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若者の感性に「発掘」されるお互いさまの街ふくしま ペイ・フォワード記事Vol.68
お互いさまの街ふくしまが「贈与論」の研究対象に!?
10月28日に開催されたお互いさまチケット研修会では、嬉しいことがたくさんありました。
山梨県にある都留文科大学の学生が(トップ画像の左)、お互いさまチケット研修会が開催されるということを見つけて参加してくれました。彼女は現在「贈与論」というテーマで卒業論文に取り組んでいるそうです。「お互いさまの街ふくしま」が若者の感性によって発掘されたことはとても嬉しいです。
実は以前も「恩送り」をテーマに研究している長野県の高校生が、福島では恩送りの先進的な取り組みをしているということをインターネットで探し当てて来福してくれたことがあります。
これって、「恩送り」「ペイ・フォワード」「お互いさま」というキーワードが若者の間で注目されているということですよね。一人勝ちする社会ではなくて、互いに手を取り合う社会にビビッとくる若者の感性。日本の未来は明るいなぁ、今後どんなに素敵な世界になっていくんだろうとワクワクします。
使い込まれたノートを埋め尽くす想いのこもった質問
さて、その大学生がお互いさまチケットの関係者や、研修会で事例発表をしてくれたスピーカーさんなどにインタビューをしていました。卒業論文の執筆のために、たくさん事例や実践者の考えを集めたいのでしょう。彼女が大事そうに手にしている使い込まれてた小さなノートに目を遣ると、質問とメモがびっしりならんでいました。彼女の想いの強さが感じられました。私も彼女が事前に練ってきた質問に答えることで、これまでの取り組みを振り返り、深く考えるきっかけになりました。
特に印象的だったのはこの質問です。「相手が分かった状態で寄付することと、相手が分からずに寄付するお互いさまチケットでは何が違いますか」。これを聞いて私は思わず、「これを聞いてくれたか!答えたい!」と反応してしまいました。だって、これまで誰もそんなことは室温してくれなかったし、自分でもあえて言葉にしてこなかったからです。この質問をされた瞬間、これはとても本質的で大事な視点だと直感しました。
私はこんな風に答えました。
どなたが寄付してくださったか分かっていたら、いただいた方はその人に対してだけ感謝します。でも、誰からいただいたか分からない状態で寄付されることで、いただいた方は「もしかしてこの人かな?」「この人かも?」と、周りの人全てに感謝の氣持ちを持つことができます。だから、お互いさまチケットではより感謝の氣持ちが広がっていくのではないでしょうか。
お互いさまチケット発祥のBLTカフェではお互いさまチケットの購入者が書くメッセージカードがあります。そこには「ふくしまたろうさん、はなこさん」と書かれています。「なぜこのメッセージカードには名前を書かないのですか?」という質問をしたことがあります。そのときは、名前を書きたくない人もいるので特に名前を書く欄はありません、と聞いていました。確かに、いいことをするときにはわざわざ名乗らずそっと行う、という意味の「陰徳」という言葉もありますから、名乗らないという選択もアリですね。
今回大学生の質問に答えることで、お互いさまチケットを受け取る側にとっても、周りの方全体に感謝のまなざしを向けることができるようになる、ということに氣付けました。
お互いさまチケットの次のステージを見越した奥深い質問
「今後お互いさまチケットを広めていくに当たって気をつけたいことは何ですか。」
この質問もよかったんです。
最後の質問です、と言われたので、「今後はどんなことを目指したいですか。」とか、「どういう展望を持っていますか。」という質問が来るのかなと思っていました。でも、予想をいい意味で裏切るこの質問。
お互いさまチケットを広めることは当然のこととして、そのために何に気をつけなければいけないか、という現実的で実践的な意識を持っているなぁと感心!他の方がお互いさまチケットを広めようとしてくれたときにも参考になる視点かなと想い、喜んで答えました。
私のこの質問に対する答えは、「人と人と場所との繋がりを大切にすること」です。人と人、とはお互いさまチケットの贈り手と受け取り手、そして場所とは、その二人を繋ぐ導入店のことです。
お互いさまチケット発案者の吉成洋拍さん(愛称ハグさん)は、福島県に100カ所のお互いさまチケット導入店があれば、困ったときは頼り合えるお互いさまの街ができあがる、とイメージしていました。ですから、このお互いさまチケット導入店を増やそうと、どんどん声がけをしていた時期がありました。これはお互いさまチケットの存在を多くの方に知ってもらうためのファースト・ステージでした。
