『地獄おっさん』最終話

○ファミレス・店内・小部屋内

コウジ、部屋の中を観察する。
コウジ「どうしよう…何とかしてここから逃げないと」
6畳位の部屋。壁際には業務用品が積まれている。
床には、ネイルアートをしてある爪の破片や、長い巻き髪が束になって落ちている。赤黒いシミも転々とある。

コウジ「何だよこれ…アイツら、ここで生首のコを殺したのか?」
コウジ、呼吸も荒くなり、その場に倒れそうになるが、何とか踏ん張る。
コウジ「マサキも殺された…アイツらは、絶対にオレも殺す。何が何でも逃げるんだ!」
部屋を見回しても、逃げられる様な窓も何も無い。
積んである業務用品をどかし出す。
 

○ファミレス・店内・小部屋外

店長と男性店員の所に、おっさんもやってくる。
しかめっ面で、おっさんは店長に言う。

おっさん「おい、何か問題あるのか? 本当に始末出来るだろうな?」
おっさんの問いに、店長は軽く答える。
店長「大丈夫っすよ。ちょっとイレギュラーがありましたけど、ソッコー終わりますから」
店長、扉に向かって話しだす。
店長「オイ! もうお前は助けてやるから出てこいよ。…(笑いながら)ソコ、いろんな子の怨念で充満しちゃってるから、あんまり居ると、アンタ呪われちゃうよ。大丈夫、マジで殺したりしないからさー。もしソコにずっと閉じこもってるつもりなら、別にいいよー。ここオレの店だし、お前が餓死すんまで待ってから、扉を壊して開けるから」
おっさん「お前、出そうとしてるのか、脅しておるのか、わからんではないか」

音「ガシャン!」

部屋の中から、ガラスを割る音がする。
店長「ん?」
店員・男「あ! ヤバイっす! 壁側の上の方に小さい窓があるんですよ!」
店長「え? マジが! 人が通れるくらいか?」

二人の会話の横から、おっさんが恫喝する。
おっさん「早く追え!殺せ!」
店長・男性店員は、その言葉で弾かれた様に店の正面に向かい、外に出る。

○ファミレス・店の裏手・外・夜
コウジ、小さな窓から体をよじらせて、外に出てくる。
ガラスの破片で、全身に細かい切り傷ができ、血が出ている。
窓は、地面から2mくらいの高さがあり、そこから頭から落ちる様に、落下する。
コウジ「痛って…」
コウジ、立ち上がり、店を背にして走り出す。
目の前には、建物は何もない。コウジ達が先程通ってきた大きな道が1本あるだけ。

店長「オイ! 待てコラ!」

コウジの後ろから店長の声がする。
コウジ、必死に足を引きずり、走る。
道路にパトカーの姿が見える。

店員・男「あ! パトカーっすよ! マズくないっすか?」
店長「ヤベ! とりあえず捕まえろ! じゃねーと、オレらがまずいぞ!」

コウジ、店長・男性店員に除所に距離を縮められ、捕まえられる。

コウジ「た、助けてー! オーイ! 助けてくれ!」
店員・男「テメー、黙れよ!」
店長、コウジを仰向けにして取り押さえる。
男性店員、コウジの首を絞める。
コウジ「うっ…う…」

パトカーが止まる。

店員・男「あ、店長まずくないですか!」
店長「大丈夫だ! こんな夜じゃ、アイツらからは、よく見えてねーよ!」
  パトカーとコウジ達からは、50Mほど離れている。

夜で街頭も無いので、とても暗い。

音「バタン!」

パトカーから二人の警官が降りてくる。
店長は警官に聞かれない様に、小声で言う。

店長「やべーな。とりあえず普通にしろ! …オイ、お前、騒いだら確実に殺すからな!いいな!」
店長・男性店員、コウジを起き上がらせ、両脇からガッチリとコウジを掴む。
店長「何かしたら、本当に殺すぞ!」

