TheBazaarExpress112、『ペテン師と天才~佐村河内事件の全貌』、第3章、2013年の軋轢、その2、大人は嘘つきだ

・新垣さんは来ますか?

大久保母から佐村河内に久しぶりにメールが打たれたのは、9月6日のことだった。

「第67回全日本学生音楽コンクールヴァイオリン小学生の部が9/7(土)8(日)とあります。まんまんは7日に出ます。課題曲はパルティータです」

この頃佐村河内は、新垣との「活動区切り騒動」は口止め料を強引に渡したことで一応一件落着し、「鎮魂のソナタ」のCD発売作業は進み、「交響曲第一番HIROSHIMA」の全国コンサートも順次続いていた。

この間メールが途絶えていたとはいえ、佐村河内はまだみっくんとまんまんの師であることは変わりない。母はコンクールの前日に、そのことを知らせた。

佐村河内からはすぐに返事が来た。

「まんまん、あしたじゃん!?会場はどこ?まんまんは何時ごろ出番なの?」

この後何通かメールのやりとりがあり、大久保母からは会場や出番の時間が伝えられた。佐村河内はこう書いてきた。

「まんまん、かわいいなぁ。うれしい。あすのまんまんのピアノ伴奏は新垣くん?ですか?ほっさがおさまったらいきたいですが」

母が返す。

「明日はバッハの無伴奏パルティータなので一人で舞台に立ちます」

「そうか、パルティータでした。いずれにしても、新垣くんはほかの子の伴奏できているのでしょうね」

「いやぁ、今回のコンクールは課題曲なので、みんなバッハの無伴奏パルティータです」

この時、佐村河内のメールに新垣の名前があっても不思議ではなかった。すでに前年12月のコンクールの時に、みっくんは、『ソナチネ』の伴奏を新垣に頼んでいる。コンクール終了後にはみっくんと大久保一家、そして佐村河内と新垣は一緒に記念写真にも収まっていた。佐村河内はみっくんの伴奏者として、新垣を認知しているということになっていたのだ。

このメールのやりとりがあったのが22時15分のこと。直後の22時21分、佐村河内は一転して新垣に、こうメールを打っている。

「明日新垣さんは『津田塾大学津田ホール』でコンクールのピアノ伴奏にいらっしゃいますか???明日、新垣さんが渋谷区千駄ヶ谷の津田ホールにいらっしゃらないのでしたら、大久保まんまんの応援に津田ホールにいきます。新垣さんがピアノ伴奏で津田ホールにいらっしゃるのでしたら、私は行きません!大至急回答をお願いいたします」

大久保家と新垣に送られたメールの文面を比べると、前者は「ほっさがおさまったら」と表記しているように、体調が悪い時に使う「ひらがなメール」になっている。一方で新垣に送られたメールは、ごく普通の漢字が混じった文面だ。人によって文面を使い分ける二重人格者そのものだ。

佐村河内は、7月の新垣の「このままではバレる、やばい」という忠告と、その後の土下座のことを思ったのだろう。公衆の面前で二人で会う事を、極度に嫌った。

もとよりこの日の課題曲は無伴奏なのだから、新垣は行く必要がない。そのことを新垣が伝えると、佐村河内は「明日は津田ホールに安心して行かせて頂きます。ありがとうございました」とメールしてきた。

ところが、このコンクールの当日にもまた事件が起きてしまう。

・度重なる事件

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