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AFURI商標の争いは続く~不正使用取消審判とは~

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 平成23年より桑名市で特許事務所を開業しております。
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 弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
 今回は、「AFURI商標の争いは続く~不正使用取消審判とは~」をお伝えします。

1.J-PlatPatにて

 以前のnoteに、「AFURI商標 最高裁判決について思うこと」との記事を投稿しました。

https://note.com/norio_sakaoka/n/nf4a2597316f8

 この記事では、株式会社AFURIが、吉川醸造株式会社が所有する商標「雨降(登録第6409633号)」に対して請求した無効審判(無効2022-890068)について、請求は成り立たない旨(吉川醸造の勝ち)の審決が確定したことを書きました。

 このとき、特許等のデータベースであるJ-PlatPatを見ていて、吉川醸造の商標「雨降」に新たな審判請求がなされていることを発見しました。

 新たな審判とは、取消審判(取消2024-300477)です。

2.何を理由とする取消審判なのか

 2024年12月の時点では、まだ取消審判であることと審判番号しか分かりません。
 しかし、これまでのいきさつからして、不正使用取消審判の可能性が高いと考えております。

 なぜ不正使用取消審判なのかを説明するために、商標法で定められている取消審判の種類を以下に説明します。

(1)登録商標の不使用による取消審判 商標法第50条
 これは、継続して3年以上、日本国内において登録商標を使用しなかったときに請求され得る審判です。

(2)登録商標の不正使用による取消審判 商標法第51条,第53条
 これは、商品の品質の誤認または他人の業務に係る商品との混同を生じさせるという商標の濫用行為をした場合に請求され得る審判です。
 第51条は商標権者の使用について規定してあり、第53条は専用使用権者又は通常使用権者の使用について規定してあります。

(3)類似商標の移転に伴う混同防止の取消審判 商標法第52条の2
 これは、商標権が移転された結果、互いに抵触する商標権が異なった商標権者に属することとなった場合において、一方の商標権者が不正競争の目的で他の商標権者の業務に係る商品(役務)と混同を生ずるものをしたときに請求できる審判です。

(4)代理人等よる商標の不当登録に対する取消審判 商標法第53条の2
 これは、海外の商標を、国内の代理人(代理店)等が勝手に出願して登録してしまったときに請求できる審判です。

 これらの(1)~(4)を見てみると、(2)の登録商標の不正使用による取消審判 商標法第51条に該当する可能性が高いというか、他には考えにくいです。

3.経緯

 過去の記事にも書きましたが、これまでのいきさつをおさらいしてみましょう。

(1)AFURI社の登録商標
 先に、AFURI社の商標を記載します。
 AFURI社が所有する登録商標は、他にもありますが商標登録第6245408号¹の「AFURI」です。
 指定商品には「合成清酒」等が含まれます。

登録第6245408

(2)吉川醸造の登録商標
 吉川醸造が所有する登録商標は、商標登録第6409633号²です。
 「雨降」と書かれており、指定商品は「日本酒」等です。
 ちなみに、出願日は上記のAFURI社より後です。

登録第6409633

(3)吉川醸造が実際に使用した商標
 上記の登録商標に対して、吉川醸造が使用した商標がこちらです。
 「雨降」の右下に「AFURI」と記載されています。

吉川醸造株式会社のHPより引用

 これらを見て、皆さまはどう思われたでしょうか。
 私見ですが、吉川醸造の「AFURI」を含む商標の使用は、条文上は第51条に規定する「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたとき」に該当する可能性がありそうです。

4.過去の判例はどうなっている?

  それでは、不正使用取消審判についての過去の判例を見てみましょう。
 不正使用取消審判で取り消された例として、下記のものがあります。
 これらは、審決を不服として高等裁判所に提訴した結果となります。

(1)「トラピスチヌの丘商標事件」 平7(行ケ)17号³
 これは、「昭和製菓株式会社」が有する「トラピスチヌの丘(第1272868号⁴)」という登録商標を、「トラピスチヌ」の文字を大きくして「の丘」の文字を小さくして使用していたものです。
 さらに、修道院の図形を組み合わせていました。
 「昭和製菓株式会社」の登録商標が以下の「トラピスチヌの丘」(登録第1272868号⁴)です。

登録第1272868

 ここで、「昭和製菓株式会社」が使用していた商標が以下のものです。

使用していた商標

 一方、別の商標権者である「天使の聖母トラピスチヌ修道院」が有する登録商標として、登録1155483号⁵、第1392002号⁶等がありました。

 

登録1155483


第1392002


 審決と判決では、昭和製菓株式会社が使用する商標は登録商標ではなく、登録商標に類似する商標であるとされました。
 これは、「トラピスチヌの丘」の「の丘」を小さく表示していたためです。

 さらに、昭和製菓株式会社が使用する商標は、天使の聖母トラピスチヌ修道院が使用する商標と故意に混同を生じさせたとして、取消となりました。
 確かに、修道院の絵なんかそっくりで、需要者が間違えそうですね。

(2)「金盃菊正宗商標事件」 平15(行ケ)76号⁹
 これは、お酒についての商標「金盃菊」の商標権者が「金盃菊正宗」という商標を使用して、有名な「菊正宗」と誤認混同を起こしたとして取り消された事例です。

 これは、自らの登録商標に何かを足したりすると、他人の商標と誤認混同を生じて取り消されてしまうという例ですね。

 上記の(1)(2)は取消された例ですが、もちろん、取消を免れた判例もあります。
 取消を免れた理由の一つとして、混同を起こされた側が周知でなかったというものがあります。

 不正使用取消審判は、商標権者(吉川醸造)が故意であることと、他人(AFURI社)の商標が周知である必要があると考えられることから、ハードルが高くなりそうなのですが、それでもこの取消審判の結果がどうなるのか、今後も注目していきたいですね。
※参考文献 新・注解 商標法 下巻 三山峻司 小野昌延 p1514~1520

 以前のnoteにも書きましたが、争いを防止するには、商標を正しく使用することが必要になってきます。
 このあたりのさじ加減は、知的財産の専門家である弁理士にご相談下さい。

 この記事が御社のご発展に寄与することを願っております。

参考文献:新・注解 商標法 下巻 三山峻司 小野昌延 p1514~1520.

引用
¹AFURI株式会社.AFURI.商標登録第6245408号.
²吉川醸造株式会社.雨降.商標登録第6409633号.
³審決取消請求事件.平7(行ケ)17号.
⁴昭和製菓株式会社.トラピスチヌの丘.商標登録第1272868号.
⁵天使の聖母トラピスチヌ修道院.トラピスチヌ.商標登録第1155483号.
⁶天使の聖母トラピスチヌ修道院.トラピスチヌ修道院.商標登録第1392002号.
⁷審決取消請求事件.平成 15年 (行ケ) 76号.

坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)


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