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第二章 織物の道へ①
真央の学生時代の織物体験
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高校に進学した真央は、地元の織物会社が主催する織物教室に通い始めた。
本格的な織物の技術を学べる環境に、真央は胸を躍らせていた。
教室に足を踏み入れた真央は、整然と並ぶ織機に目を見張った。
糸を操る職人たちの真剣な眼差しと、規則正しく繰り返される杼の音が交錯する光景に、真央は圧倒される。
「新入生の佐藤真央です。織物を学ばせていただきます、よろしくお願いします」
真央が頭を下げると、講師の吉田亜希子が暖かい笑顔で迎えた。
「佐藤さん、ようこそ。ここでは基礎からしっかり教えていくから、安心してね」
「はい、吉田先生。精一杯がんばります」
そう言って織機の前に座る真央に、吉田は優しく語りかける。
「織物は、糸との対話なの。糸の声に耳を澄まして、まずはゆっくり織っていきましょう」
吉田の言葉を胸に、真央は織り始めた。思うように糸が制御できず、何度も失敗を繰り返す。
「うまくいかない.」真央がため息をつくと、吉田は微笑んだ。
「焦らなくていいのよ。織物は一朝一夕では上達しないの。コツコツ積み重ねていくしかないのよ」
吉田の優しい言葉に励まされ、真央は織物に打ち込んだ。
何度も何度も織り直しては、少しずつ上達していく。
「佐藤さん、随分様になってきたわね」
数週間後、吉田が真央の織物を見て感心したように言う。
「吉田先生、少しずつ糸の扱いがわかってきた気がします。でも、まだまだ未熟で…」
「いいえ、十分上出来よ。佐藤さんの努力の賜物ね」
吉田に褒められ、真央は頬を緩めた。
「これからも、織物と真摯に向き合っていきたいです」
「ええ、その心意気が大切よ。織物の道は平坦じゃないけれど、佐藤さんなら素晴らしい織り手になれるわ」
吉田の言葉が、真央に自信を与えた。
教室での学びを通して、真央は織物の奥深さを実感していく。
先人たちの知恵が詰まった技術の数々。
そこには、織物の神髄が隠されていると真央は直感した。
「佐藤さん、今度は応用編の技法を学んでみましょう」
吉田の提案に、真央は目を輝かせた。
「はい、ぜひお願いします! もっと織物の深みを知りたいです」
「その意欲が何より大切よ。さあ、次なる一歩を踏み出しましょう」
吉田と共に、真央は織物の新たなステージへと歩みを進めた。
初心者の域を脱し、本格的な技法へと挑戦していく。
日々の鍛錬の中で、真央は織物との一体感を強めていった。
教室の仲間たちとも、織物を通じて絆を深めていく。
「佐藤さん、この前織った着物、本当に美しかったわ」
「あなたの着物も素敵だったわよ。私たち、まだまだ伸び代があるわね」
互いの成長を喜び合う姿に、真央は織物の楽しさを見出していた。
「みんなと一緒に学べるのは、本当に幸せなこと」
そう呟きながら、真央はますます織物に情熱を注ぐようになった。
学生時代の真央は、心から織物を愛していた。
伝統の技に魅せられ、そこに込められた想いを紐解くたび、真央の世界は広がっていく。
「織物の道は果てしない.. でも、私はこの道をずっと進んでいきたい」
未来の自分を思い描きながら、真央は織物修業に精進した。
吉田の教えを乞い、仲間と切磋琢磨しながら、着実に腕を上げていく。
「佐藤さんなら、必ずプロの織り手になれるわ」
ある日の教室で、吉田がそう言って真央の背中を押した。
「吉田先生.. 私、自分でも道は間違っていないと感じています」
「ええ、佐藤さんの人生は、織物と切っても切れない関係なのだと思うわ」
真央の心に、吉田の言葉が深く染み渡る。
織物は、真央の生きる指針となりつつあった。
伝統に息吹を与え、織物の世界に新風を吹き込む。
その役目を果たすのが、自分の使命なのだと悟りつつあった。
学生時代、真央は大きな一歩を踏み出していた。
祖母の背中を追い、やがては追い越していく未来へ向けて。
織物教室での日々は、真央の血肉となって、彼女を鍛え上げた。
吉田の薫陶を受け、仲間との友情に支えられながら、真央は一人前の織り手へと羽ばたく準備を整えたのだ。
「織物の道は、私の人生そのもの」
そう感じられるようになった時、真央の学生生活は終わりを告げた。
けれど真央の織物人生は、まだ始まったばかりだった。
これから織物の世界で、真央がどんな伝説を織り成すのか。
吉田も、教室の仲間たちも、真央の未来を心から楽しみにしていた。
織物一筋に生きる。真央の新たな旅立ちは、希望に満ちていた。
学生時代に培った情熱と技術を武器に、真央はこれから大海原へと船出するのだ。
そして織物の世界で真央が織り成す伝説は、一宮の地にとどまらず、やがて日本中を巻き込んでいくことになる。
学生時代の体験が、真央をそこまで押し上げる原動力となったのは、間違いない事実だった。