第二章 織物の道へ③
伝統を守るプロジェクトの提案
織物教室に通って一年が経った頃、真央は伝統を守るプロジェクトを提案するようになっていた。
一宮の織物の価値を、もっと広く伝えていきたい。
そんな思いが、真央の中で日増しに強くなっていた。
教室の仲間を集めた真央は、熱心に語りかけた。
「一宮の織物の伝統を、みんなで守っていきませんか?」
「でも、具体的にはどうするつもり?」友人の一人が問いかける。
「まずは、一宮の織物の魅力を知ってもらうための、イベントを企画したいの」
「イベント?」「どんなイベント?」仲間たちがざわめき始める。
「織物の体験教室を開いたり、一宮の織物の歴史を紹介する展示会を開いたり…」
「なるほど、織物の奥深さを知ってもらう機会を作るのね」
「そうなの。一宮の織物の素晴らしさを、みんなに感じてほしいの」
真央の熱意に、仲間たちも次第に心を動かされていく。
「いいわ、私も協力するわ」「私も手伝うよ」次々と賛同の声が上がった。
「みんな...! ありがとう、一緒に頑張ろう!」真央は目を輝かせた。
プロジェクトは、吉田の賛同も得て本格的に動き出した。
真央を中心に、仲間たちが力を合わせて準備を進めていく。
「佐藤さん、イベントの企画書ができたわ」数週間後、吉田が真央を呼び出した。
「吉田先生、みんなの意見を取り入れながら作ったんです」
「とてもいい内容ね。一宮の魅力が存分に伝わってくるわ」
吉田に褒められ、真央は安堵の表情を浮かべた。
「これを、一宮の織物組合に持っていきましょう。きっと協力してくれるはずよ」
「はい、お願いします。一宮のためにも、なんとしても実現させたいです」
真央の思いを胸に、二人は織物組合への交渉に臨んだ。
織物組合の反応は上々だった。伝統を守る若者の熱意に、組合のメンバーも心を打たれたのだ。
「佐藤さん、あなたたちの企画、全面的にバックアップするよ」
組合長の言葉に、真央は感激で胸が震えた。
「ありがとうございます...! 必ず成功させてみせます!」
「うん、期待しているよ。若い力で、一宮の織物を盛り上げてくれ」
組合長に激励され、真央は身が引き締まる思いだった。
こうして真央たちのプロジェクトは、多くの人々の支援を得て動き出した。
織物教室を開催し、展示会の準備を進めていく。
徐々に、一宮の街に変化の兆しが表れ始めた。
「織物教室、大盛況だったわね」イベント後、吉田が真央に話しかける。
「はい、みんな生き生きと織物を体験していました」
「展示会も、連日たくさんの来場者があったそうよ」
「織物への関心が、確実に高まっているのを感じました」
真央の笑顔は、充実感に満ちていた。
「佐藤さんのおかげよ。あなたの情熱が、みんなの心を動かしたのよ」
「いいえ、これはみんなの力です。一人じゃ、ここまでできなかった」
謙虚に言う真央に、吉田は頷いた。
「織物の未来は、若い世代が担っていくものね。佐藤さんたちに託せて、私は安心よ」
「吉田先生…」真央は感謝の気持ちでいっぱいだった。
伝統を守るプロジェクト。それは、真央の人生の転機となった。
自分には織物の未来を切り拓く使命がある。そう感じずにはいられなかった。
「一宮の織物を、もっと素晴らしいものにしていきたい」
そんな決意を胸に、真央は新たな一歩を踏み出した。
仲間と織物組合の支えを得て、真央のプロジェクトは大きな実を結びつつあった。
「伝統は守るだけじゃなく、革新していくものなのよね」
真央のそんな言葉に、吉田は力強く頷いた。
「ええ、その通りよ。佐藤さんたちが、新しい伝統を紡いでいってほしいの」
「はい、がんばります。一宮の誇りを胸に、精一杯努めます」
師の期待を背負い、真央は前を向いた。
織物の可能性を追求し、一宮に新風を吹き込んでいく。
それが、真央に課せられた使命だと悟っていた。
プロジェクトを通して芽生えた、真央の新たな覚悟。
それは、これから真央が織りなす人生の原動力となるはずだ。
「一宮の織物の未来は、私が切り拓いていく」
そう心に誓った真央は、織物への情熱を燃やし続ける。
伝統を守るために、そして新しい息吹を吹き込むために。
真央の織物革命は、いよいよ本格的な幕開けを迎えようとしていた
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