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赤白の軌跡 禁断のCBX-三ない時代を駆けぬけた青春の記録-バイク小説 第四章『新たな道』

工房の朝は、いつもと変わらない時間に始まっていた。 鈴鹿でのプロテストから一週間。 生徒会室の机の上には、三ない運動の見直し案が置かれている。

「バイクとの正しい関わり方」 「技術教育としての二輪車整備」 「安全運転の専門教育の必要性」

新しい提案を見つめながら、CBXのエンジン音が、決意とともに響く。

「今日から、全てを見直す」 瀬川さんがエンジンを前に告げる。 「お前の技術は間違っていない。むしろ、これからが本当の始まりだ」

エンジンの完全分解作業が始まる。 一つひとつのパーツに、これまでの物語が刻まれている。 ピストン、バルブ、カムシャフト。 その一つ一つが、新たな意味を持ち始めていた。

「見えてきたか?」 瀬川さんの声に、僕は黙って頷く。 マシンを完全に理解することが、真のプロフェッショナルへの第一歩。 そして、それは技術と安全の両立を理解することでもあった。

その時、工房に村上が入ってきた。 包帯が取れた手に、新しい工具セットを握りしめて。 「決めたよ、俺たちの道を」 彼の目が輝いていた。 「二級整備士の資格を取って、レースメカニックになる。そして、技術を正しく伝えていく」

夕暮れ時、神谷が重要な知らせを持ってきた。 「全日本選手権のファクトリーチームが、若手メカニックを募集している」 彼の表情は真剣だった。 「瀬川さんの推薦があれば、門戸は開かれる」

瀬川さんが、僕たちの肩に手を置いた。 「技術は、様々な形で花開く。レースを支える側として、プロの世界に入る道もある。そして、それは次世代を育てる道でもある」

その瞬間、工房の扉が開いた。 藤堂教頭の姿があった。 しかし、その表情は以前と違っていた。

「君たちの決意は聞いた」 教頭の声は、驚くほど温かい。 「技術者として、正統な道を歩むのも、立派な選択だ。三ない運動は、単なる禁止ではない。安全と技術の正しい理解、それが本質なのだ」

彼の手には、工業高校への推薦状と、地元の自動車整備専門学校からの案内が握られていた。

夜遅く、CBXのエンジンが静かに鼓動を刻む。 赤白のカラーリングが、工房の灯りに照らされて輝いている。

プロレーサーの夢は形を変えた。 でも、新しい夢が見えてきた。 バイクと共に生きる。 技術を磨き、継承していく。 そして、安全への理解を深め、正しい技術を伝えていく。 それは、また違った形での挑戦の始まり。
続く

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