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一年の締めくくりは 日本一不親切なペイフォワードイベントで ペイフォワード記事Vol.12

一年で一番寂しい日を 一番楽しい日にしたい

一年で一番寂しい日 12月29日

ある場所に住む子どもたちにとって一年で一番寂しい日、12月29日。その場所とは「児童養護施設」です。児童養護施設とは、「父母による虐待」や「父母の放任怠情」(ネグレクト)によって父母と離れて暮らす場所のこと。クリスマスを楽しみ年越しを目の前にしたこの日は、施設の中でも一時帰宅する子どもとそうではない子どもとで立場が分かれる日でもあるのです。

日本において児童養護施設で生活する子どもたちは約4万5千人。一番の入所理由は虐待で、その背景に一人親家庭や経済的困難があるといいます。

↓参考HP コンパスナビ 「社会的養護の現状」(2022/12/30閲覧)


↓厚生労働省による児童養護施設入所児童等調査の結果(平成30年2月1日現在)の資料が一時的に閲覧できなくなっていました。(2022/12/30現在)


日本一不親切なチャリティイベント「笑うお食事会」の誕生


福島市の「採用と教育研究所」所長半田真仁(はんだしんじ)さんは、福島市の児童養護施設の所長さんから「12月29日に子どもたちと一緒に過ごしてくれる大人がいれば」という相談を受けました。そこで仲間と一緒に、子どもたちのために何かできないかと奮い立ちます。


当初はボランティアを募ってみたものの、全く集まらなかったそうです。それぞれ年の瀬にやることがたくさんでボランティアとしては集まらない。そこで思考を変えて、「日本一不親切なチャリティイベント」を考案しました。
・大人同士の名刺交換禁止
・懇親会なし
・写真撮影禁止
・子どもとの連絡先交換禁止
・子どものアミューズメント施設利用費や食事代は参加者持ち

主人公はあくまでも子どもたち。あえて大人の都合を取り払い、子どもの視点に立つことで、子どもたちと心の交流をしたいと心底願う大人たちが集結するように。こうして子どもと大人が一対一で会話を楽しみながら食事をする「笑うお食事会」が2008年12月29日に誕生。2022年12月29日で16回目の開催となりました。

福島駅のすぐ近くにあるアミューズメント施設で遊んだ後、しゃぶしゃぶ温野菜にてお腹がいっぱいになるほど食べるのが恒例でした。これまでの参加者の方の体験談がこちらの動画で紹介されています。


ついに「笑うお食事会」に初参加

ホテルの扉をはさんで混じり合う 期待と恥ずかしさ

半田さんから「笑うお食事会」のお話を聞き、動画をみてイメージを膨らませていました。そしていざ自分でも参加することに。

今年の企画は、福島駅近くのホテルにて、大人も子どもも同じテーブルを囲み、テーブルマナーを学びながら食事を一緒にいただくというもの。少し早く会場に着きまずは大人と歓談。私のテーブルには5席あり3人の大人が席に着いたので、2人の子どもが座ることになりました。「笑うお食事会」の実施の経緯や注意事項を聞きながら、子どもの到着を待ちます。

会場は福島駅西口のホテル福島グリーンパレスさん
(主催者さんから特別提供していただいた写真です)

いよいよ会場の扉が開きました。結婚式の会場ともなるホテルの雰囲気にも飲まれず、すっと席に座った子は一人だけ。他の子どもたちは恥ずかしがってなかなか会場に入れず、大人たちが席から手招き。私たちの席には女の子と男の子が来てくれました。ようやく全員が席に着き、「笑うお食事会」のスタートです!

この扉の向こう側には、子どもたちにとって新しい世界が広がっています
(主催者さんから特別提供していただいた写真です)

楽しみな気持ちが不安な気持ちに・・・

会の最初は、バイオリンミニコンサート。ホテルの華やかな雰囲気に、バイオリンの美しい音色。特別感満載のスタートに。

さて、いよいよお料理が運ばれてくる時です。ところが。私たちの席に着いた男の子が、席に着いてからうつむいてちっとも顔を上げません。私の隣に座った女の子も、声をかけてもほとんど表情を変えず頷くか首を振るばかり。こういう場にいるのが嫌なのかな、コミュニケーションを取りたくないのかな、と、どんどん不安な気持ちになっていきました。

