始まる。観客たちの歓声が響き渡る中、優香の透き通るような歌声が校内に広がった。
歌詞(抜粋)
「桜の舞う道を歩きながら、君の笑顔を思い出す。
別れても、僕らは同じ空の下でつながっている…。」
アキラのギターが優香の声を支え、タカシのドラムが観客を沸かせる。曲が終わると、会場全体が拍手と歓声に包まれた。
優香は深くお辞儀をしながら、胸の中で何かが変わるのを感じた。
「これが…私のやりたいことなのかもしれない。」
プロデューサーとの再会
ステージが終わった後、優香のもとに一人の男性が近づいてきた。文化祭で彼女をスカウトした東京のプロデューサーだ。
「優香さん、素晴らしいパフォーマンスだった。君の声はプロの世界で必ず輝く。」
その言葉に、優香の心は大きく揺れ動いた。
「…ありがとうございます。でも、まだ迷っていて。」
「迷うのは当然だよ。だけど、君にはその価値がある。」
プロデューサーは名刺を渡し、去っていった。
アキラと優香の会話
その夜、文化祭の後片付けが終わり、アキラと優香は学校の屋上にいた。星空の下、二人の間にはしばらくの沈黙があった。
「今日のステージ、すごく良かったよ。」
アキラが口を開くと、優香は微笑んで答えた。
「アキラさんがいてくれたからです。」
しばらくして、優香が静かに切り出した。
「私、東京に行こうと思います。」
その言葉に、アキラは少し目を伏せたが、すぐに笑顔を作った。
「そうか。それが優香さんの夢なんだね。」
「はい。でも…怖いんです。本当にうまくいくのかどうか。」
アキラはギターケースを軽く叩きながら言った。
「夢を追うのは怖いよ。でも、優香さんなら大丈夫だって信じてる。」
優香は目を潤ませながら、アキラを見つめた。
「ありがとう。アキラさんのおかげで、決心がつきました。」
別れの予感
夜風が二人の間を吹き抜ける。優香が東京に行く決意を固めた一方で、アキラは彼女を引き留めることなく見送る準備をしていた。
「また、どこかで会えるかな。」
優香の問いに、アキラは微笑んで答えた。
「きっとね。そのときは、お互い夢を叶えた姿で。」
二人の約束が交わされたその夜、桜の花びらが校庭に静かに舞い降りていた。