警官二人がどんどん近づいて来る。
コウジ、警官の二人の顔が暗闇の中でも認識出来る距離になると、叫びだす。

コウジ「た、たすけて下さい! こいつら人殺しなんです!」

警官1「え? 君たちを何やっているの!」

警官二人、小走りでこちらに近づいてくる。
手には警棒を握っている。
コウジ、その場で暴れて二人に抵抗する。
警官、コウジ達の所につく。

コウジ「早く! 早く助けてくれ!」

おっさん「おーい! 真鍋くん、木田くん」

おっさん、コウジ達の少し離れた所から、大きな声を出す。

警官2「あ、片岡さん」
おっさん、歩いてコウジと警官の間に入る。
おっさん「(笑いながら)この悪ガキが! 大げさなんだ!」
おっさん、仏の様な優しい顔で笑いながら、コウジの頭を軽く叩く。
店長・男性店員は強くコウジを抑えている。
コウジ、暴れて警官に言う。
コウジ「早く! コイツら人殺しだ! あのファミレスの中で女を殺してる! このおっさんも、さっき女の生首を舐め回してたんだ!」
おっさん「全く…本当に近頃の若いもんは、自分を守るためなら、どんなウソでも付くな」
おっさん、苦笑いをしながら警官二人に言う。
コウジ「ウソじゃない! 助けてくれ! 本当なんだ!」
おっさん「真鍋くん、木田くん、この子はねー、食い逃げをしたんで、店員さんに取り押さえられていてね。そこに私がたまたま食事をして居たんで、取り押さえたんだ。…まぁー食い逃げだけならまだ良かったんだけどなー、葉っぱも持ってたからなー」
警官1「そうでうすかー、じゃーちょっと今効いちゃっているんですね」
おっさん「(笑って)だね」
警官2「良かったら、我々が署まで連行しますか?」
おっさん「いやいいんだ。非番で体が鈍っているから、自分でやるよ」

おっさん、終始笑顔で警官二人と話す。
コウジ、除所に青ざめ、力が抜けていく。

警官2「わかりました。では我々はパトロールに戻ります」
おっさん「連続少女失踪事件だね。…物騒でヤだよ」
警官1「片岡さんも、確か同じくらいの娘さんが、いらっしゃいましたよね?」
おっさん、下を向き、目をつぶり辛そうな顔をして、
おっさん「あぁ。だから、誰よりも許せない!」
警官2「…ですよね。…では、我々も頑張ります! その少年をよろしくお願いします!」

おっさん、笑顔を戻し右手を軽く上げて、
おっさん「おう! 頼んだぞ!」
  

おっさん、同じ格好、同じ笑顔で警官2人を見送る。
コウジ、また暴れ、大きな声をだす。
コウジ「あんた達! 何騙されてるんだ! コイツがその犯人だぞ! オイ! オイ!」

警官二人は振り返らず、パトカーに戻る。
パトカー、走り出す。

おっさん、またあの無表情・死んだ魚の様な目に戻り、振り返ると、店長に言う。
おっさん「おい、貸しだぞ。あそこまで言ったら、後始末が少々ややこしいからな」
店長「マジですいません…(少し笑顔になり)ただ、次の子は明日エステで全身磨いてきてくれるんで、楽しみにしといて下さい!」
おっさん「パンティーには血をつけないでくれ。…いっぱい舐めたいから」
店長「アノ日だったらどうします? 僕にはどうにも出来ないですから!」

男性店員、笑いを手で堪える。
おっさん、男性店員を見る。

おっさん「笑ってないで、早く片付けろ」
店員・男「はい!」

コウジ、その場で膝をついている。両手は二人に押さえられている。
店長・男性店員、コウジを見下ろす。

店長「もうお前、100パー死ぬから。マジで。さっきあんだけ、騒いだら殺すって言ったよな?…(笑って)って言っても、どっちにしろ殺してたけどさー」

店長、右手のコウジの大きめの指輪を見る。
店長「なにこれ、カッコいいじゃん」

○千葉・病院・個室病室・昼(次の日)

病室内には、ベッドに横たわっている年を取った女性、
花瓶の水を変えている、女性の看護士が居る。

看護士「昨日は教え子さんが全員来たんですか?」
女性「(首を横に小さく振りながら)うんうん。聞いていた話だと、二人来てないのよ。…あの子達にも会いたかったわ…」

病室のドアが開く。

看護士「あ、良かったですね。息子さんが来てくれましたよ!」

店長が花を持って入ってくる。

店長「母さん、体どう?」
女性「だいぶいいよ。ありがとう。今仕事中じゃないのかい?」
店長「うん、今日は店のクリーニング日だから、オレは休み。かわいいバイト達に任せてる」

看護士、店長から花を受け取って
看護士「まぁー、これもキレイなお花。花瓶取ってきますね」

看護士、部屋から出て行く。
店長の右手には、コウジのつけていた指輪が光っている。        


―終―

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