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エチオピア・シミエン国立公園トレッキング

エチオピア北部の4000m級の山岳地帯。息を飲む絶景と厳しい環境の中に暮らす生き物や人々の姿があった。そんなシミエン国立公園へのトレッキングの旅。

ゴンダールへ

僕はエチオピアの首都アディスアベバに数泊したのち、北部のゴンダールへと向かった。シミエン国立公園でトレッキングをするためだ。エチオピアにはそのために来たと言ってもいい。多くの人がエチオピアといえば火山の「ダナキル」や南部の「少数民族巡り」へ行くようだが、僕はあまり興味がなかった。僕はハイキングが好きだったので、自然の中を「歩きたかった」のだ。

シミエン国立公園はエチオピア北部に位置する3〜4000m級の山地だ。国立公園は世界遺産にも登録されており、様々な動植物が暮らしている。僕がこの公園の存在を知ったのはBBC系の自然ドキュメンタリーだったと思う。断崖絶壁の上から見渡すアフリカの広大な風景が印象的だった。僕はいつかここに行きたいと思っていた。

僕はシミエン国立公園を歩くためにツアーに参加した。正直ツアーというものが好きではなかったので個人で歩きたかったが、個人で歩くにしても「スカウト」という動物から身を守ってくれる護衛をつけなくてはいけない。しかも交通の便も悪く、個人で車を借りるならばかなりお金がかかってしまう(全部歩けばいいのだが、その分日数が増える)。結局僕は個人で歩く方が高いと見積もり、しかもどうせ誰かと歩かなくてはいけないなら、とツアーに参加することにした(結局ツアーに参加してよかった。個人で全て手配するととてつもない労力がいることがわかった)。

ゴンダールでたまたま話しかけて来た旅行会社の男が僕にツアーを紹介した。正直その時も個人で行こうと考えていたし、最初はその男の話を信用していなかった。しかし、話していると別に僕をだまそうという感じではなく、ツアーの頭数をそろえているようだった。しかも翌日から僕が行こうとしていた3泊4日の行程と全く同じトレッキングのツアーがあるということだったのでそれに参加することにした。

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DAY1-1:ゴンダール→デバルク

翌朝宿の前までジープが迎えに来て、それに乗り込んだ。その時はドライバー以外僕しか乗っていなかった。これから人を拾って行くという。僕はどんな人が来るか心配だった。欧米人とは聞いていたが、若いグループやカップルではないことを祈っていた(ノリが合わないので)。

旅行会社の前でしばらく待っていると、2人乗り込んで来た。どちらも1人で参加しているようで、1人はチェコ人の男性でもう1人はエチオピア人の女性だった。エチオピア人の女性は今まで見てきたエチオピア人とは全く雰囲気が違っていて、流暢な英語をしゃべっていた。元キャビンアテンダントだったようで、欧米慣れしている感じだった。僕は他にも1人で参加している人がいて安心した。

まだ参加者がいるようだが、ゴンダールではなくデバルクという国立公園の入り口の街から乗るらしい。僕らはデバルクへと向かった。道は曲がりくねっていたが、舗装されていた。

デバルクではフランス人男性が1人と、ペルー人の男性2人が乗って来た。フランス人の男性はフランス訛りの英語をしゃべっていて、なんだか親近感が湧いた。ペルー人の2人は兄弟で、2人ともヨーロッパに住んでいるという。きれいな英語をしゃべっていた。これで参加者全員が揃ったようだ。皆3〜40代といったところだろうか。落ち着いた大人の雰囲気があり、僕には合いそうだった。

デバルクの所々で食料を積み込み、ガイドとスカウト2人も乗ってきた。ガイドは公園内の村出身の若者だった。スカウトは2人ともおじいちゃんで、英語は通じなさそうだ。銃を持っていたが、おそらく使われることはないだろう。スカウトはどちらかと地元の雇用を作る目的があると、何かの記事で読んだことがある。

デバルクの街からなかなか出発せず、割とのんびりしていた。この日も歩くことになっていた。1人だったらなるべく早く移動したいと思っただろうが、今回はガイドも歩く人も一緒なので身を委ねた。

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ようやくデバルクを出発し、国立公園へと向かった。道はやがて未舗装道路へと変わっていった。国立公園内に入ってからしばらくすると、路肩に数台の車が停まっていた。どうやらヒヒの群がいるらしい。僕らも車を降りて、群を観察しにいった。

ゲラダヒヒといいうらしい。結構な数だった。どれもが夢中で草むらから何かをついばんでいた。僕らが近づいても気にせず、手を動かし口に入れていた。見ているだけでおもしろかった。一日中見ていられるな、と思った。

しかし僕らはヒヒを見るために来たわけではない。ヒヒの観察はほどほどにして出発した。僕らはこれから歩かなくてはいけないのだ。

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DAY1-2:サンカバール・キャンプ

歩き始めた時は昼を過ぎていた。車を降りた時に昼食を渡された。ビニール袋にはバナナとみかん、アルミホイルで包まれたサンドイッチが入っていた。ここから少し歩いたところで食べるという。

