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運命のジャイプール③【インド#19】

ジャイプールでは、偶然の再会もあった。
宿の共有スペースでダラダラしていた時に、ふと1人の男がいるのに気がついた。

あ、あの人、あそこにいた人だ。

プシュカル湖のほとりのサンセットポイントで、インド人の子供とずっと遊んでいた男だ。
インド人の子供と喋っていて、肩車をして歩いている姿を見て、「なんだ、アイツ。何でインドのその辺のガキと戯れてんの。」と、かなり口が悪く毒舌的に表現するとそのように私は思った。
いけすかねえ男だと思った。
何となく印象的だったから覚えている。
その男の人だなと思って、気づいたら自分から声をかけていた。
「ねえ、数日前、プシュカル湖の夕日を見る場所でインドの子供と遊んでなかった?」
そう聞くと彼はこう言った。
「ああ、遊んでたよ。あの子に英語を僕が教えてあげる代わりに、あの子が僕にヒンディー語を教えてくれていたんだ。君もプシュカルにいたの?プシュカルから来たばかりなんだ。ヒッチハイクでね。2台つかまえてようやく着いたところ。1台目がオープンカーだったから暑すぎてやばかったよ。インドでオープンカーって見たことある?」
彼の返事の中に気になるワードがありすぎて、ひきつけられてしまった。

彼はイギリスから来たブラッドという青年で、行く先々で子供達の施設でボランティアをしたり、自発的に自分に出来ることで子供達をサポートしたりしているらしかった。
宿はカウチサーフィンやボランティア相手の家に泊めてもらうのが基本で、時々宿に泊まって休養をとるらしく、ジャイプールは休養のためここの宿に来たようだ。
しかも、その移動手段はロンドンからデリーへは飛行機だが、それ以外のインド国内の移動は全てヒッチハイクらしい。そして、これからも、ヒッチハイクでインドからパキスタンへ移り、ユーラシア大陸をヒッチハイクで移動してイギリスに帰るつもりらしい。
なにその意識高い系猿岩石みたいな深夜特急みたいな旅のスタイル。
私の中で、いけすかねえ男は、むちゃくちゃ面白い男に変わっていて、一緒に地図を見ながら、
「私もパキスタンには陸路で行くつもりだけど、パキスタンのビザはどうするの?」
「アフガンは通れないんじゃない?北側に迂回した方がいいかも。」
「ウクライナを避けるならどのルートで行く?」
という話で盛り上がった。
面白い旅をしていたり、面白いことを計画している人の話を聞くのはとても面白くて、こちらも勝手にワクワクしてしまう。
ボランティアの話になったので、私はマザーテレサの施設でのボランティア情報を教えてあげて、彼はダラムサラのチベット難民支援のボランティアの情報を教えてくれた。
意気投合し、
「ダラムサラで一緒にボランティアをする?」
「君も一緒にヒッチハイクでパキスタンに抜けるってのはどう?」
などの誘いも受け、現実的ではないと思いつつ、それも面白いなあと思ったりした。

そして反対側の隣に、見覚えのある帽子をかぶってざくろを食べている男がいた。
どこで見たっけな、この帽子。
この帽子かわいいよなあ。
あ、あの帽子!
3週間前のジャイサルメールの砂漠祭りで踊っていた人だ!

思い出せたのが嬉しくて、またついつい自分から声をかけてしまった。

「ねえ、その帽子をかぶって、3週間前のジャイサルメールの砂漠祭りにいなかった?」

「いたよ。この帽子はパキスタンで買ったんだよ。パキスタンからインドに来て、南下してきてラジャスタンを回ってきたところ。ところで、君もジャイサルメールにいたの?」

はい、私はどこにでもいる女です。
そしてストーカーと思われないように慎重に、
「あのー、私、その帽子が気になりすぎて、注目してしまい、砂漠祭りであなたの帽子の写真や動画などを隠し撮りしてまして…。」
と言って私のiPhoneの中の帽子の君のデータを見せた。
ヤバ過ぎる東洋人の告白に、彼は笑って動画を見ていたので、私は喜んで隠し撮りデータを本人に差し上げた。



