ショートショート 車窓から
鈍行の車窓が好きだ。
こんなに窓が大きな乗り物は他にあるだろうか?飛行機も新幹線も車もこんなに大きな窓はついていないだろう。この窓は、間違いなく外の景色を見せるために違いない。
車窓から外を眺める。
風景が窓枠の端から窓枠の端に移動する。
この風景はどこに行くのかなぁ?そんなことを考えている間にも、列車の窓には次から次へと新しい風景が生まれては消え、生まれては消えを繰り返している。
ぱっと隣の車窓を見た。あれ?
もう一度車窓を見る。
そして、違和感を確信した。
この窓は何かおかしいと。
隣の車窓をぱっと見る。
隣の車窓をぱっと見る。
ハァ
隣の車窓をぱっと見る。
ハァ ハァ
どこからか息切れが聞こえてきた。
この車両には誰もいない、はず。
「誰だ!」
…
正体はわからないが、まだ景色が見える時間。そこまで怖くなかった。気を取り直してまた車窓を見る。そして、隣の窓を見る。
あれ?鉄塔がなくなった。
元の車窓を見る。そして、隣の窓を見る。
あ、今鉄塔出てきた。え?
何となく正体がわかってきた。恐らく、誰かが身を隠すために隣の車窓の風景を映し出しているのだろう。すごい奴だ。
「バレてるよ」
そう言うと、全ての車窓がガタガタ動揺し、車両から飛び出していった。
何も見えない車両の中、思う。
車窓の風景とは?