歩き始めた場所からすでに、景色は素晴らしかった。眼下には広大な大地が広がっていた。トラックはほぼ崖のへりを沿っていた。高い木もほとんどなかったので、歩いている間も景色を楽しむことができた。

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途中休憩を取りながら歩いていった。休憩はたいてい眺めのいい場所でとって、時間も15〜20分はあった。いつも1人でせかせかと歩いて、休憩もろくに取らない僕にはかなりのんびりとした足取りだった。思う存分景色を楽しむことができたし、これはこれで悪くない。

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先頭を歩いていたガイドがふと歩くのをやめ、木々の間を指差した。どうやらエイベックスがいるようだ。しかし、木々に隠れなかなか見つけられない。辛抱強く探すと、遠くに1匹のエイベックスがいるのが見えた。ガイドもよく見つけたものだ。

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キャンプに着く直前にも別のエイベックスに遭遇した。今回は割と近かったが、僕らが息を潜めていたおかげで気づいていないようだった。僕らは彼を驚かせないようにゆっくりと先へ進んだ。

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キャンプに着いたのは夕方だった。すでにたくさんの人がいた。他のツアーグループや彼らのガイドやコックなどだろう。僕らが着いた時にはテーブルに紅茶やお菓子が用意されていて、それぞれ1人ずつが寝るテントもすでに建てられていた。至れり尽くせりのサービスに戸惑いも感じつつも、「これもいい経験ではないか」と自分を納得させた。歩き終えた後にテントも建てず、夕食の準備をしなくていいというのはとても楽だった。

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日が暮れて夕食に案内された。なんとビールも用意されていた。ぬるいビールではあったが、一日の疲れを癒すには十分だった。料理も食べきれないくらいたくさん出てきた。本当に至れり尽くせりだった(それだけのお金は払ったということだろう。ちなみにビールは別料金)。

電気はなかったので、外は真っ暗だった。そして星がきれいだった。星を眺めてていたかったが、次の日のことを考え早めに寝ることにした。

DAY2:ギーチェ・キャンプ

明るくなって目がさめると、まだ日は昇っていなかった。朝食の時間まであたりを散歩した。日が昇り始め、刻々と渓谷が朝日に照らされていく景色はうつくしかった。

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朝食を食べ終え、僕らは歩き出した。出発の時に昼食も渡された。この日も所々で長い休憩を取りつつ、歩いていった。基本的に皆黙々と歩いていた。それぞれが歩くことに集中したり風景を楽しんだりしているようだった。

僕は休憩中花を探した。何か珍しい花はないか、と。種類は多くなかったが、独特の形をした花もあった。花には疎いのでそれが日本にもある花かどうかはわからないが、見たことないような花だった。

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時折歩いているとこの辺りに住んでいる村の子どもがやってきて、お土産を売ってきた。申し訳ないが、あまり魅力的なものではなかったので断った。彼らはすぐに引き下がった。大人のようにしつこく売ろうとはしてこない。あきめて去っていく彼らは、遠くから僕らを珍しいものでも見るように眺めていた。

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午後になって開けたところを歩くようになった。一面が黄色く枯れた草で覆われ、黄色に染まっていた。所々いかにもアフリカらしいトゲトゲした植物も生えていた。木ほども大きいが、実はこれらは「ジャイアントロベリア」という「草」だという。

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この日のキャンプ地は眺めの良いところにあった。まだ午後の早い時間に着いたので、僕は周辺を散歩することにした。さっき歩いた道を1人で歩いてみた。遠くに目をやるとはるか彼方まで見渡せる。風の音しか聞こえなかった。「自分は今アフリカの大地を歩いている」と思うと、とても感慨深かった。

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夕方皆で夕日を見に行った。ビューポイントまで歩いていくと、他にもたくさんの人がいた。ここで夕日を見るのはキャンプに泊まった時のお決まりのイベントのようだ。沈んでいく太陽が空や渓谷をきれいに染め上げていた。遠くアフリカの大地に沈む夕日は息を飲むほどうつくしかった。

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夕日を見終わり、暗くなり始めた中をキャンプまで戻った。夕焼けのグラデーションをバックにジャイアントロベリアのシルエットが映えていた。まるで絵画のような光景だった。

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夕食の後皆はすぐにテントに戻ったが、僕は少し離れたところへ行った。星を眺めたかったのだ。満点の星空が広がっていた。僕はしばらくぼけっと星を眺めたり、カメラで星空を撮ったりした。ずっと星を見ていたかったが、体が冷え始めたので僕はテントへと戻った。

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DAY3:チェネク・キャンプ

朝食を食べて出発した。この日はこのトレッキングのハイライトでもある「イメットゴーゴー」というビューポイントへ行く。

途中ジャイアントロベリアがたくさん生えてる場所を通った。といっても密集してるわけでなく、間隔を開けて生えていた。巨大な草が一面に生えている景色はなんだか異星のようだった。ヒヒの群を見ることもあった。相変わらず僕らには気を払わず、黙々と食べ続けていた。

