WKW 4K祭り小休止 アルピニスト/The Alpinist
ウォン・カーウァイの4Kレストア作品を観にとある映画館に通っているが、どうしても「恋する惑星」「2046」の上映スケジュールと自分のスケジュールがはまらない。どーしたもんかとよその映画館を探していたらちょうど今、観たかった別の映画を上映しているらしい。
自分はやらないけど、冒険とか探検とか、登山とかをやる人たちの作品は 割とすきなので、WKW 4K祭りの間隙をついて観にいくことにした。その感想です(ネタバレ含む)。
圧倒的な大自然、それと…
予告編にもある通り、人の立ち入りを拒むかのように屹立する山や崖。こんなものが同じ地球上に存在するんやなぁ、なんて綺麗なんやろう、特に満点の夜空と一緒だとまた格別やな、と、ただただその映像に圧倒された。
でも待てよ。カメラが山肌に寄って、よくよく目をこらすと…
ひ、人だ。人がいる。
文字通り垂直の岩に、そんなとこにいんのおかしいやろって位置に、人間がいた。それがこの映画の主人公、Marc-Andre Leclerc, マーク・アンドレ・レクレール。当時弱冠23歳。
命綱をつけずにたったひとり、通信機器も持たず下見もしないオンサイトで登るスタイルで、誰も成し遂げたことのない困難なルートを易々と、軽々と、踏破していく。素人目から見ても、めちゃくちゃ高度なクライミングスキルをお持ちなんやろなとわかるし、わざと無茶や無理をしてる訳では決してないのだが…その登攀映像がひたすらに怖い。下手なホラー映画観るよりよっぽど肝が冷える。
全編通してなんかずーっと心臓ドキドキしてたし、手汗かいてました。登っている御本人さまの方がよっぽど落ち着いていらっしゃっただろう苦笑
人柄
登頂成功したことをSNSで世界に発信し名声を得るとか、スポンサー契約を結び大々的に宣伝するとかには、とんと関心がないマーク。彼が行った初登攀や単独登頂は、そんなことしたらまたたくまに「いいね」つきまくり、スポンサーもつきまくるくらいの偉業だけども。
「誰かがいたら”単独”にならないから」とは、この映画の撮影班には内緒でロブソン山のエンペラーフェイス単独初登攀に挑み制覇したときに彼が言った言葉だが、端的に彼の人柄を表してると思う。特にスポンサーなんかついた日にゃ、もし天候の悪化で登ること自体諦める決断をしないといけないようなとき、足枷になりはしないだろうか。「自分を信じて資金や装備を準備してくださった方々に申し訳ない」とかなんとか(日本人的発想?)。そもそもマークなら、そんなこと1ミリも忖度しなさそうではあるが。
こういう面倒なことを一切合切断ち切って、自分ひとりで過酷な環境と対峙したい、一瞬一瞬を味わい尽くしたい、ということだと思う。私もひとり旅がすきなのでその気持ちはわかる。次元は全く違うけど。
そんな彼は別に他人を寄せ付けない孤高の人でもなんでもなく、笑顔がチャーミングな普通の20代の若者である。中でも印象に残っているのは、パタゴニアにある岩柱トーレ・エガーの冬季単独初登頂を果たすため、アルゼンチンはエル・チャルテンという小さな村に滞在しているときのこと。
お世話になってるホステルの、小さな息子ちゃんや飼い犬とあそんでいるときの満面の笑顔だったり。息子ちゃんに「大きくなったら自分の夢を叶えるんだよ」みたいなことを話す場面で、英語じゃなくてちゃんとスペイン語だったり。
最期
これからもマークに初登攀を果たしてもらわなければならならい難攻不落のルートが世界中にまだまだある、といったエンディングだとよかったのだろう。でもそうはならなかった。残念ながら。
この映画の最終編集中、撮影班の元へ彼がアラスカ州ジュノーで行方不明との知らせが入った。アラスカ出身のクライマー、ライアン・ジョンソンと一緒に、メンデンホール岩塔群メインタワー北壁で新ルート開拓中の最中だった。登頂成功は、彼には珍しくインスタグラムに写真を投稿していたこと、パートナーであるBrette Harrington, ブレット・ハリントン(彼女もまためちゃくちゃ技術力の高いクライマーだ)へメールしていたことで明らかだったが、その後連絡が途絶えていた。
山岳救助隊に捜索要請をするも、天候が悪くなかなか現場へ行けないもどかしさの中ようやく、現場の映像が流れる。
ヘリから撮影されたであろう、雪と氷の隙間から覗く1本のロープ。何が起きたか詳細は不明だが、これが全てを物語っていて、ぐっと来た。
その後の、ブレットや彼の母親のインタビューはいたたまれないものがあった。でも不思議と、悲劇といった感じではなかった。だってきっと、天国にある未踏の地を、易々と、軽々と、登り続けているような気がするから。
The Alpinist/アルピニストの感想をつらつらと綴ってみた。雄大な大自然と、美しいとさえ言えるマークの登攀能力に魅了され、ウォン・カーウァイ作品とはまた違うテイストで、観てよかったと思う。
おまけに、彼ら・彼女らの話す英語もすっと聞き取ることができ、日頃取り組んでいる多読多聴の威力を改めて感じた。日本語字幕を見ないようするのが大変だったよ…
さてさてまた、WKW 4K祭りの続きを…(*´ω`)