緊急帝王切開で産む!
夜に前期破水、翌朝から陣痛促進剤を投与。
夕方に決断を迫られる。
↓前回
最初で最後かもしれない出産、無痛分娩で穏やかに噛み締めながら産んでみたかった。一方で、人生経験として自然分娩でも産んでみたかった。ずっとずっと迷っていたのに。
ケアを頑張って妊娠線を作らずにここまで来たのに、お腹を切ることになるのか。お腹を切るってどういうことだろう。絶対痛い。痛さでいうと自然分娩とどっちがしんどいだろう。
自分の安全と体力も考慮した。
促進剤のせいで過剰に強くなっていた陣痛に、体力を奪われていた。眠たくて仕方がなかった。意識が飛ぶといったほうが正しかった。日付を跨ぐまでの体力が残っている自信がなかった。
それでもやっと授かったいのちを、最優先に安全に誕生させてあげるのに、選ぶべき道は1つしかなかった。ワタシが覚悟を決めるだけだった。
帝王切開に切り替えることにした。
そこからはまたものすごいスピード感だった。
リスクの説明、書類へのサイン、慌ただしく動くスタッフの方たち。陣痛に耐えていたのであまり覚えていないし、メガネを外していたのでそもそもよく見えなかった
促進剤を止めたら、陣痛の激しさが少し弱まった。その隙を見計らって、手術室へ歩いて向かう。
流れるように入院着も下着も脱ぎ、素っ裸で手術台に寝る。剃毛される。痛さと不安とで、恥ずかしいという感情なんてなかった。
背中から硬膜外麻酔を打たれる。
このときのお腹が圧迫される姿勢と、その状況でもやってくる陣痛がつらかった。
麻酔を刺すのもチクっとする痛みで不快だったけど、こんなものは一瞬で、さっきまでの促進剤での陣痛に比べたら全然余裕だった。
徐々に麻酔が効いてくる。
採卵の時とは違って、意識はちゃんとあった。保冷剤を体に当てられて、効きを確認される。触れている感覚はあるけれど、冷たさを感じなかった。
帝王切開術が開始される。
立ち会いはさすがにできず、ワタシの頭側からガラス越しに夫と、そのタイミングで駆けつけた母がこちらの様子をみていた。
いろいろな測定器につながれて自由を失った、不安そうなワタシの手を助産師さんが握ってくれた。
痛覚が麻痺しているからか、なんとなく触られてる感覚があるような、ないような。もぞもぞくすぐったいようななんとも言えない感覚。ベビーが出てくる直前の、引っ張る感じが「うっ」と気持ち悪かったくらいで、痛みは全くなかった。
視界を覆われているワタシに対して、頭上にいたスタッフの方が、たくさん声をかけてくれて、出てくる様子を詳細に教えてくれた。
「もうすぐ出てきそうだよ」
「頭が見えてきた!」「お顔こっちむいてるね」
「肩と手が出てきたよ」「もうすぐ全身だね」
「そろそろ声が聞こえるかな?」
その直後聞こえて来た、少し高めの泣き声。震えながらも、一生懸命に泣いている声。
ああよかった、ちゃんと元気に泣けたね。安心した。
けれどどこか他人事のような、ドラマを見ているときのような、不思議な感覚だった。
ひと通りキレイに拭かれた我が子。
計測や処置をする前に、ワタシの顔の横に来てくれた。まだ酸素が回りきっていないのか、ちょっと紫っぽい色をしていた。それでも、ワタシのおでこにコツンと触れたおでこと小さな手は、じんわりあたたかくて、ちゃんと生きているんだと分かった。とても愛おしかった。
きみがずっとワタシのおなかにいたんだね。
はじめまして、やっと会えたね。
そのあとはまた別の麻酔をされて、開いたお腹を閉じてもらう。意識はあったけど記憶はない。
ストレッチャーで運ばれる途中で、保育器に入った我が子を一瞬見た。赤ちゃん元気ですよ、かわいいですねと声をかけてくれた看護師さんに対して、「わあ、動いてますね。」とよく分からないことを言った気がする。
そして回復ルーム(?)に運ばれた。
オワリ