ラジオ番組への応募作(エッセイ又はコラム):お題「八朔」1200字程度
八朔が好きだ。特に八朔の果肉を包む薄皮、じょう嚢膜(じょうのうまく)を剥いた時に、剥いた薄皮のほうに付いていってしまう実の端っこの果肉の粒(果実の粒の事を砂じょう(さじょう)と言う)が好きだ。この「端っこの粒」は程よく硬くいつまでも口の中で転がして楽しめる。そして転がし飽きた時に潰せば、八朔の酸っぱさが口内に広がり一瞬の至福を感じる。
八朔の皮を剥くにはフルーツナイフが必要だ。このナイフは、刃渡りが10㎝程度の、出来れば持ち手(柄)が木製のものが扱いやすく、手に馴染む。そして必須なのは、刃元にアゴがある事である。このアゴで八朔の皮に筋を入れることとなる。
八朔とナイフを手に持ち、ナイフのアゴで皮に丁寧に筋を入れ、その筋に沿って皮を剥く。筋を入れるときにはじょう嚢膜を傷付けないように、その深さに気を付ける。
筋のつけ方は4本にすべきだ。5本や6本にしようにも、どう筋を入れればよいかわからない。8本だと皮の幅が小さくなりすぎ剥きにくい。
ナイフでつけた筋に沿って皮を剥き、果実丸ごと取り出す。この時ヘタの部分をうまく取り外さないと次の工程が難しくなる。このヘタの部分の事を「果梗部(かこうぶ)」と呼ぶ。ヘタがついたままだと、薄皮の周りについている白い筋が取りにくい。そのため果肉を取り外すときは少し回すようにして、ヘタの部分が果肉についてこないようにする。ちなみにこの白い筋の事を「アルベド」といい。ラテン語で「白さ」を意味する。
丸ごと取り出した果肉についたアルベドを丁寧に取っていく。この時、ヘタのほうからシリのほうへ向かってアルベドを取っていく。このシリの事を果頂部という。果実の頂、つまりてっぺんという字を使うのは枝から下向きに生っていても果実の先はこのシリの部分となるので頂という字を使うのである。トウモロコシのような上向きに生る実をイメージするとわかりやすい。
アルベドが取りにくい場合は、フルーツナイフの刃先で軽くこする。そうすることでアルベドがじょう嚢膜から剥がれ、取りやすくなる。私の好みは果実を丸ごと残したままアルベドを全て取り除き、黄色のまんまるな果実の状態にすることである。
この真ん丸な状態で砂糖漬けなどにするのも良いが、ここではその先の工程に進んでいく。丸ごとの果実の果頂部にそっと指を入れ2つに割る。その割った半分から房を順に取り外していく。この房の形の砂糖漬けも良いかもしれない。
取り外した房の薄皮、じょう嚢膜を丁寧に取っていく。この時、爪で剥き難いときはナイフで薄皮に切れ目を入れるべきだ。でないと爪を痛めることがある。こうして薄皮を剥く時に冒頭に言った端っこの粒はできる。これを後で楽しもうと思いつつ、まずは大きな果肉をほおばり、八朔を楽しむこととなる。
さて、読者の皆さん、この短い文章でいくつか新しい言葉を知ることができたかと思う。これが文章を読む楽しみの一つかと思う。
(文字数1201字)
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