おいしい料理が運ばれてきて、大人が「おいしいね」とか「何年生?」などと話しかけても、一言くらいで会話は終わってしまいました。男の子は、結局ずっと顔を上げず一口も料理を口にしませんでした。私以外の大人は、自然にその場を楽しんだり、子どもたちの反応はどうであれ声をかけ続けているように見えました。そのせいで、ますます自分自身の気持ちの空回り具合が気になり始めました。

どうにかして楽しんでもらいたい。でも、どんなことを話しかけたらいいのかな。など、料理の味を純粋に楽しむ以外のことに頭を使ってしまっていました。

普段大人でもなかなか口にできないお料理
(主催者さんから特別提供していただいた写真です)

届いていた 信じられる大人の声

洋食のコース料理が最後に近づくにつれ、女の子も少しずつ笑顔を見せてくれるようになりました。少しほっとしてデザートも食べ、まったりとした時間に。

と、急に扉がまた開き、スペシャルゲストの登場です!ギターを持って現れたのは、DAIちゃん。元ロックバンドおかんのボーカリストのDAIちゃんは、半田さんや故吉成さん(ハグさん)と共に長年この児童養護施設の子どもたちと交流しています。子どもたちはDAIちゃんが大好き。何度も会いに来てくれているし、音楽もハートを揺さぶる内容。私もハグさんがご存命のときにBLTカフェでDAIちゃんのライブを聴いて大ファンに。知っている曲をたくさん演奏してくれたので一緒に歌い楽しく過ごしていました。

多くの出席者が瞬時にDAIちゃんの虜に
(主催者さんから特別提供していただいた写真です)

ところが、あることに気がついて手拍子ができなくなってしまいました。なんと、さっきまでずっと何の反応もしなかったあの男の子が、うつむきながらも両手で小さく手拍子をしているではないですか。私はその姿にすっかり心を奪われてしましました。

今日初めて会った大人の言葉に反応してくれなくても仕方がない。でも、子どもたちと継続して心の交流をしているDAIちゃんの歌は、ちゃんと子どものハートに届いているんだ。

そのことが感じられただけで、もしかして今日この子たちと一緒に過ごした時間は無駄ではないかもしれない、と思えるようになりました。これが子どもたちとの交流の第一歩になればそれでいいと思えたのです。そう思うと、目頭が熱くなりました。

ありがとう さようなら

全てのプログラムが終わると、子どもたちからの手作りのお土産をいただきました。この時、女の子がこれまでで一番の笑顔で「ありがとうございました。」と言ってくれました。私はこの笑顔を見られただけでとても心が温かくなりました。

子どもたちが帰って行くときも、会場の大人たちは最後まで手を振ります。別れがたく、泣きそうになっている子どもと大人もいました。それぞれのテーブルでドラマがあったようです。

私はこの児童養護施設に一度訪問したことがあり、施設長と面識があったので会が終わってからあいさつをしに行きました。そして、私のテーブルに座っていた男の子のことが気になり話題にしてみました。実は、彼は思春期のまっただ中。施設にいるときにも顔を隠したりしているそうです。さっき食事をしなかったのは、一概に大人のせいではなかったんだと思えて、さっきまでの複雑な気持ちが少し和らぎました。そうか、思春期も必ず子どもが通る道。この日しか会わなければ、彼の人生の数時間しか知ることはできません。でも、これから彼は精神的にもどんどん成長していきます。今後彼がどんな風に成長していくのかも見られたらいいな、と思ったのでした。

「笑うお食事会」へかける想い

「また来るね」 有言実行が大人の使命

半田さんがこの取り組みを継続しているのにはある理由があります。施設の方から「継続して子どもたちと関わってくれる大人が一人でもいてくれたらな」と言われたそうです。大人が施設を訪問し子どもたちと交流すると、別れ際に「またね」と気軽に言ってしまいます。でもその約束は本当に果たされるでしょうか?子どもたちは果たされることのない気軽な約束めいたことの積み重ねに絶望してしまいかねません。

そこで、せめて子どもたちが施設を出ることになる高校卒業まで12年間は継続したい、との想いで開催し、今回16回目を数えるまでになりました。参加者さんの中にも10回以上参加している方もいらっしゃるそうです。

