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南禅寺の記憶・・哲学の道で17才ノデキゴト 第一章 日常と夢
秋が深まり、京都の高校は文化祭の準備で活気に満ちていた。アキラのクラスも模擬店を準備する生徒たちで賑やかだが、アキラ自身は文化祭のバンド演奏が決まっていることで、少し緊張していた。
「おい、アキラ!曲決まったのか?」
バンドのドラマーで親友のタカシが声をかけてきた。タカシの軽口が、緊張をほぐしてくれる。
「一応な。でも、文化祭のステージなんて久々だから、ちょっとプレッシャーだよ。」
アキラが苦笑いすると、タカシが肩を叩いた。
「大丈夫だって。いつもの練習通りやれば盛り上がるからさ。」
その日の放課後、アキラたちはバンドの練習に向かった。練習スタジオでギターを弾きながら、アキラはふと哲学の道で出会った優香のことを思い出した。「あのときの絵、完成したのかな…。」心の中に小さな好奇心が生まれる。
数日後、文化祭の準備で教室にいると、廊下から聞き覚えのある声が聞こえた。
「アキラさん?」
振り返ると、そこには優香が立っていた。クラスメイトのマリと一緒にいて、アキラを見つけて手を振っている。
「優香さん!なんでここに?」
アキラが驚くと、優香が笑顔で答えた。
「マリに誘われて文化祭の準備を手伝いに来たんです。」
「そっか。それなら楽しんでいって。」
アキラが言うと、マリが横から口を挟んだ。
「優香ってね、歌もうまいんだよ!ボーカルでもいけるくらい!」
「マリ、そんなこと言わなくていいってば!」
優香は慌てて否定したが、マリは笑いながら続ける。
「ねえ、アキラ君のバンド、ボーカル探してるんじゃないの?優香がやればいいんじゃない?」
一瞬の静寂の後、アキラは優香を見つめた。
「本当に歌うのが好きなら、一緒にやってみない?」
優香は戸惑いながらも、小さく頷いた。
「私でいいなら…。」
文化祭の準備が進む中、アキラと優香はバンドの練習や買い出しで一緒に過ごす時間が増えた。ある日の夕方、二人は南禅寺を訪れ、紅葉に包まれた境内を散策していた。
「ここ、やっぱり絵になるな。」
アキラが呟くと、優香は頷きながら微笑んだ。
「私も何度も描いた場所です。この紅葉を見ると、落ち着くんです。」
「絵と歌、どっちが好きなんだ?」
「どちらも大好き。でも、歌はもっと自由な気がするんです。思い切り自分を表現できるから。」
優香の言葉に、アキラはギターを弾いているときの自分を思い浮かべた。音楽が自分にとっても自由の象徴であることを再確認する。
「俺たち、似てるかもな。」
「そうかもしれませんね。」
二人は笑い合い、南禅寺から哲学の道へと歩いていった。夕焼けが道を照らし、紅葉がさらに美しく輝いている。
文化祭当日が近づき、バンドの練習は最高潮に達した。練習後、優香が小さな声で言った。
「アキラさん、ありがとう。私、歌うのがこんなに楽しいって思えるなんて…。初めてです。」
「俺こそ、優香さんの歌でバンドが変わった気がする。すごくいい感じだよ。」
アキラの言葉に、優香は少し頬を赤らめた。
「本番、頑張りましょうね。」
「もちろん。最高のステージにしよう。」
その夜、アキラは一人で哲学の道を歩いていた。紅葉が風に舞い、石畳に静かに積もっている。優香との出会いと、夢を語り合った日々が思い返される。
「…俺ももっと頑張らないとな。」
アキラはギターケースを握りしめ、文化祭本番に向けた意気込みを胸に刻むのだった。