童話「スーパーヒーローレボリューション」/#013
トム、テロを阻止する
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ミュシャはモニター正面の後方、少し高くなっていて全体が見渡せる場所、例えるなら野球やサッカーのスタジアムの実況中継の席のようなところに座り、ゲーム機のコントロールボタンがついたリモコンを持ちました。
「準備できたよ。」
ミュシャが言いました。
「ミュシャはね、ここにいる誰よりもバトルタイプのゲームが得意なんだ。」
とリーが言いました。
「それじゃあ始めてくれ。」
とカヴが言い、マイクがエンターキーを叩くと怪獣が暴れ始めました。モニター上にシミュレーションの爆発が起こり、もうもうと煙が立ちました。
すぐにミュシャの操作するロボットが怪獣の前に立ちはだかり、人や建物の少ない場所へと誘導するように動きます。
「見たかい。あの爆発が最初の爆弾だ。ログを記録してくれ。」
人気のない場所まで怪獣を引っ張ってくると、ロボットは攻撃を開始し、パンチを繰り出しました。力のこもったパンチが怪獣の胸にヒットして、怪獣がヨロけたところに連続攻撃でキックが炸裂します。
怪獣はたまらずに倒れてしまいました。ロボットは怪獣を取り押さえようとしてその上に乗りかかろうとしますが跳ね飛ばされてしまいます。
ロボットがビルの上に倒れてビルが爆発を起こします。
「第二の爆弾だ。」
とカヴが言いました。
その後も一進一退が続きますが、少しだけ怪獣が優勢な感じが見えてきました。
「今度の作戦はなんだか緻密に計算されているわ。」
とミュシャが言いました。
いつの間にかトムがミュシャの近くまで来ていて、そのコントロールボタンの操作をじっと見ていました。
そのことにミュシャが気づき、そしてリーも気づき、
「君?」と声を発しました。
ジャンが、会話ができないトムの代わりに答えました。
「トムはゲームがすごく得意なんだ。間違いなく天才さ、オレが保証する。トムは自分に戦わせてくれないか?って言ってるんだよ。ミュシャさん、トムと代わってもらえないかな。」
「制限時間はギリギリだけど、あくまでもシミュレーションだし、それほど君が言うならちょっとやって見てもらおうかな。いいですよね、カヴ?」
とミュシャではなくてリーが言いました。
カヴがうなずくと、ミュシャは椅子から立ち上がりコントロールのリモコンをトムに手渡しました。
リモコンを受取り、ミュシャの代わりにトムは椅子に座ると、モニターを数秒確認した後、手際よくコントロールボタンの操作を始めました。
ロボットがスムーズに動き出し、怪獣の動きを予測して、瞬く間に怪獣を取り押さえてしまいました。
そこにいる誰もが驚き、そして大きな歓声が湧き上がりました。
「これは驚いた。本当に天才だな。」
とカヴが言いました。
「うちもゲームには相当自信があったんだけど、うちとは格が違うわね。」
とミュシャがため息まじりに言いました。
ソラはトムが活躍してくれたことが自分のことのようにうれしく思いました。
「今の戦いはシミュレーションであって、テロの作戦と、それを阻止しようとする動きを怪獣とロボットに見立てて可視化したものだ。だから、実はまだ実際は何も解決していない。今の動きの記録から爆発した部分を取り除いて、現実の行動に反映させることで、被害を与えないでテロ集団を取り押さえることができるんだ。」
とカヴが、おそらく僕とソラたちに状況を説明するためにそう言うと、マイクがまた忙しそうにキーボードを叩き始めました。
「そら、テロ部隊が動き出したぞ!」
モニターの中で顔の部分を赤い線で囲まれた男性の一人が動き出すと、やはり同様の顔を赤い線で囲まれた人たちが最初の一人に続いて動き出しました。そしてそれに合わせてセキュリティガードのカメラやドローン、そして人型のロボットが行動を開始したかと思うと、人気のないところに集団を追い込み、あっという間に取り押さえてしまったのでした。
群衆はマラソンの応援に夢中で、そんな捕り物が行われていることとはまったく気づかずにいました。ようやく異変に気づいて群衆がざわめき始めたときには上空にヘリコプターが3台現れて、テロの集団を引き上げて、そして、あっという間に空の彼方に見えなくなったのでした。
「ふう、無事終わったな。」
カヴがため息をつきました。
「大成功ですね。」
とリーが言いました。
「だけど、カヴ、まだオリンピックは終わってませんよ。また別の競技の会場でテロが仕組まれることはないんですか?」
とマイクが心配そうに聞きました。
「可能性はないことはないが、おそらく今回のことで警戒は強まることだろう。テロをコントロールしているのは実は政府の中枢のAIに他ならないのだが、その情報は政府の末端までは届いていないまずだ。テロ組織の犯行だと考えてセキュリティを高め、真剣にテロを阻止しようとするだろう。だが、念のため引き続き、監視は続けておこう。」
マイクがキーボードを操作してモニターの画面は再び16分割の画面に戻りました。
16の画面は順番に画像が入れ替わり、定期的に新しい場所が映し出されるのでした。
「カヴさん、聞きたいことがあるんだけど。」
僕がカヴに話しかけました。
カヴはにっこり笑って言いました。
「わかっている。お父さんのことだね。」
#013を最後までお読みいただきありがとうございます。
#014は4/19(水)に配信します。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。