じぇい 最終話
その日もジムの帰り、準備中のお店に会いにいった。
特に用事があったわけじゃないけど、その頃はもう寄らないと帰宅できない感じ。
6時くらいだったかな?
オープンが7時だから。
なんかラブな会話をしつつ、せっせと準備するジェイ。
ソファに座って音楽を聴いていた。黒人さんのごたぶんにもれずジェイはブルースファン(まだラップ前夜、よ。)。結構勉強したよ。
その時お店の電話が。
聞き耳を立ててたわけじゃないけど、なんかもめてる。
だんだん様子がおかしくなる。
私もおかしいな?と思い始めてカウンターの方へいく。
そしたら、いつも二人のときは微笑んでるジェイが怒ってる顔で、
ちょっと出かけなくちゃいけない。ドアにかぎをかけておくから何があってもあけないで。
はぁ?私5歳児じゃないんですけど?
何なの?説明してよ。
いいから!信じて!ここにいて。でてきたら絶対にだめ。
すぐかえるから。
ほんとに?まってるよ?
ぎゅうと私を抱きしめてからいそいでジェイが出て行った。
何が起こってのか全く見当もつかない。
やくざでもくる?あり得るかもなぁ。
妙に冷静に、私どう見てもあの人の女には見えないから巻き込まれることはないかなぁとなどと考えていた。
まってもまってもかえってこない。
1時間以上まって、お店の電話がなんどもなんども鳴る。
重ね重ね書くけど、当時は携帯もってない。
ジェイかな?でもやくざだったらやだな。
でもなり続ける。
無言で電話をとってみる。
ジェイだった。
トイレに隠れて!
えぇえ~~!!隠れんのぉ?
いいから早く!
しばらくして、ドアの外でガタゴトガトゴト聞こえてきた。
誰かが、あけなさいよー!!とか叫びながらもめてる。
女みたい。
トイレからそおっと顔を出してみた。
入り口のドアが少しだけ開いてて、ジェイが女の人を中に入れないように立ちふさがってるのが見える。
ジェイのシルエットの向こうに見え隠れする、大暴れしているひと。
もう作ってるとしか思えないほど、絵に描いたようなスナックのママ。しかも汚い方の。40代後半ぐらいかな?声もつぶれてガラガラで。とんでもない化粧して、毛皮のコートを着ていた。
そこにいるのはわかってんのよ!でてきなさい!
この泥棒ネコー!!
皆さん、泥棒猫ですわよ。
そうそう言われる機会がないと思われます。
貴重な体験をしました。
ここでふっと切れちゃったのね、私。さぁーーーーっと冷静になっちゃったの。あ、そうなのかって。
ドアを中からどんってあけて、何なの、これ?なんなんですか?って自ら出頭。
あーやだこんな19歳。
お約束の真っ赤なマニュキュアを塗った、長ーい爪の手が、私につかみかかろうと伸びてくる。
ジェイはそのおばちゃんを必死で羽交い締めにして、引っ掻かれて血だらけ。
皆さん、これを修羅場とよばずになんとよぶ?
私ジェイさんのジム友達です。ここに来たのも初めてです。
私遠いところに引っ越すので、今日がお会いする最後なんです。
最後にいっぱいジェイさんのカクテルをごちそうになってお別れするところでした。落ち着いてください。
って、シラーッとした顔で言った。
あんた、この子は私のものよ。わかってんの?
えぇ、いりませんから。
ジェイはすごく傷ついた顔してたけど、無言だった。
何も言ってくれなかった。
このひとがスポンサーなんだね?
うんそう。
その日お店がおわった後、他のお店であった。
もう説明はいらないよ。わかったよ。
でもさ、私はあなたのなんだったんだろう?
そこでね、あんたこれがまた仰天。
ジェイの答えが 「スウィート・ピーチパイ」
何じゃそらぁ!なめとんのか!
あのね、文化の違いなんですよ。黒人さんは人生をパイに例える事がおおいの。「きみはボクのスウィートパイ」って言うのは、大事なひとってことだったんだ。(ピーチの部分は謎。)その事を知ったのはあれから数年後。そんな事知るわけないわさ。
一回もいってくれた事なかったもん。
もうだめ。ばいばい。もうあわない。ってかえってきちゃった。
ちょこっと泣いたけど。
やっぱりね。ほらね。みたいな気持ちと、あまりのお約束連発にうそだろ?みたいな気持ちもあって、あんまりめそめそはしなかった。
いっくらジェイから電話があってもでなかった。
お店が休みの日はジムに行くのもやめた。
ジェイがこれない日にしかいかなくなった。
しばらく距離を置けていたアンソニーにも会いにいくようになちゃった。
この事件で「屈折した男性不信」がかなり強固なものになってしまった。
男で壊された気持ちは男でしかなおらないのよ。
それがねーなおるんだなー、これが。
ここが私のついてるところ。
あ、そういえば後日談があった。
私ったら、夫とまだつき合ってる頃に、ジェイの店つれてった事あんだよー。ちゃんと私の事覚えてたよ。
でも私より、夫(英語はなす&話面白いと年上のひと)に会えた事の方がよっぽど嬉しそうだった。
楽しそうに話してる彼の顔を見て、私の中でちゃんと解決できたんだ。
——
2020年のNR: じぇいかわいそう。。。私ひでぇ
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