すると、フランス人の帽子君がブラッドに、
「彼女も砂漠祭りにいたって!」
と報告し、ブラッドも
「彼女、プシュカルにもいたって!」
と言い、
「はい、私はどこにでもいます。」
と言って3人で笑った。

どうやら2人は別々で旅をしているが、ジャイサルメールで知り合って以来、移動は別々だが、各町で合流して、時々一緒に過ごしているらしい。
ブラッドに至っては、デリー空港から入国した日が私と同じだったことにも驚いた。私が夜行列車で吐きまくっていた頃、ブラッドはヒッチハイクで何台も車を乗り継いで砂漠まで来たのかと思うと、旅人の数だけ旅があるという当たり前のことに気づいて楽しい。
砂漠祭りの写真を、3人でそれぞれのiPhoneを見せ合いながら、「これ見たよ!」「この誰だか分からないアーティストのインド人の盛り上がり!」「私、この辺にいたよ」など指さしながら話していて、しばらく見てから、写真を見る指が止まった。

あれ。
ターバン大会?

ターバンを巻いた私も写ってるターバン大会の写真が、ブラッドのiPhoneの中にあった。
私のiPhoneを見て確認すると、フランス人の帽子君とブラッドが、私と一緒に並んで写真に収まっているではないか。
3人ともターバンを巻いて笑っている。

これ、君だったの?
あ、君やな。
ここに俺もいるよ。
あ、ほんまやな。

なんだこの現象。

見知らぬ者同士が、異国の果てでターバンを巻く大会にそれぞれ出場し、並んでターバンを巻いていた3人が、それぞれラジャスタン州を旅して、砂漠祭りから900km離れたこのジャイプールで、今、3台のお互いのiPhoneを照らし合わせている状況。
面白すぎた。

そんな再会を経て、ジャイプール最後の夜に、宿の何人かと一緒に、ジャイプールのルーフトップバーに飲みに行った。
一緒にビールを飲んで、笑って、帽子君は「このすぐ近くのクラブでバチャータナイトがあるらしい!」と言って1人で消えていき、私は疲れたのでブラッドと一緒に2次会を抜け出して、歩いて一緒に先に帰って、お腹が空いていたので、Uber eatsで春巻きを食べた。
翌朝出会った帽子君に「昨夜はバチャータ踊ったの?楽しかった?」と聞いたら、「僕にバチャータという言葉は二度と言わないでくれ」と言っていた。
何があったかは知らないが、2人とも面白くていい奴だった。

ちなみにジュンさんも、この宿のスタッフに連れられて、ここのルーフトップバーで飲んだらしい。

そのあと、ジャイプールを去る時、
「また絶対に君と会えそう。デリーかな、ダラムサラかな、パキスタンかな、ウズベキスタンかな。どこかでまた会おう。」
「パキスタンに君も行くなら、フンザでこの帽子を君も買いなよ。すぐに見つかると思う。」
と言ってもらって、笑顔で別れた。

少しだけ挨拶を交わしたとか、バスで隣の席だったとか、ドミトリーで上下で寝たとか、旅には、いや人生には、自分の人生の物語に少しだけ現れる人たちが何万人もいる。
私は自分が主役と思って生きているが、すれ違う人たちもその人の人生ではその人が主役で、私はその人にとっては脇役やエキストラに過ぎなかったりする。
それがひょんなことから名前を持つ登場人物になったり、あの人、ここでもまた登場するのか、みたいなことが起こったりする。
旅、つまり人生って喜劇だなあとしみじみ思った。
悲劇やシリアスな場面もあるにはあるが、私の場合はかなり吉本新喜劇的テイストが多い気がしている。ズコーっとこけたり落とし穴に落ちることが多いが、最終的に笑って終わているのでまあいいやと思っている。

不思議な出会いばかりが起こったジャイプール。
ラジャスタン州旅のラストに相応しい、印象的なジャイプールでの日々だった。



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のりまき
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