「またね」を実現することは、大人の責任です。

半田さんとDAIちゃんは長年この児童養護施設に通い子どもたちと親交を深めていらっしゃいます
(主催者さんから特別提供していただいた写真です)

子どもは天からの授かり物

「子どもは天からの授かり物」とは、半田さんが口癖のように言っている言葉。それだけ半田さんの行動の端々に染み渡っている信念でもあるといえます。我が子とはいえ、自分のものとは考えておらず、立派に育てて天にお返しする、という想いだそうです。

今回私が「笑うお食事会」に参加して感じたこと。それは、この世の最大のペイフォワードとは、次世代へ希望のバトンを繋ぐこと。そして、子どもたちがたった一人でも信じられる大人と出逢え、この世にたった一人の自分自身を信じられるようにすること。私たちはこの年齢になるまで、様々な人たちの手によって命を支えてもらってきました。

しかし、大人の都合によって子ども時代を子どもらしい無邪気さで生ききることを奪われてしまうこともあるのが現状です。そういう出来事があると、自分の命は自分の物だからどんな風に扱ってもいい、という考えに陥ることすらあるでしょう。大人なんて信じられない、と思うこともあるでしょう。これはその家庭だけの問題ではないのです。子どもは天からの授かり物なので、社会全体で育てる必要があります。

会社のあり方が家庭のあり方を支える

半田さんの経営する採用と教育研究所は、物心両面豊かな中小企業が育つようサポートしています。その理由は、働く人は子どもの親である、会社が良ければ家庭も良くなる、家庭が良くなれば子どもの人生も良くなる、と考えるからです。

働く人々は家庭に帰ると父や母になる
中小企業の在り方が日本の家庭の在り方に
中小企業の物心両面の発展が日本の家庭を変える

中小企業が資本主義から「人本主義」へ変われば、家庭が変わる
12月29日 日本中の全ての家庭で、子どもたちとその本当の家族による本当の「笑うお食事会」が開催されるように中小企業が飛び立つときです。

上記の「笑うお食事会」紹介動画より

半田さんは、ご自身の会社での取り組みとこの日本一不親切なチャリティイベントの両輪で、日本のよりよい未来に向かって邁進していらっしゃいます。

「ありがとう」=「忘れない」

たまたま見ていたテレビ番組。限界集落に住み、地元の方との心の交流を紹介していました。その中でこんなエピソードが。田舎のことを忘れてほしくないから、東京に出ている息子たちに毎年漬け物を送るおばあちゃん。何かお返しがほしいわけではない。

ありがとうだけでいい
忘れないだけでいい

このおばあちゃんの言葉を聞いたとき、これが誰かに何かをしたくなる人の気持ちなのだと直感しました。

何か形ある物を返してほしいわけではない。ただただ、喜んでもらいありがとうと言ってくれるだけでいい。自分の存在を忘れないでいてくれることが一番嬉しい。

これは、「笑うお食事会」と同じではないでしょうか。

「笑うお食事会」で大人と子どもが連絡先を交換することはできません。当日写真撮影禁止だったので会場内の写真もありません。子どもたちにはこの日一緒に過ごした時間を楽しんでくれて、「ありがとう」と言ってくれるだけでいいんです。子どもたちにこういう大人もいるということを「忘れない」でいてほしいと思うから、また来年も参加します。

むしろ、出会ってくれてありがとう、今日まで生きていてくれてありがとう、と子どもたちに伝えたいのは私のほうです。

不完全燃焼の気持ちすら「忘れない」ためのプレゼント

最後に、過去に笑うお食事会に参加した方のエピソード動画をシェアします。

この動画に出てくる「不完全燃焼くらいがいい」という言葉の通り、私も初めての笑うお食事会の中で、どうしたらいいのか分からなくなる、持て余してしまう気持ちもありました。これも初めて「笑うお食事会」を体験した正直な私の感情として受け止めています。この気持ちがあるからこそ、私の中の子どもたちが存在感を増しているのだと思います。

来年以降私の気持ちがどのように変化していくのかも含めて、子どもたちとの再会を楽しみです。

最後になりましたが、記事のトップに載せた写真は、子どもたちからお土産にもらった手作りの薔薇の花です。「ありがとう」の感謝と共に、子どもたちの存在を「忘れないで」と語りかけてきます。

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