グローバル企業はなぜ「従業員重視」に舵をきっているのか?
日本でも、外資系といえばリストラ、と多くの人が思っているように、欧米グローバル企業は年次評価のレーティング(通称パフォーマンスレビュー)を行い、下位10-20%をリストラの対象とする会社が多かった。しかしこの人事評価の仕組みに最近変化が起きている。
例えば、この記事は「パフォーマンスレビュー」をやめて新しい人事評価制度を構築した大手米企業6社(GE, Cargill, Eli Lilly, Adobe, Accenture, Google)の取り組みを紹介している。例えばGEは、ジャック・ウェルチの「下位10%の人材に時間を使うのは生産的ではない」という発言が有名だったが、10年前にその制度は廃止し、現在はマネージャーによるコーチングに比重を置いた人事評価制度に移行している。
アドビはやはり一年に一回のパフォーマンスレビューでの評価を廃止し、"Check-In"と呼ばれる仕組みを導入。マネージャーが頻繁に従業員とコミュニケーションを取りフィードバックを返すことを奨励している。
では、なぜグローバル企業はこうした変化を進めているのか?一つには、相対評価とそれに基づく過剰なリストラが、従業員間が協力しあうことのモチベーションを失わせ、それが組織の生産性を落とすことに気づいてきたことがある。
欧米企業の人事評価は相対評価のため、組織の10-20%には必ず低評価をつけなければならない。これには問題があって、たとえその組織全体が非常に高いパフォーマンスを出していても、必ず低評価(=リストラ対象)を一定数つけなければならない。よって、従業員には、組織内で協調しあうよりも、個人として成果を出す方向にインセンティブづけがなされてしまう。
これに対し「別に組織で協力しあう必要なんてないんじゃないの?できるやつはできるし、ダメなやつはダメでしょ」という考えもあるが、こうした「スーパースター」信仰が必ずしも組織全体の生産性を高めない、という研究が最近進んでいる。
例えば、2012年にHarvard Business Reviewに投稿された論文"The New Science of Building Great Teams"は、組織の生産性は、組織内および外部との緊密なコミュニケーションによって決まり、特定のハイパフォーマーに依存するものでない、ということを示して話題になった(この論文は12年のマッキンゼーアワードを受賞。非常に面白い論文なので詳細は別記事で紹介したい)。
こうした研究や実際の経験から、最初にあげたように、多くの欧米企業でフィードバックの頻度を高め、従業員のスキルやモチベーション向上、従業員間の協業の推進を狙った新しい人事の仕組みが構築されてきている。
また、この文脈ではEQが重視されており、私の所属企業でもマネージャーの資質として最も重要なものの一つとしてEQをあげて、その向上を促している。またGoogleを代表とするハイテク企業はどこも「従業員重視」を掲げており、この潮流はグローバル企業では当たり前のものになっていくと思われる。
では、これらの潮流に対して日本企業はどう対応しているだろうか?富士通の成果主義の失敗、が話題になったように、日本企業では欧米企業が導入した厳しい年次評価に基づくリストラ込みの人事制度、というのを結局導入しなかった。従業員同士の協業の重視、というのは日本企業の伝統で、それは上記した欧米企業の潮流とは同じなのだが、欧米流の「成果主義」を導入しなかったがゆえに、また、終身雇用が依然前提となっているがゆえに、やや弛緩した形での「従業員重視」になっているのではとの印象がある。この辺りは別途論じてみたい。
注)この記事は別のブログで書いた記事を加筆・修正したものです。
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