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響く礼節をペンペンしてみる #毎週ショートショートnote
演奏を終えた時にどうして泣いていたか?
嬉しかったの。
私の楽譜に音符が戻ってきてくれた。
あれは10年前。ショパン国際ピアノコンクールで優勝し、ピアニストとして世界的に認められた年だった。情熱の赴くままに指先を鍵盤の上で踊らせていた。楽譜に敬意を。ピアノが響かせる音色に礼節を。
そう思っていたはずなのに、ある日の演奏中、楽譜に音が足りないと感じてしまい、不思議な魔法に導かれるようにペンペンと高い音を2つつけ足していた。
その瞬間、楽譜から音符が消え去ってしまった。私が楽譜を軽視したから音符が愛想を尽かして旅に出てしまったのね。
それからの私は真っ白の楽譜に精一杯の礼を尽くした。感謝の気持ちを忘れず、寝る時もいつもそばに置いた。演奏前は「今日もよろしく」と声をかけた。
そして今日、やっと音符が私を許して旅から帰ってきてくれた。
ただ、1つ困ったことがあって。
長旅は音符を成長させたのね。
全ての音符が全音符になっていたのよ。
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それはそれで聴いてみたい。