#3 内部監査部門に集う人々 ~金融機関の場合 後編~
こんにちは、のりのりです。これまで3社で15年ほど内部監査の仕事をしてきました。前回に引き続き、金融機関の内部監査部門のお話です。
金融機関内での監査のタイプ
金融機関の内部監査部門はどんな感じか?今までの話を少し別の視点からまとめます。まずは監査の種類について。
担当が細分化されて色々なタイプの監査が実施される
金融機関の内部監査部門は事業会社に比べて規模が大きいです。そのため、監査対象別にグループやチームが分かれています。グループの名称や担当監査の分け方は各社色々で、分類の仕方はいくつかありますが、監査内容やスケジュール別でみた場合の一例です。
拠点系監査
配属される人数が一番多い(でも減りつつある)。拠点での各種事務の実施状況と拠点の運営管理状況を確認する監査です。往査が短くて半日から、総合監査として1週間程度を数人の監査メンバーで監査します。
「検査」と言われがちですが、拠点の運営状況(拠点長のガバナンス、マネジメント、人材育成、コミュニケーション等)も監査対象であるためビジネス感覚が必要です。
本社系監査
事前準備~監査報告まで2、3か月程度、部署により業務内容が異なり専門的な知識が必要になるため、事前準備に時間をかける。ある意味オーソドックスな監査ですね。
監査対象として…
・いわゆる業態別の監督指針(旧金融検査マニュアル)に基づくリスク管理プロセスの監査
・本部部門の各部門の監査
・J-SOX
・システム監査
・海外拠点、子会社等は拠点系で見るか、本社系で見るかは会社によるようです。
テーマ監査
特定のテーマについて部門、部署横断的に実施する監査です。大体期間として半年くらい。監査テーマは大規模な法令の改正への対応や重要な施策など。BCPやAMLは、拠点、本社系監査両方でそれぞれみていますが、大きな変更、改正があった場合には、全部まとめて一気通貫で監査します。
とにかく法令等の読み込み、情報収集等からはじまり、往査先も拠点からバックオフィス、本社各部署と一つのテーマで関連するプロセスを見ていきます。個人的にはしんどいけれど、一番面白い監査です。
その他にも、監査テーマは色々とありますが、基本的にはリスク管理プロセスの監査がメインで、内部監査の教科書に出てくる(おそらく他の業種では一般的な)経費精算プロセスとか、購買・調達プロセスといった話がほとんど出てきません。このあたりは、次の金融内部監査士の資格も関連します。
資格取りますか?
CIAでなくても、、、、
前編で「CIA保持者に金融機関出身者が多い」と書きました。ただ、金融機関で働く内部監査人のCIA保有率が高いかというと?ではあります(決して低くはないと思いますが)。
何といっても通信教育と検定試験が大好きなのが金融機関の職員!!
内部監査部門に配属されてもちゃんとあります。
① 経済法令研究会の「金融内部監査士養成コース」
こちらは、終了すると「金融内部監査士」という国内資格がもらえます(日本内部監査協会へ登録)。私は監査担当として2社目でこのコース受講が必須になっていました(1社目は、こちらではなくCIAを推奨)。
講座カリキュラムは、内部監査の基礎の基礎と監督指針の解説です。私が受けた時も金融検査マニュアル(2019年廃止)の解説でした。
通信教育を受け、真面目に課題を出していれば取れる資格です。会社にお金を払って資格を取得してしまえば、更新時にCPEが必要ではありますが、負担は少ないです。日本内部監査協会の認定状況を見ると、年間300人弱の方が取得されているようです。
② 金融財政事情研究会の「金融内部監査人養成スクール’」
こちらは受けたことがないのでわかりませんが、内容は経済法令研究会の内容のダイジェスト版のような形ですね。
というわけで、大本の金融庁自体が「金融庁の内部監査の高度化」(「金融機関の内部監査の高度化に向けたモニタリングレポート(2024)」の公表について)の音頭取りをしているため、社内での研修と上記のような研修で、ある程度のレベルまでは到達できる環境ではあります。
CIAを目指す?
CIAを取得した場合のCPEの取得、更新時の費用と人事異動の可能性を考えるとCIAの資格取得は微妙です。ただ、資格取得に会社の補助があったり、部門内でCIAのテキストを借りて勉強したりといった形でCIA取得はできます。
CIAがどこまで必須かは、会社によって温度差がある感じがします。
結局、CIAを取得する=内部監査業務を続ける、他社への転職の時にプラスになるという意思がないとむずかしいと思います。
内部監査部門に集った人達はどこへいくのか?
