3Dプリンタ出力専門の業者に行ってきたレポート@広州 -紹介編-
norippyです。
中国に来たら日本では簡単にできない「製造を依頼する予定の工場を見学する」をやりたくなりますよね笑
2022年12月16日
"3DPlink"という業務用3Dプリンタを使った部品出力を行ってくれる業者さんを訪問しました。そう、自分の設計した部品の製造を納得いく形でお願いするためです。そのために工場を見学、また今後利用させてもらうときの参考にサンプルを見せてもらい、どのようなものが製造できるのか、どれくらいのクオリティなのか調査してきました。
今回はその3Dプリンタ出力業者さんの話をします。
そもそも3Dプリント出力業者とは?
3Dプリントという製造方法を使って部品の試作や、量産を行なってくれる業者になります。金属の塊をCNCで加工して部品を作り、お客様が望むように表面処理を行って納品する”金属加工業者”と同じで、CNCの代わりに3Dプリンタを使って部品を作り、お客様が望む表面処理を行なって納品してくれます。
Webを見ると、日本ではDMM.make,JLCPCB,Elecrowといった出力サービスの業者はありますが、こういったオンラインで発注できるサービスは基本的に出力のみ。
今回訪れた業者は出力だけではなく、部品製造時のコンサルティング、製造を開始すると表面処理対応や、高い品質管理を提供してくれます。
つまり、本格的に3Dプリンタを使って部品を量産する事ができます。
3Dプリンタを使った部品を市販品に使っていいのか?
数年前までの私は "樹脂部品は金型一択。3Dプリンタなんてクオリティも低いし、強度も無いから試作で形状を見るためのもの"と思っていました。
みなさんはいかがでしょうか?試作でしか使えないと思っていませんか?
そんな考えはもう古くなっています。高強度の材料が使えるようになり、色々な種類の出力方法が低価格で利用できるようになってきました。
家庭用で出力している方法と同じ方法でもこんなにもクオリティが違うのか、こんなにも高強度で作る事ができるのか・・・と。
もちろん量産をするにあたっては金型に絶対的なスピードで勝てないため、小ロット向きにはなりますが、金型を作る事なくトータルコストを抑えて求めるクオリティの部品を作れる可能性が高いです。
事実私が『3Dプリンタで自信を持って量産していいんだ!』と思ったきっかけが、ブガッティのシロンの開発に関する以下の記事を読んだ事です。
世界限定500台、4億円以上する自動車で3Dプリンタを多用しているなら個人で開発している自動車パーツも3Dプリンタで作っても満足いくクオリティのものになるのではないか?そんな気持ちから3Dプリンタを使った部品の製造について興味を持ち、今回紹介する3Dプリント出力業者に行き着いた訳です。
3Dプリント出力業者"3DPlink"訪問
今回、広州市内にある3DPlinkという会社を訪問してきました。
地下鉄の駅を降りて地上に上がるとマンション密集地帯が・・・。広州市内の中心地から離れており、ベッドタウンのような印象の場所でした。
雨天も相まって正直道中不安になる感じの暗さ、圧迫感がありました。
実はこの地域は周遊バスがあるそうで、それを使って訪問するのがおすすめ。僕は時間があったので不安になりがら1.2キロの道を歩いて行きました。
COCO大院という社区の中に工場が入っており、担当者さんと入口で合流。いよいよ3DPlinkに訪問だとワクワクしてきました。
社区に入ると、すぐに3DPlinkが見えてきます。写真で見たあの景色が目の前に!みたいな気持ちになりました。やっときたぞ!
工場見学
3DPlink着くと早速工場見学。中を見せてもらいました。
工場は広州で唯一stratasysというアメリカのメーカーの3Dプリンタを導入しているといのが売りらしく、中に入るとstratasysのプリンターが大小含めて多くあります。種類もFDM方式だけではなく、POLYJET方式(=光造形方式)も取り扱われていました。
このように多くのマシンが設置されており、並行して同じ部品を出力する事で納期を縮め、また同じマシンを使う事で品質を担保するようにしていました。
ここまでだと出力サービスとそれほど変わらないですね。私が工場に行った理由はこういった装置を見るだけではなく、ここからどうやって品質を確保しているのかを見てみたいからです。
品質管理について
中国の工場を利用する時、今も昔もずっと気をつけている事があります。それはその工場の品質管理です。
正直中国に住んでいると”マジか!?”と思うような事が多くあります。
例えば出前を取ると中国ではお手拭きやお箸、スプーン等が密閉された袋に入った食事セットを一緒にもらうのですが、袋を開けると割り箸が入っていない事があったり、袋詰めされた爪楊枝に爪楊枝が入っていないものが入っているなど、”ただ作って、それを納品している”と感じる場面に多く出くわします。残念ながら今もこの国は品質管理に対して甘いのです。
QC PASSなんてシールを貼っていても、そのシールを貼っているだけでチェックなんてしてない会社もあるのです。だからこそ、どうやって品質を管理しているのか実際に見に行って確認する事がとても重要だと考えています。
3DPlinkはどうかというと、このおじさんができた部品のチェックをおこなっているという事でした。
基本的に全部品チェック。3Dデータと比較して変形や寸法に大きな狂い(3Dプリンタ自体のスペックを上回る誤差)があれば、納品せず作り直しをするとのこと。
