特許は長く維持するべきか?
弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
今回は、特許は長く維持するべきか?という話をします。
特許出願は、出願時、審査請求時、中間対応時、特許査定時と、イベント毎に費用が発生しますが、登録された後になってからもコストが発生します。
それは、年金と呼ばれる毎年の登録料の納付です。
特許の存続期間は、出願日から20年と決められています(一部、例外的に25年があります)。
このため、登録された後になってからも、特許を維持するためには毎年の年金(登録料)を納付しなければなりません。
この年金は、特許査定となったときに第1年~第3年分を一括して納付します。
ですので、最初の3年間は意識することが殆どありません。
ちなみに、この年金の第何年というのは、特許査定になって登録されてからの年数です。
存続期間のように、出願日から計算するものではないことにご注意ください。
そして、第4年目以降は、年金を納付しなければその特許権は抹消されてしまいます。
しかも、年数が経つ毎に年金が段々と値上がりしていくのです。
令和2年9月現在の年金額は以下のとおりです。
・第1年から第3年まで 毎年
2,100円+(請求項の数×200円)
・第4年から第6年まで 毎年
6,400円+(請求項の数×500円)
・第7年から第9年まで 毎年
19,300円+(請求項の数×1,500円)
・第10年から第25年まで 毎年
55,400円+(請求項の数×4,300円)
これに、特許事務所の手数料が約1万円必要になってきます。
どうでしょう?
第9年目までは比較的安価です。
しかも、平成31年4月以降に審査請求された案件については、減免申請をすることで中小企業であれば年金額が1/2に減免され、小規模企業であれば1/3に減免されます。
ところが、第10年目以降だと、上記の減免もなくなり、請求項数にもよりますが年間10万円近い出費になります。
これは、特許権を長期間維持するということは、それなりに事業がうまくいって利益が出ているのでしょ?だったら、それに応じてお金を国に納めてくださいね。
逆に事業としてうまくいっていないのであれば、さっさと特許権を抹消して万人のための技術として開放しましょう、という意図だと思います。
ここで、その特許でかなりの利益が出ている場合は、有無を言わせず権利を維持するでしょう。
一方、その特許に係る事業をしていないような場合、特別な理由がない限りは、年金を納付せずに権利を抹消させるでしょう。
悩ましいのは、特許に係る事業を継続していて、中途半端に利益が出ているような場合です。
毎年10万円となると、もう止めようかと思う経営者もいると思います。
ここで、坂岡の個人的な意見を言わせてもらえば、その特許に係る事業を継続しているなら、年金も継続して納付して特許を維持する方が良いと考えます。
何故なら、その特許を維持することが、他社の参入障壁となっていることがあるからです。
これは知り合いの弁理士から聞いた話です。
その弁理士のお客さんが、10年目以降の特許年金が高いから納付を止めると言われました。
すると、特許権が抹消されてから、同業他社から類似品が出回ってしまい、自社の製品が売れなくなったというのです。
そのお客さんが、弁理士のところに行って何とかしてくれと言われたらしいのですが、どうしようもできません。
特許というのは、自分の知らないところで効果を発揮していることが結構あるのです。
余談ですが、年金納付の期限について、特許庁から何も知らせはありません。
特許事務所で年金納付をされている場合、サービスで次回の納付期日のお知らせをします。
(あくまでサービスです。大抵の特許事務所では、年金管理まで請負うと別途管理料金をいただく必要がありますし、万一のときの責任が大きすぎて手に負えません。)
しかし、自社で年金管理をされている場合、知財部があるような企業は別にして、納付を忘れて権利が抹消していたなんてことが結構あります。
納付期限を過ぎても6月間は納付の機会がありますが、その場合、倍額納付になってしまいます。
もっというと、上記の6月間を過ぎても納付の機会はあるのですが、この場合、大規模災害に被災したようなやむを得ない理由に限られます。
従って、期限を徒過しても納付の機会があるのは、実質的に6ヶ月だけです。
いかがでしたでしょうか。
年金納付のご参考になれば幸いです。
坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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