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藤原啓治さんの思い出

大好きな声優さんが亡くなった。藤原啓治さんだ。
55歳という若さだった。
 
もう2年前の話だが、1度お会いできた。もちろん仕事ではあるが。
超有名な芸能人が目の前に現れても、心の中で「かっけー!」「かわいい…」「やべぇ」と叫ぶくらいなのだが、その時だけは違った。
 
ダメなことは重々承知でプロデューサーに、

「す、す、すみません…藤原啓治さんのファンなので、、、サインってやっぱりだめですよね…」
 
と聞いたら、

「いいんじゃない!聞いてみれば~」

と、超うれしかった。
なんせ、あの"野原ひろし"だ!"レオリオ"だ!!そして"トニー・スターク"なのだから!!!

テンション爆上げで、彼がスタジオに来るのを待っていた。
 
「藤原さん入りますー」
 
そして、現場入りした藤原啓治さんを見たとき、びっくりした。イベントに出ていた彼とは別人だったのだ。やせ細り、以前の彼ではなかった。彼が、野原ひろし役を病気を理由に降板し、闘病生活に入り、復帰後2つ目の現場だったのだ。

「大丈夫か…?」もちろん、体調も仕事も含めての話である。心の中で思った。あのやせ細った体で、声の仕事とは言え、できるのであろうか…?と。思いのほか体力を消耗する仕事なのだ。
 
しかし、そんな不安は一言スタジオ内で発した彼の声で杞憂に終わった。そこには、間違いなく僕が知っている"藤原啓治"がいたのだ。
 
「プロってこうだ!」とそのときほど強く思った瞬間はない。監督が言うことを聞き、しっかり解釈し、自分からアイデアを出していく。プロ中のプロである藤原啓治だから当たり前だったのかもしれない。しかし、それまで聞いた誰よりも実直に役に向き合っていた。そして、だれよりもバリエーションを提案し、さまざまな声を出した。そのとき、「すげえな…細くて大変そうだけど、やっぱりもう大丈夫なんだろうな!これからもいろいろ声が聞けそうで嬉しい!!」と思っていた。
 
仕事の終わり、僕が一切入り込む隙もなく、藤原啓治さんは急いで現場を立ち去った。サインはもらう時間もなかった…「残念だな…」と思う僕の背中越しでプロデューサーが、

「岩崎くん、これもらっといたよ!」

めっちゃ嬉しかった!でもやっぱり、握手くらいしたかった…でも、同じ業界にいる限り、きっとまた会えるはずだと思っていた。

そして昨日、彼の訃報を聞いた。やはり病は彼の身体をむしばんでいたのだろう。スタジオでの個別の録音も、他の人に迷惑をかけたくない、彼の思いからだったのかもしれない。

野原ひろし、そしてトニー・スターク…他にもいろいろあるが、僕にとっての藤原啓治はそれらのキャラクターの魂なのだ。彼がいてこそ、この2人のキャラクターが生きる。ロバート・ダウニーJrよりもトニースタークの声は、藤原啓治なのだ!

これから先、「モーレツ大人帝国の逆襲」を見るときも、「嵐を呼ぶアッパレ 戦国大合戦」を見るときも、そして「アイアンマン」、「アベンジャーズ」を見るときも、ずーっと彼のことを思い出すだろう。

ほんとに大好きでした。
心より、ご冥福をお祈りします。

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