また出力だけのサービスと違い、顧客は担当者と連携し、写真を見るなどQCチェックを行うこともできるので、満足のいく納品物が得られやすい体制になっている事がわかりました。
またこういった会社はエンジニアが常駐しており、手厚いサポートを受ける事ができます。
部品の見積もりをすると、出力サービスであれば自分でどの材料を使うかを自分で決めなければいけません。また壊れないように部品のチェックはしてくれても、チェックだけで、品質を保障する努力をあまりしてくれない会社もあります。(変形しても自己責任と言われたことがあります)
それに対し、この会社では
部品形状の変更提案
用途に合わせた材料や出力方法の提案
といった作る前段階で顧客の求めるものを作るサポートをしてくれるので、比較的に成果物に安心感があると考えられます。
事実私も現在発注をお願いしましたが。見積もり時にヒアリングがあり、その上で使うマテリアルや、部品の形状から今回の出力方式の提案を受けました。
また付き合い方もあると思いますが発注前にサンプル作成もしてくれるようです。
3Dプリンタ出力サービスとの違いを感じ、品質に関しても安心感はありそうだとわかりました。
では、実際にどんなものを作ってくれるのか・・・ショールームで多くのサンプルを見させていただきました。
サンプルから見る会社の能力、できる事
ショールームに行くと大小様々な部品が展示されています。
このショールーム見学ではどんな後加工ができるのか、またそのクオリティはどれほどなのかをチェックします。
最初FDMのサンプルを見させていただきました。車のスライドドアなどの大きいものもあります。3Dプリンタ、なんでも作れるんだなと改めて思いました。写真から分かるようにこのサンプルは全部同じマテリアルではなく、複数の材料が使われています。
・アイボリー : ABS
・黒 : ナイロン12
・黄土色 : ULTEM
とのこと。ABSは家庭用のプリンタでも使われますが、ナイロンやULTEMといった材料も使う事ができるのが業者という感じですね。
ちなみにナイロンやULTEMは強度や耐熱といった物性を求めるものに利用されます。ナイロンは自動車の外装や内装、ULTEMは航空宇宙や自動車のエンジン用途が多いようです。ナイロンは知っていたのですが、ULTEMという材料は初めて聞きました。調べると確かにハイスペックな材料。3Dプリンタで本当になんでも作れるようになってきているんだなと感じました。
また写真を見ると明らかに塗装されたものがありますよね。この会社は出力後の表面処理にも対応してくれます。サンドブラストによるマット仕上げ、その上から塗装もOKですし、最後に磨きもしてくれます。インサートナットやシルク印刷も可能とのことでサンプルを見せてもらいました。
サンドブラストをかけるのは積層痕の除去だけではなく、塗装の密着性UPという目的でも行うとのこと。また塗装も磨きも綺麗にできていて驚きました。何も言われなければこれがFDM方式で出力されたものだと気づかないレベルの仕上がりでした。
低コストで仕上げようと思うと樹脂の色自体を変えて、サンドブラストだけかけるというのが良さそうですね。ただナイロンやULTEMなど強度の高いものは色の変更ができません。もちろん塗装はできますが、ナイロンなんかは塗装が載りにくいので、ABSと比較すると剥がれやすいといった問題もあります。塗装は要注意ですね。
(ちなみにMJFやSLS方式で出力すると塗装対応できないと言われました)
また最後にPOLYJET方式のサンプルを見せてもらいました。
POLYJET方式はstratasys独自の方式で、UV硬化のマテリアルを使う出力方式。光造形に近いですが、透明な材料、ゴムライクな材料、もちろんこれらをフルカラーで出力する事ができるとのことでした
展示品など1点ものに使えるのがPOLYJET。量産というよりは見た目重視のモノを作りたい時に使う出力方式ですね。
私は今回初めてサンプルを見ました。作るのが難しそうなものも3Dプリンタの特性を活かして作れるので、今まで職人さんが手作業で作っていたようなものを低予算で作れてしまうんだろうなと感じました。ただUV硬化するマテリアルはどうしても長期間UVにさらされると黄変してしまう印象があります。このPOLYJETのマテリアルがどうなのか聞いてみましたが、担当者も知らないようでした。
最後に
今回初めて3Dプリンタ出力業者を訪問してみましたが、なかなか面白かったです。3Dプリンタも試作だけにとどまらず、もう量産に利用できる製造方法の一つになっているんだなと改めて感じる事ができました。
個人でも気軽に利用きますし、金型を作ってもらう覚悟も不要で低予算で製造ができるため、3Dプリンタを使った部品製造というのは少量多品種の時代にはとてもマッチしているのではないかと思います。
3DPlinkには今回の訪問時に部品を発注しました。今回は形状や用途から紹介しなかったMJF方式を利用することになりました。MJFの場合別の場所で出力されるとのこと。なんだかこの会社をあまり利用できていない感じになっていますが、今後FDM方式でサンドブラスト、インサートナットを行なってもらう計画をしています。その新プロジェクトを通して、引き続きこの3DPlinkの実力を追ってみたいと思います。
また今回は行ってみたレポートになっていますが、もう少しどうやって発注するのか、どういう知識を持っておくと製造がしやすいのか知りたい方もいらっしゃるかと思います。こういった話も別途レポートとして後日まとめたいと思っていますので、楽しみにお待ちいただければ幸いです。
今回のレポートは以上となります。ありがとうございました。