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やがて切り立った崖の上から眼下を望める場所へ来た。イメットゴーゴーが近いらしい。また戻ってくる場所のようで、荷物を置いてイメットゴーゴーへと向かった。スカウトたちが荷物を見てくれていた。

イメットゴーゴーは崖の先端のどん詰まりのような場所だった。眼下には他の崖や奇怪な形をした地形が広がっていた。僕は自然が長い年月をかけて作り上げた景色に圧倒されていた。

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十分に景色を堪能した後、引き返し先へと向かう。今日はまだ歩かなくてはいけない。しばらく歩くと分岐点へ来た。どうやらチェコ人とフランス人の2人はここで山を降りるという。彼らはもともと2泊3日のツアーで申し込んだのだ。彼らと彼らについていくスカウトに別れを告げ、残りの僕らは先へ進んだ。

上り坂が続いた。日差しも強かったので、結構しんどかった。僕らは黙々とゆっくりと山を登っていった。

再び別のビューポイントへと来た。崖の端から真下を覗き込めるような場所だった。どうやら今日はこれ以上登ることはないという。僕らは一種の達成感のようなものを感じ、ハイタッチをし合った。

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僕らが休んでいる元へ、子どもがやって来た。コーラを売っていた。僕はそもそもコーラが好きではなかったので断った。その場にいた他のグループの人が買おうとしていた。しかしその子が提示した値段があまりにも高いらしく、驚きを隠せない様子だった。現地ガイドが間に入って交渉していた。子供の顔は笑顔一つない真剣な顔だった。

キャンプへ向かう途中崖を降りるエイベックスの群を見た。そういえば昔これと同じ光景を映像で見たことがあった。自分たちを襲おうとする敵から逃れるため、わざわざ切ったった崖を移動するらしい。このエイベックスたちは逃げているようではなかったが、過酷な環境で生きるその姿に胸を打たれた。

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この日のキャンプは山の麓にあった。この日の夜はキャンプの人たちが集まって焚き火を囲んでいた。多くがガイドやコックなど現地の人たちで、彼らが歌やダンスを披露してくれて盛り上がっていた。僕は疲れていたので、途中抜け出してテントへと戻った。

DAY4:ゴンダールへ

朝目を冷まして気持ちが悪かった。そして嘔吐してしまった。朝食も食べることができなかった。不調を感じながら歩き始めたが、やはりきつかったので僕はガイドにキャンプで待つことを伝えた。

この日は近くの山の山頂へ行って再びキャンプに戻ってくる行程だったので僕はキャンプで彼らの帰りを待っていた。別にどこかが痛いという訳ではなかったけど、体がだるかった。僕は日に当たって体を温め、じっとしていた。

前日に食べた物に当たった可能性もあるが、おそらく高山病だろう。シミエン国立公園は3〜4000mの高地だ。高山病の薬は飲んでいたし、ヒマラヤを10日間歩いた時さえも高山病にはかからなかったから大丈夫だろうと思っていた。しかし、ここで、しかもツアーでかかってしまうのは少なからずショックだった。長い旅で体力が落ちたのかもしれない。自分の体力を過信しすぎていたようだ。ただありがたいことにここからは車で戻るだけなので安心だった。この日ここで高山病にかかったのはある意味ラッキーだったかもしれない。

残りのメンバーが戻って来ても僕の体調は悪かった。一緒に昼ごはんを食べたが半分も食べることができなかった。近くのビューポイントまで行くのが精一杯だった。

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昼食を食べ終わるとガイドが帰りの車を探していた。ドライバーと交渉しているようだった。なんだかもめているようだった。「なんだよ、事前に手配してないのか」と呆れたが、現地人でも苦戦している交渉をもし個人でしていたらかなりのお金を払わされたに違いない。しかも、こんな風に高山病にかかっていたら…。やはりツアーで来たのは正解だったようだ。

帰りはただ車に揺られ、ゴンダールに着くのはまだかと待ち遠しく思っていた。デバルクでの休憩でも体調は良くなかったが、ゴンダールに着いた時は気分が良くなっていた。やはり高山病だったということだろう。


3泊4日のシミエン国立公園トレッキングが終わった。ツアーというものに抵抗があったが、これはこれでよかったと思う。ただ僕が好きな「1人でのびのびと歩くトレッキング」とは違うものだったので達成感はあまりなかった。できれば1人で歩きたかったが、ここではそれができないのでしかたない(高山病にかかった身で言うのもあれだが…)。

とは言え、景色はすばらしかった。遠くまで広がるアフリカの大地、厳しい環境で暮らす生き物や人々、アフリカの大地に沈む真っ赤な夕日、満点の星空…。ここでしか見ることのできない風景だったと思う。ひとまずはこのトレッキングに満足して、僕はアディスアベバへと戻った。

(エチオピア旅行:2020年1月中旬)


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