見出し画像

タスマニアを歩く1:ウォールズ・オブ・エルサレム国立公園

エルサレムの壁。そう名付けられた場所がタスマニアの奥地にある。一体どんな風景が待っているのか。2週間のタスマニアの旅の最初の目的地ウォールズ・オブ・エルサレム国立公園への1泊2日のハイキング。

デボンポート

タスマニアにフェリーで上陸後僕は車を借り、デボンポート郊外のキャラバンパークで夜を過ごした。ニュージーランド以来数ヶ月ぶりとなる車中泊だ。勘を取り戻すのにさほど時間はかからなかった。しかし、キャラバンパークに場違いの真っ白なトヨタのSUVで寝るのはなんとも奇妙な感覚だ。レンタカー会社に行った時、予約していたセダンの代わりにSUVが用意されていた。うれしいグレードアップであったが、バックパッカーという身分には不釣り合いに思われた。しかし後々この車であったことが役に立つのだが。

翌朝ゆっくりと朝の時間を過ごした。周りにはたくさんのキャンピングカーが停まっていた。それぞれが朝の時間を満喫しているようだった。僕はキャラバンパークを後にしてスーパーで買い物をし、本日の目的地であるウォールズ・オブ・エルサレム国立公園(Walls of Jerusalem National Park)へ向かった。

画像1

タスマニアには2週間滞在する予定だ。最初の1週間は車を借りて、1〜2日のハイキングをして周り、残りはオーバーランドトラックを5日かけて歩く。

タスマニアの原生林を歩くという憧れは前からあった。ハイキング三昧でその自然に惚れ込んでしまったニュージーランドで「タスマニアはニュージーランドの南島に似ている」と聞いたからには絶対に行きたいと思っていた。

タスマニアでのハイキングコースを探している時に、ウォールズ・オブ・エルサレム国立公園が目についた。僕はタスマニアの奥地に眠る「エルサレムの壁」というものがどんなものか見たくなった(残念ながら本物のエルサレムの壁は見たことがない)。

デボンポートの郊外はやはりどことなくニュージーランドに似ていた。しかし遠くに見える岩山や少し乾燥した感じの植生は、ここがオーストラリアであることを主張していた。

画像13

道は郊外を抜け森の中を通るようになった。そして舗装道路は未舗装路へと変わった。ハンドルを握る手に力が入る。土の上を走るのにセダンではなくSUVだったのはありがたかった。この国立公園への公共交通機関はない。車を借りるか、タクシーを使うかしかないのだ。僕が車を借りたのはこのためだと言ってもいい。

ウォールズ・オブ・エルサレム国立公園 DAY1

デボンポートから2時間ほどで国立公園への入り口となる駐車場へ着いた。駐車場は小さくてほぼ埋まっていたが、1台分のスペースだけは残っていた。なんとツイているのだろう。僕は最後の駐車スペースを埋め、テントや食糧などが入ったバックパックを背負い歩き始めた。すでに午後だったが、この日歩く距離はそこまで長くない。

駐車場自体は国立公園の外にある。しばらく歩くと国立公園に入ることを示す看板があった(チェックされるわけではないが、国立公園に入るパスは必要)。しばらくは森の中を緩やかな登りが続いた。自分がタスマニアの森を歩いているということがうれしくてたまらなかった。しかし同時にここはニュージーランドと違い、危険な生物もいることを思い出し身を引き締めた。

画像2

やがてトラックはあまり起伏がなくなり、小さな池を目にするようになった。しばらく歩いていると、視界に池のほとりで休む数人のハイカーを目にした。僕はその隣を「Hi!」と挨拶をして通り抜けた。

オージーの家族だろう(オージー=オーストラリア人の愛称)。両親とその子どもたち2人で男の子と女の子のきょうだいだった。とは言っても子どもは高校生か大学生くらい大きかった(もしかしたら中学生かもしれない。オージーは大人びて見える)。こんなに子どもが大きくなっても家族揃ってハイキングできるのは素敵だなと思った。

