第19話 木の上から新規営業せざるを得ない理由
起業してから3か月間、1本も電話がなかったが、植木職人の方と出会ってから、やれることが増え、チラシが変わり、毎日のように電話がかかってくるようになった。
ただ、電話を受ける事務員さんが日中事務所にいるわけでないので、会社への電話は僕の携帯電話に転送になるようにしていた。
木の上で剪定をしていても電話がかかってくる。新規のご依頼の電話なので折り返しに出来ない。メモ帖と小さなボールペンをお尻のポケットにいれて木に登り、「お電話ありがとうございます!」って木の上で電話を受けていたこともたびたびだった。
集客は100%ポスティング。
現場が終わったら現場の周りにポスティングをした。現場が入らない日には1日中ポスティングをしていた。
体育会の強みは「汗をかくのが好き」だ。ポスティングは苦でなかった。いろいろなお庭を見て回れたので楽しいくらいだった。ダイエットにもなる(笑)。
いや、そう自分に言い聞かせていたかもしれない。エリート会社員をやめてポスティングをしている自分を客観的に見ないようにしていた。
たぶん、グリーン業界で一番ポスティングをした人間だと思う。営業エリアはすべて自分の足でポスティングをした。それも場所によっては何度も。
チラシは「打ち出の小づち」になった。段々、「何枚配れば、何件電話があるか」という統計が取れるようになってきた。
次に現れる壁は「人手不足」。
当時の求人は、ハローワークが主流。ハローワークに行って紙ベースで探す形態だった。ここが旧態依然としている業界の「つけいるスキ」だった。
どの植木屋や造園会社も、求人コメントが「まあ淡泊なこと」。「造園工1名募集」でコメント欄が終わっている。
それに引き換え僕は、企業理念やどういう方と一緒にやりたいかなどを。コメント欄からあふれんばかりに書いた。
それは目立つ目立つ。下働きばかりで、チャンスを求める若い職人さんたちがバンバン申し込んで来てくれた。
ポスティングも、自分たちで配るだけでなく、新聞の折り込みやポスティング会社に依頼するシステムを作っていた。
場所も指定して依頼できるのだが、そこは自分で歩いてどこがいいかわかっているので、無駄なエリアは配らないように、○丁目まで指定してヒット率も上げた。
何枚配れば何件電話が来ることがわかっているので、採用も安心してできた。あっと言う間に5人、10人と社員は増えていった。