立体商標はたいへん
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弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
今回は、「立体商標はたいへん」をお伝えします。
1.立体商標はたいへん
前回の記事、「シン・ゴジラの立体商標」で、立体商標の登録されにくさというか、大変さをお伝えしました。
https://note.com/norio_sakaoka/n/n188139cc2422
何故大変かと申しますと、その立体商標が指定商品との関係で、その商品の形状を表わしているに過ぎないときは、全国的に著名となって特別顕著性を備えないと登録されないからです。
ということで、今回は、過去の判例等をみながら、どれだけ立体商標が大変なのかをお伝えしていきます。
2.ヤクルトの立体商標
(1)ヤクルト容器は、現在は指定商品を「乳酸菌飲料」とした立体商標として登録されています。
登録番号は、第5384525号となります。
(2)しかし、これ以前のヤクルト容器の出願では、知財高裁まで争ったけれど、拒絶になったことがあります。
平成12年(行ケ)第474号 審決取消請求事件です。
この判決を極簡単に説明しますと、以下の2つになります。
・「「乳酸菌飲料」の一般的な収納容器・・・予想し得ない特徴が本願商標にあるものと認めることはできない」
つまり、容器として普通に採用される形状であるとのことです。
・「「ヤクルト」の容器が、その形状だけで識別力を獲得していたと認めるのは困難である」
つまり、特別顕著性がなく著名とは言えないということです。
厳しいですね~。
私ならすぐにヤクルトと言ってしまいそうです 笑
これには背景がありまして、ヤクルトは昭和40年頃に当該容器を意匠登録出願して登録になりました。
このため、十数年間は、他社が同様の容器を使用することはできませんでした。
しかし、その後、他社からも同様の形状の容器に乳酸菌飲料を入れた商品が出され、その点も考慮されたようです。
(3)とはいっても、ヤクルト容器について「ヤクルト」の文字が入った立体商標は、以前から登録されていました。
商標登録第4182141号です。
つまり、立体商標であっても文字を入れると、通常の商標同様に登録され得るということです。
3.他の立体商標の登録例
それでは、他の立体商標もみていきましょう。
先に、登録された例からみていきます。
(1)コカ・コーラの瓶
これも知財高裁まで争って、登録になりました。
商標登録第5225619号¹です。
この瓶も、私ならすぐにコカ・コーラの瓶でしょ、と言ってしまいそうです。。。
余談ですが、私が若い頃は、コカ・コーラで一番美味しいのは昔ながらの180ml入りの瓶と言われていました。。。
理由は、炭酸の圧力を高めることができるかららしいです。
あと、これは錯覚やデマと思うのですが、1000ml瓶とか500ml瓶は味が薄いとか言われていました。。。
子どもの頃、近所の高校に行って「落ちている」空き瓶を拾って、コーラと交換したことがあるのはよい思い出です。
当時、瓶はお店に持っていくと1本10円で引き取ってくれまして、瓶コーラが中身50円でしたので、5本集めればコーラが飲めました 笑
この中身50円とは、瓶が10円ですので持ち帰ると60円、その場で飲むと50円という意味です。
ただ、汚い瓶は引き取ってくれませんので、数回やってやらなくなりました。。。
(2)スーパーカブの立体商標
皆さんご存じのスーパーカブも、立体商標として登録されています。
商標登録第5674666号²です。
これは、一旦、拒絶査定がなされますが、拒絶査定不服審判で覆りました。
審判番号は、不服2013-9036³です。
ここでも、車体の形状は「本願の指定商品との関係において、単に商品の形状を普通に用いられる方法で表したにすぎない」と判断されました。
しかし、著名性(特別顕著性)が認められて、登録となりました。
ところで、上記で審判とか知財高裁と書いていますが、その順番をお伝えしておきますね。
商標登録出願して、ダメなときは拒絶査定がなされます。これが「審査」です。
審査に不服があるときは、拒絶査定不服「審判」を請求します。
それでもダメで、納得できないときは知財高裁に、審決取消「訴訟」を提起します。
それでもダメなときは、最高裁に上告もできます。
つまり、「審査」→「審判」→「高裁」→「最高裁」という順番になります。
念のため、地方裁判所への提訴はありません。
これは、簡単に申しますと、審判において地方裁判所レベルの判断をするからです。
4.他の立体商標の拒絶例
さて、登録された例を見ていきましたが、拒絶された例もあります。
これをみていきましょう。
(1)サントリーの角瓶
これは、高等裁判所まで争いましたが、拒絶査定が確定したものです。
平成14年(行ケ)第581号 審決取消請求事件⁴
いわゆるサントリーの角瓶について、立体商標での権利を求めたものです。
この裁判では、坂岡なりの言葉で表現すると、瓶に亀甲模様等が施されていても、瓶としての形状の範囲を出ないとされております。
また、特別顕著性についても、「本願商標の形状自体が,直ちに自他商品識別機能を有するということはできない」として否定されています。
(2)ゴルフ場の鉛筆
ゴルフをされた人ならお分かりと思いますが、スコアを付けるのに独特の形状をした鉛筆が用いられます。
その鉛筆の立体商標についてです。
平成11年(行ケ)第406号 審決取消請求事件⁵
ここでも、商品の形状について「筆記用具の用途、機能から予測し難いような特異な形態や特別な印象を与える装飾的形状等を備えているものとは認められず」と判断されています。
また、特別顕著性についても、「本願商標の立体的形状のみが独立して自他商品の識別力を有しているものということはできない」として否定されています。
5.拒絶された立体商標は真似してもよいのか?
実は、上記4(1)(2)ともに、別の出願で文字を入れたものが、立体商標として登録されています。
じゃあ、「文字を入れない形状について真似してもよいのか。」と思ったあなた、ダメですよ。
仮に商標的には問題なくても、高い確率で、不正競争防止法によって権利行使されるからです。
それに、権利行使するときは、裁判で認められるかどうかは別にして、商標法でも間違いなく攻めてきます。
すると、裁判費用で何百万円もかかりますし、負ける可能性が高いです。
さらに、負けた後も、損害賠償やら商品の回収やらで大赤字になります。
人のものをパクるとか、人のブランドにただ乗りするとかの行為をすると、後で痛い目に遭います。
正々堂々と勝負するのがよいですね。
但し、他人のコンセプトだけを、知的財産権を侵害せずに、かつ誤認混同が起こらないように模倣するのはアリだと考えます。
この記事が御社のご発展に寄与することを願っております。
参考文献:新・注解 商標法【上巻】 株式会社青林書院 小野昌延 三山竣司 p213-p217
引用
¹ザ・コカ-コーラ・カンパニー.立体商標.商標登録第5225619号.
²本田技研工業株式会社.立体商標.商標登録第5674666号.
³査定不服審判.最終処分日2014年5月12日.不服2013ー009036.
⁴審決取消請求事件.平成14年(行ケ)第581号.
⁵審決取消請求事件.平成11年(行ケ)第406号
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