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xxなやつ

自分のイヤラシサに気づいた最初の瞬間は、小学3年くらいだったと思う。

夏休みにイトコの家へ泊まりに行った時のことだ。
寝るちょっと前に、イトコが冷蔵庫から麦茶を出した。その時、扉の閉め方が甘くて、庫内の電灯は消えているけど扉は閉まっていないことに私は気がついた。
でも、何も指摘しなかった。扉を閉めることもしなかった。扉を閉めないままにするとどうなるのか? という好奇心もあったし、イトコにいじめられがちだった私は、イトコが伯母さんに叱られるところを見たいという思いもあった。
翌日、伯母さんは、
「冷蔵庫のもん、全部ダメになっちゃったじゃない!」
と言ってイトコの頭を思っきりひっぱたいた。叩かれたところを手で覆い、ギィヤアアア!!と悶絶するイトコ。

ひひひ。なんか痛快だった。

* * *

友達のマモルと竹とんぼで遊んでいた時のこと。
棒の上の方を持つと、いざ飛ばすときに羽が親指にバチーン!と当たり、激痛が走ることを私は知っていた。そして、竹とんぼは初めてだと言うマモルは明らかに棒の上の方を持っていることに気が付いた。でも、私はやはり何も言わなかった。
マモルは張り切って、勢いをつけて飛ばした。
「バチーン!」

「い、いって~!!」

親指をおさえ、痛さで歪むマモルの表情。
私は、蟻地獄へ向かっていた蟻が見事に落ちたのを見届けたかのような達成感を感じていた。ひひひ。
「マモ、ちょっと上を持ちすぎてたんかな」などと言いながら、「マモル、効いたな? 今のは効いたろ?」という心の声が沸き上がってきて、吹き出しそうになるのを堪えるのがまー大変で大変で。

マモルは、本当は私が笑っていることに敏感に気がついたのか、私を少しにらみながら、

「…xxなやつ」

と、ぼそっと言った。けど、xxな部分が全然聞き取れなかった。尋ね返してみたけど、既に気分を害していたマモルは教えてくれなかった。

マモルは何て言ったのかなあ。このシーンを、成人しても何度も夢に見るほど気になっていた。たぶん、私のイヤラシサを的確に表現していたはずなのだ。いつかマモルに会ったら聞いてみよう、ま、聞いたところで覚えてないって言われるんだろうね。
で、ずっと放っておいたんだけど、ちょっと前にマモルが肺ガンで死んだと聞いた。ぬ、ぬぉー、まじか。聞いておけばよかった!

もう40代も後半だ。ところどころ櫛の歯が欠けていくように、知人・友人を亡くす年齢なんだね。悔いのないよう、人生でやり残すことが少なくなるよう、いろいろと準備をし始めるべき年齢なのかもなあ。

にしても、xxの正解、聞きたかった。


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