そのまま内部監査人としてキャリアアップ
まずは異動の前に、内部監査部門内でのキャリアアップですね。役職による違いはありますが、内部監査に関する知識を身に着け、実践していくという意味では、金融機関の内部監査部門は環境が整っているところが多いと思います。
監査人として、監査プログラムの一部分の監査を実施する、ヒアリング等に同席するといった簡単な部分からはじめ、監査プログラムの作成や様々な監査を監査人として実施する、その後に主査(リーダー、主任)として監査チームを率いて監査を実施し、監査報告書を取りまとめるといった形で段階的にスキルを上げていきます。
比較的大規模な内部監査部門で担当が複数に分かれているため、部門内での人事異動で複数の専門性を身に着けるといったことも可能です。
他部署への転出
結局一番多いのは、社内での異動で。元々いた部署に戻る人が多いですが、コンプライアンス、リスク管理関係の部署、本社の各管理部門が主なところでしょうか。私は転職組でしたが、コンプライアンス部門に異動になり不正調査を担当していました。
1線の部署であれば、管理職等として昇進して異動する人や1線の中でも企画系の部署に転出される方(営業、事務両方で)も結構いました。
金融機関によっては、希望により内部監査を専門職として執行部門への異動させないところもあります。ですが、過去には執行部門への異動が基本的にないとしていた会社で方針が変わったために転職された方も過去にいました。
監査系の資格を持っている方々は結構悩ましい問題だと思います。CIAはまだそんなに維持費用もかかりませんが、公認会計士の方は難易度の高い試験をパスし、維持費用もかかるため、専門性が生かせない場合に転職を考えるか、社内でのキャリアを模索するか悩まれるところだと思います。過去に私が知っている方では、資格を返上して社内に残った方、会計士に戻る方の割合が同じくらいでした。
出向等
金融機関の場合、グループとして様々な子会社、関連会社があります。内部監査部門に所属している場合、グループ会社内の他社の内部監査部門へ出向、兼務になることは多くあります。
親会社(ホールディング)に出向等し、元々いた組織の監査状況をチェックするといった業務につくこと、また、従業員数の少ない子会社等の内部監査部門に出向し、監査人もしくは内部監査責任者として、実際の監査を行うほか、内部監査部門のレベルアップに携わることもあります。
ある程度年齢が進んでくると片道切符として関連会社や取引先等に出向、転籍もあります。内部監査部門をある程度経験し、CIA等の資格を取得している方であれば、内部監査のプロとしての需要があるようです。このあたりは、上で記載した日本銀行の「内部監査態勢の整備」にも記載されている理想のキャリアプランですね。
他社へ転職
様々な理由から、他社に転職される人はいます。
CIAが元々アメリカの資格であることから、CIAのキャリアについて「若い時に内部監査人として仕事をすると昇進が早い」とか、「専門職種として転職していくのが当たり前」といった話は聞かれたことがあると思います。ただ、日本国内では、管理職養成の意味で内部監査部門に配属するケースはありますが、昇進が早いとまではいっていません。専門職としての認知は進んでいるため、比較的年齢が上がっても転職できる資格とみなされているのが現状です。
若い人、中堅の人は、金融機関での内部監査人、監査法人、コンサルティング会社等で内部監査経験を生かした転職をされる方が多い印象です。金融機関での内部監査人の募集は、基本的に「金融機関の業務経験者でCIA尚可」なので、比較的転職はしやすい。逆に、その他の業態での内部監査人の募集は財務、経理の経験者、J-SOXの経験者の募集が多いので、内部監査の経験だけではハードルが高い感じです。
年齢が高め方の方が、内部監査以外の業務経験との合わせ技で、IPO準備企業の内部監査室立ち上げ、監査役等に転職されている印象です。
今回も文字数が多くなってしまいました。内部監査人のセカンドキャリアについては、IIAのCIAフォーラム研究会報告「内部監査のスキル・ノウハウとセカンドキャリアについて」がかなり詳しいのでそちらもご参考に。
https://www.iiajapan.com/leg/pdf/kenkyu/h4_2306.pdf
最後に
前編、後編と長文をお読みいただきありがとうございます!
書きながら、あれもこれもと考えているうちに時間がたち、かつ、長文になってしまいました。
今回は金融機関どっぷりの話でしたが、今後は内部監査そのもののについて、考えるところを書いていきたいと思います。
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自己紹介はこちらです。
https://note.com/noriko_kamiyama/n/n249bd2256f95?sub_rt=share_pw