画像3

歩き始めて2時間ほどでキャンプ場(Wild Dog Creek Campsite)へ着いた。キャンプ場にはウッドデッキがいくつかあってその上にテントをたてることになっているようだ。僕は一番端にあるウッドデッキの上にテントをたてた。

まだ暗くなるまで時間もあったので、少し先まで歩いてることにした。携帯用のザックに必要なものを入れてキャンプ場を後にした。

画像4

しばらく登りが続いたあと、急に平坦なところに出て目の前にそそり立つ崖が現れた。これが「エルサレムの壁」だ。確かに、見上げると巨大な壁のように見える。この「壁」はほんの端っこに過ぎない。

画像5

僕はさらに先に進んで行く。「壁」が視界に収まりきらないくらい続いていた。僕は立ち止まって周りを見渡した。周りには誰もいなかった。風の音と、時折何かの生き物が短く鳴く声が聞こえるくらいでとても静かだった。こんな圧巻な風景の中に身を置いていることに鳥肌がたった。タスマニア奥地の「エルサレムの壁」は自然の宝庫で、ハイカーにとっては楽園のような場所だったのだ。

画像6

先へ進むとワラビーにも出くわした。彼らは少し離れたところから僕をじっと観察し、僕が少しでも近づくと森の中へ姿を隠してしまった。

画像7

やがて「ソロモンの王座(Solomons Throne)」と呼ばれる「壁」の上へ登るルートまでやってきた。登りはさらに急になったが、荷物が軽いのでそれほど苦もなく登り切れた。そして待っていたのはさらなる圧巻の風景だった。遠くへ続くタスマニアの原生林や長々と続く「壁」も見下ろすことができた。いつまでも見ていたい風景だった。

画像8

景色を堪能し「壁」から降りて、今度は「壁」の反対側の小高い山(The Temple)に登った。ここからの風景もなかなか素晴らしかった。次第に日も陰ってきたのでキャンプ場へと戻る。

画像9

夜テントで寝ていると外に生き物の気配を感じた。1匹ではなく数匹いるようだった。タスマニアには人を襲うような生き物がいるわけではないが、僕はこの得体も知れない生物に不安と恐怖を感じた。木の実でも探しているのだろうか。それとも夕食の時に僕が米粒でも落としたのだろうか(だったらまずいことをした)。しばらくすると気配は消え、風の音しか聞こえなくなった。

ウォールズ・オブ・エルサレム国立公園 DAY2

翌朝はまだ薄明かりの時間から歩き始めた。昨日歩いたルートからさらに先へ進みエルサレム山(Mt. Jerusalem)へ登るつもりだ。前日は雲が多かったが、この日は晴れていた。せっかくだから「ソロモンの王座」にもう一度登ってみることにした。日の出を拝めるほどには間に合わなかったが、朝日が照らす「壁」もまたうつくしかった。

画像10

昨日歩いたトラックからさらに先へと進むと、別のキャンプ場(Dixons Kingdam Campsite)へとたどり着いた。どうやらこのキャンプ場の方が人が多いようだった。まだ朝だったのでいくつかテントがたっていた。このキャンプ場を抜けてさらに先に進んでいく。

目指すエルサレム山の頂上はそこまで高くない。岩がゴツゴツしたゆるやかな登りが続いた。さほど時間もかからずに頂上と思われるところに着いた。やはりニュージーランドと同様、山頂を示す看板などない。遠くに「壁」や歩いてきた道が見え、反対側には原生林や無数の小さな湖が広がっていた。この大自然の中をどこまでも歩きたい気分だった(実際に数日後に歩くのだが)。

画像11

風があまりにも強かったので、長くはいれず来た道を引き返した。僕は昨日から何度となく見てきた「壁」に別れを告げ、自分のテントのあるキャンプ場へと戻った。テントを撤収し、昨日歩いた道を引き返し駐車場へと戻った。

画像12

昼過ぎには駐車場に戻ってきた。やはり車でいっぱいだった。車に戻りバックパックを下ろすと、ちょうど車が入ってきた。僕はその車にスペースを譲るべく楽園を歩いてきた余韻にひたるのもほどほどに駐車場を後にした。


(タスマニア旅行:2019年2月)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?