脳は平気で嘘をつく 「嘘」と「誤解」の心理学入門 (植木 理恵)
(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)
タイトルから判断して久しぶりの「脳」に関する本だと思って手にとったのですが、期待していた内容とはちょっと違っていました。
いろいろなシーンにおける円滑なコミュニケーションのためのTipsが認知心理学的側面から紹介されているのですが、内容はかなり物足りないですね。
概念の説明も淡白ですし、その根拠についても「実験からそういえます」とあるだけで、実験方法・内容についての十分な紹介もありません。
また、著者の得意な心理学的知見からの提言についても、その具体性に関していえば非常にプアです。
たとえば、著者は、ひたすら一方的に意見を出し合う「ブレーンストーミング」について、コミュニケーションを重視する日本にはあまり向かないと主張しているのですが、それに続くコメントはこんな感じです。
そうかもしれませんが、その何がしかの「集団的思考法」とやらのヒントなりとも示さないと、単なる素人のつぶやきレベルに止まってしまいます。
とはいえ、そういった中で、ちょっと参考になったところを2・3、書き留めておきます。
まずは、「第一印象に左右されやすい性向」とそれを是正するためのヒントについてです。
確かに、一度形作られた「第一印象」を変更するのには抵抗がありますね。何かの機会に、よほど強烈な新発見がなければ簡単には変わりません。
日頃から「意識的」に普段と異なる視座から物事を見る癖をつけることが大事なようです。
もうひとつ、自分が起こしたことから学んでいく「教訓帰納(問題解決後に、この問題をやってみたことによって何がわかったのかという教訓を学習者自身が抽出すること)」について紹介しているくだりから。
ここでいう「メタ認知能力」とは「自分の思考や行動を客観的に把握し、なおかつ全体を俯瞰的に捉える能力」のことですが、主観的な視点に偏ると、つい「悪いこと」「失敗したこと」のみを教訓のインプットにしてしまいがちだという指摘です。
この傾向は、確かに心当たりがあります。私自身も大いに自省すべき点だと思いました。