小規模農家でも使える生産性向上ツール
【経営者のための知的財産情報】
弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
今回は、「小規模農家でも使える生産性向上ツール」をお伝えします。
※出願等のお問い合わせはこちらから http://www.sakaoka.jp/contact
1.農業用ロボットの課題
先週のnote記事では、農業用ロボットの特許について書きました。
https://note.com/norio_sakaoka/n/nbcb921e9bde1
このような農業用ロボットは確かに良いのですが、大規模農家やきちんとした通路が用意されている野菜工場などでないと、導入が難しいと思われます。
しかし、日本の殆どの農家が、家族経営くらいの小規模農家だと思われます。
果樹が斜面に植えてあるような、足下が悪い圃場もあるでしょう。
2.小規模農家における生産性向上
そのような農家ではどうすれば良いのでしょうか。
私なりの回答は、ロボットのような大掛かりなものは置いておいて、道具や治具などを工夫することで日々の作業の改善をして、結果として生産性の向上を図ることが良いのではと考えております。
つまり、自分たちにできることから始めるということです。
そこで、今回は、特許を取得している「小規模農家でも使える生産性向上ツール」の紹介をしていきます。
始めにお断りしておきますが、私は農業未経験です。
このため、以下に紹介する生産性向上ツールが、実際には使いにくいことがあるかもしれません。この点、ご承知おきください。
3.特許分類の特定
例によって、先ずは特許分類を特定します。
今回は、以下の特許分類を見てみました。
A01D46/00@A トマト,キユウリの摘み取り
A01D46/24 ・りんごまたは類似の果実の摘取装置
A01D46/24@C 切断器具を手に把持又は手,指に装着して用いるもの
A01D46/247 ・・手で操作する果実の摘取具
4.生産性向上ツールの特許文献
上記の特許分類の中から、面白そうな文献をいくつか抽出してみました。
(1)特許第3851805号 須藤 彰¹
【発明の名称】指装着式切断器
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-3851805/15/ja
この発明は、略V字状に開く刃物を指に装着して、片手でインゲン14を持ちつつ花柄15を切断できるものです。
本文献の明細書段落0012によりますと、「従来のように重いハサミを片手に持ち、他方の手で収穫していく方法に比べて、作業性に優れ、長時間作業しても疲労が少ない。本発明の指装着式切断器1を用いて収穫したところ1時間で約1000本のインゲン14を収穫でき、従来の3倍以上も作業性が向上した。」とあります。
なかなか素晴らしい効果ですね。
(2)特許第4465707号 株式会社坂源²
【発明の名称】鋏
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-4465707/15/ja
この発明は、上記の発明同様に略V字状に開く刃物ですが、親指に係止できる親指挿入用リング5を備えております。
この親指挿入リング5は、ハサミを閉じた状態で保持する役目もあります。
これにより、「刃部が露出せずに閉塞状態を維持でき安全であり、かつ、手から脱落することを防止するため作業性を向上できる。(明細書段落0006)」とあります。
また、「親指に鋏を係止した状態で親指及び親指以外の指を自由に動かすことができるため摘花等以外の別の作業も行うことができる。(明細書段落0009)」とあります。
確かに、切断作業と切断以外の作業をするときに、いちいちハサミを腰袋に戻し取り出すのは余分な動作です。
それをしないで済むなら生産性が向上しますね。
(3)特許第5984647号 宮沢 康孝³
【発明の名称】バスケット用フック具
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-5984647/15/ja
この発明は、バスケットBの把手部を木の枝に吊り下げるフック具1です。
枝に引っ掛ける上フック部2と、一方の把手部Hpを引っ掛ける第1下フック部3と、他方の把手部Hqを引っ掛ける第2下フック部4を備えます。
これにより、収穫のときにバスケットを枝に引っ掛けておくことができます。さらに、2つの把手部を簡単に開くことができるとともに、フック具1そのものを容易にバスケットBから着脱することができます。
(4)特許第7111649号 本田技研工業株式会社
【発明の名称】果菜分離方法及びその分離手段
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7111649/15/ja
この発明は、トマト100等を収穫するとき、果梗102の一部位(離層104)を圧潰用凸部54と、圧潰用凹部56とで挟んで押圧して切断するものです。
明細書を読むと、果菜の収穫では作業者が果菜を把持しながら揺動させ、離層を破壊して果梗を折り取るとあります(明細書段落0002)。
この果菜を揺動させる作業は、作業者にとって負担であるとも書かれています(明細書段落0003)。
一方、切断用の工具を用いると、ヘタが切断される懸念があり、ヘタが切断されたトマトは商品価値が大きく損なわれるとあります(明細書段落0006)。
これらのことから、切断せずに収穫できる工具と方法を開発したようです。
5.まとめ
いかがでしょうか。
このような道具であれば、小規模農家であっても導入の可能性があり、生産性の向上が見込めそうですね。
私がこれらの文献を見て思ったことは、一部に個人名で出願して特許を取得しているものがあることです。
実際にその製品を製造して販売するかどうかは別にして、法人でなくとも色々と工夫されているのだなと思いました。
これまで特許等には縁がなかった個人事業主や中小企業においても、細かな工夫で生産性の向上を検討されてはいかがでしょうか。
この記事が御社の発展に寄与することを願っております。
引用
¹須藤 彰.指装着式切断器.特許第3851805号.
²株式会社坂源.鋏.特許第4465707号.
³宮沢 康孝.バスケット用フック具.特許第5984647号.
⁴本田技研工業株式会社.果菜分離方法及びその分離手段.特許第7111649号.
坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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