そしてあるときからセカンド・ステージに移行しました。それは「お互いさまチケット導入店でお互いさまチケットを通した心の交流がより深まるように愛情と工夫を重ねていく」ステージです。
今回のお互いさまチケット研修会で基調講演をしてくださった、元モスフードサービス専務取締役の田村さんは、福島県内のモスバーガーでお互いさまチケットを導入する前に、「大変素晴らしい取り組みだからこそ、うわべだけの取り組み、やれといわれたから形だけ取り繕うような取り組みにはしないようにしましょう」とおっしゃってくださいました。そのためにもお互いさまチケットを導入する方にとって「なんのためにお互いさまチケットをするのか」が明確でなければいけません。その裏付けはなんといっても、本人が感動することによって生まれる「腹落ち体験」です。
「お互いさまチケットをすることでこんなに感動的なシーンに出会えたよ」という他の方の話を聞いたり、実際に自分がお互いさまチケットを使ったり贈ったりしてそのよさを実感したり、そういう体験の積み重ねでお互いさまチケットのよさを納得して導入することが肝です。
それに、導入したからこそ見えてくる氣付きや疑問もあるはずです。「お客様にお互いさまチケットをどのように、どのタイミングで説明しようか?」とか、「贈り手さんはたくさんいるけれど受け取り手さんはあまりいない(またはその逆)、どうしよう?」とか、「使ってほしい方に優先的に使っていただくにはどうすればいいだろう」とか。
そういう疑問や課題をその店舗のみで何とかしようとするのではなくて、導入店同士で共有してアイディアを練ったりこういうやり方がうまくいきましたと共有したいるすると「お互いさまの街」がもっと広い範囲で深く浸透していきそうです。
さらに、贈り手さんも受け取り手さんもお互いさまチケットを通して愛情で繋がっているような「心の交流」をしていただけるようにする大切です。このことについては、以前の記事で紹介した、農家ピザくまのグラッチェさんの掲示物の取り組みが参考になります。
このように、今後はお互いさまチケットの導入店舗数を闇雲に増やしていくのではなく、お互いさまチケットという仕組みを使った価値観の変革が大切になるのだと考えています。そうすれば、お互いさまチケットがないところでも、お互いさまの精神が発動したり、感謝の心がうずき出してくるような、そんな愛に溢れる人たちでいっぱいの社会になるはずです!
愛の海を泳いでいる魚には水が見えない
彼女がお互いさまチケット研修会の後の交流会で語っていた言葉がとても印象的でした。
私はこれまで、自分の周りに愛が溢れていたことに氣がついていませんでした。
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なんて素直で素朴で希望に満ちた言葉でしょう!彼女の心の眼がまさに開かれたのですね。
私たちは、自分が日常生活を送られていることを当たり前のことだと考えがちです。今日ここで仕事をしたりご飯を食べたり、遊んでリフレッシュしたり安心して眠られることも。
そこにひとたび、世の中を感謝の意識で見ることのできる「お互いさま」というアイテムを身につけることで、世の中の見え方がまるっきり違ってきてしまいます。彼女の場合、「贈与」ということを研究テーマに世の中を理解しようとしていたら、「お互いさまの街ふくしま」を見つけてしまい、その中にあった「お互いさまチケット」というものをじっくり観察していたら、世の中に愛が溢れていたことに気がついたということなんですね。
「当たり前」でいられることの「有り難さ」に気がつく。
見えないけど確かにある、いつも接しているから氣付かないけれど溢れている愛に氣付く。
こんな素敵な贈り物をくれるのが、お互いさまチケットなんです。
福島の「ふあん」を「ふぁん」にする恩贈り
頭の理解と心の納得がすうっと一つに溶け合った彼女は、「お互いさまの街ふくしま」をどんな風に表現してくれるのか、今から楽しみです。
彼女には、「『お互いさまの街ふくしま』が第二の故郷だと思って、卒業論文を書き終えたらまた福島に遊びに来てくださいね」、と伝えました。だって私がまさに、福島の方の心の温かさのおかげで福島ライフを満喫できたからこそ福島に恩贈りをしたいと思っている張本人なんですから。
そう、私は福島ファンなのです。
東日本大震災時に起こったの福島第一原子力発電所の事故を受けて、福島に対して「不安(ふあん)」に思っている人が増えてしまいました。でもそれを福島という名前が世界に知れ渡った!という好機に捉えて、福島の「ファン(ふぁん)」を増やすことが私の恩贈りです。
福島のファン=福島を大好きな人、福島の楽しいことをどんどん増やしたいな。合い言葉は「不安をファンに!」