最後のマスカラ　#毎週ショートショートnote

鏡を見るのが嫌い。
冴えない顔を見るたびに自分自身を否定する言葉が頭を埋め尽くす。
無理に笑顔を作る。
鏡の中から不気味な笑い声が聞こえた。

ある日、封筒が届いた。
中にはマスカラと手紙が入っていた。

大切な自分へ
　これを使ってみて
　　きっと素敵な変化が訪れる
　　　未来の私から愛を込めて

半信半疑でそのマスカラを使い始めた。
鏡の中の少しだけマシな自分。
浮かべた笑顔は、少し柔らかくなった気がした。

いつしか、周りが変化していた。
世界が優しくなった。
褒められることが増えた。
鏡から嫌な声は聞こえなくなった。

マスカラは残りわずかになっていた。
使えるのはあと１回。

マスカラの不思議な力で世界が変わったのに、あと１回で元に戻ってしまう。
深い絶望感が私を包み込んだ。

その時、未来の自分からの手紙が目に止まった。

　きっと素敵な変化が訪れる

鏡の前で微笑んだ。
自分を信じて、愛している顔だった。

そうか。
世界が変化したんじゃない。
変化したのは私自身だ。

最後の１回は、もう必要ない。

ええ話や。